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【ルパンの消息】横山秀夫

※インスタに投稿した記事より、一部加筆修正してお届けいたします。


 長年、ずっと気になってた本です。
 横山秀夫先生の作品は過去に何冊か読んでいますが、印象としては、「高密度」「目が離せない」「スッキリと解決」というポジティブな反面、唯一の欠点は、少し重いことです。
「暗い」という意味ではなく、「読み応えがある」という、欠点どころか長所でもあるのですが、沢山のことがギッシリと詰め込まれているので、心して真剣に読ま込まないと存分に楽しむことが出来ないのです。
 もっとも、どんな本も真剣に読みますけどね。

 ご存知の方も多いでしょうが、横山先生は作家になるまでに、群馬県の地方新聞の記者として十二年ものキャリアがあります。記者時代は、県警の取材担当だったそうです。なので、『半落ち』『ロクヨン』『第三の時効』などに代表されるように、刑事目線の捜査をメインに書いた警察小説が多く、捜査の進行の仕方や警察の考え方、捜査方法とか段取りなどが、息遣いが聞こえそうなぐらい、すごくリアルに描かれているのも、横山秀夫さんの特徴だと思います。

 また、トリックや謎解きも超一流です。
 ものすごい数の伏線をばら撒き、それがどう繋がってくるのか全く予想も出来ないのに、最後に一気に畳み掛けるように、見事に回収されていくのです。
 もう、職人芸と言えるでしょう。

 私の大好きな綾辻行人先生のような、所謂古典的な本格ミステリではありませんが、横山秀夫先生の作品は、現実社会での生々しいミステリなので、良くも悪くも、どうしても「重苦しさ」を感じるのです。
 逆に言えば、そういう重厚にビルドアップされたミステリを読みたい時には、是非横山秀夫さんの作品を手にして頂きたいと思います。

 本書『ルパンの消息』は、そんな横山秀夫先生がデビュー前に書いたという、処女作だそうです。
 これまた得意の警察小説ですが、これが処女作だなんて嘘でしょ!ってぐらい、おそろしい完成度の作品です。それこそ、沢山の伏線がギッシリと詰め込まれていますし、色んな要素がとても複雑に絡み合っています。

 本書は、簡単に言いますと、時効まであと24時間という切迫した空気の中での取り調べにより、過去の事件を解き明かしていく物語です。
 事件の「謎解き」だけではありません。むしろ、メインであるはずのそれが副産物に感じるぐらい、警察の苛立ちや焦りの心象描写も素晴らしく、緊張感が怖いほどに伝わります。そして、物的証拠のない中、関係者の記憶を頼りに、矛盾や疑問を突き詰めていき、真相に迫っていくのです。
「警察小説」と呼ばれる作品は数あれど、ここまで「警察」や「刑事」といった人間にクローズアップし、捜査の苦渋や葛藤、対立や駆け引きなど、緊張感を生々しく描ける作家さんは、稀有な存在ではないでしょうか。

 それだけでも、目が離せないぐらいに熱中してしまうのですが、沢山の登場人物のドラマも面白くて、読み応えがあります。
 そして、四方八方に散らばりがちなストーリーが、事件も人間関係も最後に一点に収束していくのです。
 それこそが、全ての「焦点」に他なりません。
 そこに向けて、全てがキレイに収束していく様は、処女作にして、すでに「横山秀夫」というブランドが完成されていたことの証明に他ならず、ただ唖然とするしかありません。


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