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楽譜どおり!?

今日は、「楽譜に忠実」とはどういうことか
考えたいと思います。

私の演奏するクラシック音楽は、いわゆる「再現芸術」
自分の個性を出すのが良いとされる他の芸術とは違い
作曲家の意図に忠実であることが大事とされてます。

たとえば、有名なピアニストのメナヘム・プレスラーは、
他の人の作品を演奏するときは、
「塩胡椒は振っても、肉とか魚とか入れたらダメだ」
と言っています。

ちょっとのスパイスを加えるぐらいは許されても
自分のエゴとか、
曲に関係ないものを入れたらダメってことですね。

でも、「作曲家に忠実」ってどういうこと?
楽譜に書いてあるとおりに弾けば良いの?

そんな疑問を深掘りします。

友人の曲を弾きました

20年来会ってない作曲家の友人と
先日、ロンドンで再会しました。

直筆の楽譜を持ってこられたので、
家に帰って弾いてみると
心にささる、きれいな曲!
ということで、録音することに。

中間部、アルペジオの波に乗ったような部分
私の感覚だとちょっと前に進みたい感じ。
でも、楽譜には
「冒頭と同じテンポに戻る」

冒頭の遅いテンポで弾いてみると、
何とも言いがたい
昔の思い出に後ろ髪をひかれるような
醒めたくない夢の中のような感じ。

ステキ!
なるほど、こういうことだったのか!

てなわけで、楽譜に忠実に演奏、録音し、
YouTubeに公開!
特に自信のあるのは、
あえて遅めのテンポで弾いた中間部の夢の部分〜♪

作曲者自身がきいてくれて
私のメッセンジャーにメッセージがきました。

「すばらしい演奏をありがとう!!」
「あなたの、あの柔らかなタッチ、どうやって出すの?」
「他の弾き方で弾いた演奏は、もう考えられない!!」
と絶賛。

ふむふむ、そうでしょう、
と自己満足に浸っていたら
もう一つメッセージが届いて。

「でも、あのアルペジオの中間部はもっと速い方がいい」

え、自分が冒頭のテンポ、って言ったんでしょ!?
と言いたいのを堪えて
何だかおかしくなってひとりで笑いました。

楽譜に忠実、というのが
必ずしも作曲家の意図に忠実なわけではない
と、身をもって思い知りました。

モーツァルトのコンチェルトの場合

楽譜どおりに弾くのが
必ずしも良いわけでないもう一例。

モーツァルトのピアノコンチェルトは
作曲者自身がソリストとして演奏するように
作曲されたため、
細かい部分まで書いてないことが多いのです。

いわば、自身で演奏するための設計図のようなもの。

コンサートぎりぎりに仕上がったことも
多かったでしょう。
オーケストラのパートはしっかり書いても、
自分が弾く部分は、骨組みだけ書いておいて
ステージで即興的に装飾をつける、
という事をしていたのでしょう。

たとえば、イ長調K488の2楽章アダージオ、ピアノソロ、この部分。

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音が極限まで少なく、まばらな上、
(下の音域に移るとはいえ)
フレーズがまるごと、くり返されます。
モーツァルトが2回ともこのまま弾いていたとは
非常に考えにくいですね。

モーツァルトが4回同じ曲を演奏したなら
4回とも違った風に演奏したはずです。

現代の多くのピアニストが、
モーツァルトに対する畏怖の念より
(それともただの怠け?)
装飾を加えることを控えて演奏していること。

設計図のままで
聴衆に彼の音楽を提供していることのを
モーツァルトが知ったら
どんな反応をするでしょう?

この場合は、楽譜に書いていない音を
足して弾く方が、
作曲家の意図に忠実なのです。

ブゾーニの言葉

作曲家、教育者フェルッチョ・ブゾーニ(1866ー1924)
の言葉です。

「記述というものは、ある種の転写にすぎない。
抽象的な概念の転写。
アイディアは、ペンによって とらえられた瞬間に
もともとの形を失う。」

前回のブログで、
プラトンのイデア界みたいに 
理想郷に、最も理想的な音が存在している
話をしました。
その音に近づくよう練習する、
という話でした。

その理想のかたちというのは、
たぶん、楽譜に記述される前に存在するんです。

私たち演奏者にとっては
もちろん、楽譜が理解する糸口です。
でも、本当に、音楽の真の心に到達するには
楽譜の記述を超えていかなければなりません。

まとめ

私たちクラシックの演奏家は、
他人の作曲した曲を演奏する以上
作曲家に敬意を払うべく、
作品を読解、「解釈」します。 

でも、楽譜に書いてある一音一音を
守って弾くことが
楽譜のとおりに演奏するのが
必ずしも作曲家の意図に忠実なわけではない

それが過ぎると
音楽の心から離れていってしまう。
という話をしました。

参考になったら幸いです。

*文中にある、友人の曲を演奏してYouTubeに投稿したものは
ココからお聞きいただけます。

https://youtu.be/uFXPTYUqM5w

#クラシック音楽 #モーツァルト #音楽 #ピアノ




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