みかんの白いところだけでジャムをつくる
こんなことを試験会場で話している奴らが受かるはずもなく、加えて言えば当時の僕は医学部行きたくないと駄々をこね、Aに至っては大学すら行きたくないなどと抜かしていたので受かるはずもなく、2人とも浪人したのだがそれも昔の話……でもなかった。
なんと僕はAのいる大学を再受験すると言い出し、試験前日にAの下宿に宿泊したのだ。2度目の受験である。そしてA宅にてAがお手製のフィナンシェを食べている姿を見て僕は言った。
「そういやさ、結局みかんの白いとこでジャム作ったの?」
「あっ!作ってない」
「やるか」
「やろう」
そういうことになった。
みかんの白いところだけでジャムをつくる
準備編
という訳で僕が試験を受けている間、Aは自費でみかんを買ってきてくれていた。泊めてもらいながらみかんも買わせたことになる。その数なんと22個。これを……
ひたすらに剥いていく。「彼女できないね」とか「俺の人生どうなっちまうんだ」とかそんな話をしながら20分ほど。みかんの白いところは汚らしく、白いところを丹念にはがされた果汁の詰まって実の方が正直旨そうに見える。僕たちは何故こんなことをしているんだろう。
そして22個のみかんから取れた白いところがこちら。キャベツの千切りにしか見えない。計25g。希少部位だ。
たっぷりとれたみかんの実は一部ジンに漬けて冷凍する。大変美味しそうだ。僕はジャムを作り次第帰るので食べることも呑むこともできない。
そしてここからが本番。いよいよジャムを作っていく。今回は「みかんの白いところ」で作るという点に重きを置き、必要最低限の手順で進めることにした。この時点でぼくは「繊維が残って鍋底に張り付き、砂糖水の染みた和紙みたいなもの」が出来ると予想していたし、Aも「目的が見えない行為をしておりやる気が出ない」と言っていた。お前が始めた物語だろ。
煮る編
普通のジャムのレシピを頼りに重量比70%ほどの砂糖を量る。
これを温めて
うわぁ……
食材で遊んでいる感というか、良くないことをしている感が強い。キャベツの破片をとりあえず煮てみましたというか。果たしてほぼ繊維だろう白いところを煮詰めたとてジャムに出来るのか。
レモン汁を小さじ1入れる(みかん果汁でやるか悩んだが白いところではない部分の投下は何か違うのでやめた)。
さてある程度煮詰まってきたのでここで味見してみます。どんな感じかな……
まっず!!!!!!!臭!!!!!!
味はえぐみが強く、水道水から作った湯と草っぽい(木べらのせい?)匂いにレモン汁の匂いが混ざって……オエッ!!!!これ……どうしよう
味を整える編
香りづけのために、みかんの皮をすりおろしたものを少量入れます。白いところだけで作るには香りがなさすぎた。
さらに製菓用のブランデーを投入。香りを誤魔化していきます。
味はもう砂糖しかないのでさっきと同じ量を入れます。なんとかなれー!!
ここでまた味見をば。味は……砂糖だね。香りは、まだうん臭い……みかんを食べるとき、その爽やかな香りの中に少しだけ感じる草っぽい嫌さだけがここにある……
逆に言えば、みかん食べるときは白いとこ食べないほうが楽しめると思います。臭いから。栄養なんてどうせ大したことないよ。取ろう。
仕上げ編
もう引き返せないので煮詰めていきます。繊維が少しずつほぐれてきて……味見すると大分マシ!!少し臭いくらい!!!なんかも見た目は生姜とか洗濯機にいれたティッシュの黄色いverみたいな感じですが。
大分水気が残っていますがこれで完成。切り干し大根にしか見えません。みかんの白いところジャムが109gできました。重量の4割が水!
こいつを冷蔵庫に入れて寝かせ……ている間に
晩酌です。鉄板焼きは旨い。沢山食べて飲みます。酒の力であんなジャムのことなんかは忘れ……もう家に帰ろうか……
忘れられませんでした。みかんの白いところジャム、完成です。
実食編
さて……これを食べる時が来ました。僕はいざとなれば、これを残してさっさと家に帰る覚悟です。まずはAが多めの一口。
A「ん?悪くない?いや後味は悪いが」
舌が狂っていました。僕もしょうがないので舌先分くらいをスプーンに取り……
ぼく「あれ?思ったより……マーマレードになってる。あっ後味悪いな」
なんとみかんの白いところジャム、言うほど悪くないです。
後味に繊維質が残るのは悪いけど、お湯臭さと木臭さがなくなってみかんの香りがし、味も苦味がアクセントになっててかなり砂糖が強いマーマレードって感じ。なによりファーストバイトがジャムっぽい、口に残るけど。意外と食える。
A「自家製マーマレードって言えば通るな?」
ぼく「これ出されたら自家製だとこのレベルになるんだって思うレベル。不味いとは言わない」
A「今度友達が家に来たら何も言わずに出そう」
俺だと真相きかされたら、ちょっと怒ると思います。
とか会話しつつもパクパク食べてしまう。
ぼく「純然と砂糖の味だ……なんだろう、どっかで食べたことある気がする」
A「何か食べたことはある気がする……ただ砂糖の味がするお菓子……薬っぽい?」
みかんの柑橘系の香りと砂糖の単調な味がケミカルさを演出してるんですよね。
今回のジャムづくり、反省点としては砂糖を入れすぎたことと、みかんの皮を入れたこと。あの調整なしでも冷やし、寝かせたら悪くない仕上がりになったと思います。また2回目のチャレンジに期待しましょう。僕は参加しませんが……
しかし帰り道、ここで謎の効能が発見されます!!なんと……酔いが醒める!!食べてる間に体のアルコールがさっぱり取れました。これは凄い!!皆さん是非酔いを醒ましたい時にはみかんの白いところジャム、作ってみてください。
しかしこの効能は高校生のときなら気付けなかったな……あれから時が経ってお互い色々あったけど、今こそが2人でこうしてジャムをつつくタイミングだったんだと思う。
後日談
翌日の朝食にみかんの白いところジャムをパンに塗った報告が届きました。よくやるぜ。感想としては
「食パンと一緒に食べると繊維の感じが紛れる」
「ただ、マーマレードジャムほど香りが強くないのでそこもパンに紛れる」
とのことです。パンに塗る分にはマーマレードジャムの下位互換とはなりますがそれでもマズくはないのでお試しあれ!
それでは『食べるときに取り除いても良いし取り除かなくてもよい物クッキング』次回は卵のカラザで何かを作りたいと思います。さよなら!!
(終)
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