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ピアノ演奏には、選択肢が大切

前回、「最高の演奏をしたかったら、最高の演奏をしようと思わない」
という話をしました。
今回は、ステージの上での思考を、もうすこし深掘りします。

緊張感あふれる演奏、弛緩した演奏

皆さんは、緊張感にあふれた演奏と、弛緩した演奏、
どちらが聞きたいですか?

《エネルギーの塊のように、動き回り、
好奇心旺盛でハイパーな、子供 》

《何を聞かれても、返事も億劫そう、
無気力に肩をつぼめた、ティーンエイジャー 》

《社会的節度を学んだ大人 》

上の3つの姿勢を、想像してみてください。
どれが、一番理想のすがたでしょう?

演奏においては、「全部」です。

「ひとつの状態から、もうひとつの状態へ、自由に移行する能力」が、
演奏する上で、重要です。
言ってみれば、ひとつの状態にとどまらず、
「選択肢があること」です。

普通の状態から、スーパーサイヤ人になれる、
スーパーサイヤ人ブルーになれる

というような選択肢です。(笑)

「緊張感に、あふれる演奏」
いいですよね〜。
私も、弛緩した演奏よりは、緊張感にあふれる演奏がききたい。

でも、ずっと緊張した状態だと、疲れてしまいます。

パーヴェル・ネルセシアンの場合

パーヴェル・ネルセシアンという、素晴らしいピアニストのリサイタルを
聞きに行ったことがあります。

2時間のリサイタルで、
何と、前半のベートーヴェンは、
ずっと、P(ピアノ)からPP(ピアニッシモ)のみ、
テンポもゆっくりめ。

後半の、いちばん最後の曲になって、
今まで聞いたことないような、大音量、
怒涛のような、オクターブの連打。

たまげました。

これは、極端な例です。
ベートーヴェンを静かに、淡々と弾くことには、
賛否両論あるでしょう。

しかし、
前半の、単調さがあったからこそ、
最後の爆発は、超効果的でした。

カズオ・イシグロの小説を思い起こさせる
演奏でした。
彼の小説って、淡々と進んでいって、
最後に、感情の大爆発が待っているでしょ?

例えば、「忘れられた巨人」とか、「日の名残り」
(今、思い返しても、ウルウルしてくる)

ネルセシアンの、この例のコンサートは、
「最後に、特大クレッシェンド」
という形でしたが、
演奏の面白さは、
『緊張と緩和をくり返す』
によって深まります。

まとめ

今日は、演奏において、
「緊張」から「弛緩」状態へ、
選択肢があることが大切である、話でした。

ひとつの状態にとどまらず、
「大興奮状態」からカクテルを片手に持った、「完全チル」状態
に、自由に移行できる能力です。

最後に、私の師匠バーナード・ロバーツ氏から言われたことを引用します。

「私から、何にも学ばなかったとしても、これだけは覚えていてほしい。
あなたには、ピアノを弾く手があるのであって、
あなた自身が手ではない」

これだけ読んだら、何のこっちゃと思いますが…

言い換えると
「常に自分を客観視できる」ということです。

演奏中に、自分の感情や、状態に溺れない。
人形劇で、人形を操るパペッティアのように、
外からコントロールする能力を持つ、
ということです。
「選択肢を持つ」ということです。

#クラシック音楽 #ピアノ #演奏法  



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