過去から未来へ(#シロクマ文芸部)
(本作は796文字、読了におよそ1〜2分ほどいただきます)
私の日記を読み返してみた。
今の生活に息苦しさを感じ、過去の自分に縋ろうと思ったのだ。一週間前、半年前、一年前……と、過去へ過去へと遡ってみる。
可愛い服を見つけた、仕事でミスした、母が退院出来そう、ウォーキングにハマってる、お客さまに喜んでもらえた、友達とランチの計画中、ゼラニウムを衝動買いした、新しいパンプス失敗かも、また食料を腐らせてしまった……
何気ない平凡な日常の、ほんの小さな出来事の寄せ集めかもしれないが、それでも毎日少しずつ、色んな経験を集積させていく。生きるってそういうことだ。
そして、改めて気付いたことは、時間の流れは不可逆的なものだということ。過去を振り返ることは出来ても、未来を先取ることは出来ないのだ。過去は思い出せても、未来は見えない。時の流れは一方通行。だから、日記は過去の記録を積み重ねる行為。明日の出来事は書けないのだ。
でも、未来を想像することは出来る。予測することも、期待することも。何より、これから自分で切り開いていくのが未来だ。そう、未来は作れる。
過去の日記を読み返しながら、その時、自分の未来をどう描いていたのか思い出してみる。そして、今の私と比較して、こんな風になりたかったわけではないことに思い至り、情けなくなる。
そう、こんなはずではなかった。
でも、何がいけなかったのだろう?
その答えは、日記を読んでも見つかるはずがない。いや、見つかったところで解決する術などない。やはり、時間の流れは不可逆的なもの。エントロピーの法則と同じ。過去は、決して変えられない。
だからこそ、未来を志向するために、過去の記録を綴るのだ。今からでも遅くない。未来の私が恥じない為に、私は私の記録を残そう。数年後の私の為に、私の軌跡を書き残すのだ。
今の生活に息苦しさを感じ、過去の自分に縋ろうと古い日記を読み返していると、数年前にそんなことを書いていた。
(了)