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収入は努力や能力ではなく、需要と供給で決まる

ニュージーランドでワイナリーツアーに参加したとき、行く先々でいくつものワインを試飲させてもらいました。同じワインといっても、味は千差万別です。値段もそれぞれで、千円程度のものから数万円のものまで、各ワイナリー様々なグレードを取り揃えています。ワインには明るくないため、正直味の違いはよくわかりません。美味しいと思うものが安かったり、その逆だったり。

この値段の違いは一体どこからくるのか?と疑問に思い、とあるワイナリーのガイドさんに聞いてみました。「こっちのワイン(安い方)は、ぶどうを機械で収穫しています。こっち(高い方)は手摘みです。手摘みだと、悪いぶどうを選別できるので、味が安定するんですよ」。その他にも、金属の容器で醸造するか木の樽で醸造するかなど、製造工程に違いがあるそうです。なるほど。

そのようなにわかの知識を身に付け、日本に帰ってきました。すぐに仕事関係の会食があり、参加者の1人がワイン好きだとわかったので、私もなんですよ、と調子にのって話しを合わせました。首尾よく「高いワインはなんであんなに高いのか?」という話題になったので、私はすかさず仕入れたばかりのにわかの知識を披露しました。

すると、頷きながら話しを聞いていたワイン好きの知人がこう続けました。うん、それもありますね。あと、ものすごい高値がつくのは、結局は需要と供給なんですよ。5大シャトーなんてどの年でも10万は下らないですが、そのクラスの価格差は製造工程だけではつかなくて。どうしても飲みたい、コレクションしたい、という人が世界中に沢山いる一方で、供給は限られている。それで値段があがるわけです。

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うーん、なるほど。と思うと同時に、もう一つ重要な事実に気がつきました。考えてみれば、私たち自身のビジネスパーソンとしての価値、その一つの尺度である年収もこれと同じなのです。ある程度までは製造工程=その人の努力や、味=身に付けた能力で差がつきますが、大きな差は需要と供給のアンバランスがもたらします。

必要とする企業が多く、なり手が少ない仕事ほど給料は高くなります。どれだけ大変か、どれだけ難しいか、はそこには「直接は」関係ありません。数年の専門的な職業訓練が必要で、なってからも重労働、でも業界標準の給与は高くない、という仕事は結構沢山あります。

もちろん、努力や能力がその「大きな差」にまったく無関係ないわけではありません。需要が多く、供給が少ない仕事が生まれる理由の1つに、必要な能力を身につける難易度が高い、というのがあります。例えば「データサイエンティスト」は高収入な仕事の急先鋒です。高度な統計とビジネスの知識が同時に必要とされます。この場合、人一番努力してその能力を身に付けた人が、すなわち高収入に恵まれる人となります。

この結果を、人一倍努力した人=高収入に恵まれる、と受け取るのは危険です。努力によって身に付けた能力は、需要に比べた供給の少なさと「直結はしない」からです。例えば、ウルドゥー語を身につけるには、英語以上に努力が必要でしょう。学校教育で基礎を教わりませんし、教材も教育機関も圧倒的に少ないからです。

しかし、こと収入に関しては、ウルドゥー語より英語を身に付けたほうが圧倒的に有利です。なぜなら、英語を話す人を必要とする企業は沢山あり、それに比べると流暢な英語の使い手はまだ少ないからです。ウルドゥー語は素晴らしい言葉で、言語としての価値は英語に勝るとも劣りません。しかし、ことビジネスに関していうと、それを必要としている企業はあまりありません。

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要は「需要と供給のアンバランス」なのです。「スキルの希少性」という言葉を良く聞きますが、これも誤解を招く表現です。重要なのは、ただ希少であることではなく、需要に対して供給が少ないことだからです。ウルドゥー語のスキルは極めて希少ですが、需要が大きくないため需給のアンバランスは生まれません。

日本における医者の数は、だいたい400人に1人です。それほど希少ではないわけです。しかし、超マンモス校の一学年全員と1人のお医者さんを取り合う、と考えると、もっともっといてほしいですよね。需要と供給がアンバラスなのです。お医者さんが高収入なのはそのためです。

高収入の仕事は、必ずしも医師や弁護士のように資格化されているわけではありません。「データサイエンティスト」のように、名前がついて必要なスキルが認知されているとも限りません。例えば、「英語が流暢なB2B営業組織のマネージャー」は、高収入が期待できます。GAFAはじめ給与ベースの高い米国のIT企業がこぞって求めている反面、人材の供給が少ないからです。

このような仕事を「発掘」し、それに目をつけて、求められるスキルや実績を積んでいく。そうすることで、より確実に高収入に近づくことができます。そのときに必要なのが、収入は直接的には努力や能力ではなく、需要と供給で決まる、という視点です。もちろん能力や、それを身につけるための努力は重要です。しかし、するなら同じ努力でも、目的に向かって正しい努力をするべきなのです。

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医師や弁護士、会計士など、既に高収入だと知られている仕事には供給が途絶えません。多くの人が目指すからこそ倍率が高くなり、もともとの難易度のみならず、必要とされる知識の習熟度も高くなります。試験でライバルを出し抜かなくてはならないからです。要はレッドオーシャンなのです。

一方、例えば「英語が流暢なB2B営業組織の管理職」は、それらの仕事ほどは高倍率ではないでしょう。そこに需給のアンバランスがある、と気づいている人は、医師や弁護士ほどは多くないからです。いわゆるGAFAクラスだと年収2,000万以上も珍しくないですが(それでも米国と比べると低水準)、これは医師や弁護士の平均年収より高水準です。

このような仕事は他にも沢山あります。「ビジネスや営業への理解が高いデータアナリスト」。「フロントエンドのUI・UXにも知見が高いアプリ開発者」。このように独自の視点で市場を定義し、需給のアンバランスを見つけ出して、そこで必要とされる能力を身につけるために努力をする。これこそが、最も効率のよい年収アップの秘訣だと考えます。

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もっとも、ここに書いたことは全て「収入をあげる」という視点に立った場合の話しです。仕事をする理由はなにもお金を稼ぐためだけではありません。最重要の指標は必ずしも収入ではなく、人それぞれです。収入は需要と共有のバランスで決まりますが、それは仕事の尊さとは断じて無関係です。

また、努力をして能力を高める、というのは、それ自体人生を充実させる素晴らしいことです。私は趣味で世界の神話を研究していますが、それにどれだけ時間を使っても収入は1円も増えません。しかし、神話の研究は私の人生を豊かにしてくれます。だから、収入を上げる、という視点で考えなければ、自分の能力を高めるためのいかなる努力も尊い。そう考えています。

最後に、私の好きなワインを紹介させてください。「アストロラーベ」というニュージーランドの銘柄の、ソーヴィニヨン・ブランです。3,000円もしないテーブルワインですが、私にとってはこれが最高です。希少価値はワインの値段を高くしますが、自分にとっての美味しさや尊さはそれとは必ずしも関係ないですからね。

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