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寺ピアノの人に聞いてみた【御本人直筆】

こちらは寺ピアノ設置者武藤さんがご厚意で書いてくださった「ストリートピアノ設置までの経緯と想い」です。体裁を除いて殆どいただいた内容まんまで掲載します。ストリートピアノ文化に興味がある方は必見です!!武藤さん、本当にありがとうございます・・・!インタビュー記事をご覧になってない方はまずは↓こちら↓からご覧くださいね。

武藤正義:岩淵パブリックピアノ(寺ピアノ)主催、赤羽ストリートピアノ主催、王子ストリートピアノ主催、東大宮ストリートピアノ主催。本業は芝浦工業大学システム理工学部教授(大宮キャンパス)だが、スクエアゼット名義で音楽家として作曲・即興・ピアノ演奏・ライブ・配信も行う。音楽以外の趣味は、飲食店巡りと公園巡り。神奈川県逗子市出身。

赤羽・岩淵をストリートピアノの聖地に

武藤が住んでいる赤羽は「一番街」の飲み屋街や清野とおるさんのマンガが有名ですが、それら以外にもたくさん魅力のある街なんです。特に赤羽の奥にある岩淵エリアは、風光明媚な自然のある荒川土手の赤水門(旧岩淵水門)と隅田川の洪水を防いでくれる青水門を筆頭に、大きな観音像のある正光寺、長屋群をエリアリノベーションしつつあるシェアキッチン付きコワーキングスペースのコトイロ(co-toiro iwabuchi)など、宿場町の伝統と新しいムーブメントが交錯する、とてもホットで文化的なエリアなんです。個人的には伝統と革新の岩淵と言っています。そこで赤羽の飲み屋のイメージを覆すような新しい文化的プロジェクトとして、赤水門、コトイロにつけ加える形で、正光寺や商店街にストリートピアノを設置しました。


特に、装飾した誰でも弾けるピアノを、伝統文化が息づく日本のお寺に常設するのは世界でも初の試みではないかと思っていまして、今後、世界に向けて岩淵の文化を発信していくつもりです。お寺なだけに、赤羽・岩淵は日本を代表する、世界的なストリートピアノの聖地にしていきたいと構想しています。新宿の都庁ピアノ、住友ビルの三角ピアノ、横浜・関内BMIピアノがライバルですね。


現在でも「ストリートピアノライン」ともいえる、さいたま高速鉄道沿線には、浦和美園駅ピアノ、鳩ケ谷駅ピアノ、そしてここの赤羽岩淵駅1分の寺ピアノと、電車で20分以内の場所に常設ストリートピアノが3つもあるのです。赤羽からやはり20分以内にある渋谷・新宿・池袋にも常設ストリートピアノがあるので、浦和美園からストリートピアノツアーを開始すると、ちょうど赤羽岩淵が中間地点になるんです。寺ピアノを弾いて、前後に赤羽で飲食してもらって、池袋・新宿・渋谷のストリートピアノに立ち寄る、というのがモデルコースです。ちなみに日本におけるストリートピアノ発祥の地は鹿児島でして、ここは既に聖地ですね。


ところで、武藤は芝浦工大・大宮キャンパスで、コトイロ共同代表で岩淵や北区のまちづくりの若きリーダーになっている非常勤講師の織戸龍也さんといっしょに「ソーシャル・イノベーション」という授業を担当していますが、寺ピアノや主催している赤羽や王子のストリートピアノ・イベントも、地域社会に新しい風を吹かせるソーシャル・イノベーションの一環と位置づけています。 武藤自身は院生時代からゲーム理論という経済学の基礎理論を使った利他性の数理モデル構築やボランティア・NPOなど、市民活動に関する調査研究をしていました。00年代後半に海岸のゴミ拾いなどの環境NPOやまちづくりマルシェのボランティアに参加するうちに、織戸さんのような社会的起業家たちとの付き合いが多くなり、自分自身でも研究者や音楽家という枠を超えて、地域のアクターになりたいと思うようになりました。そこでちょうど2018年の3月に織戸さんらコトイロが手がける岩淵のエリアリノベーションに、2019年1月に、ストリートピアノというソーシャル・ムーブメントに出会い、その半年後には自分で主催をすることになりました。


寺ピアノ設置までの経緯

まず、常設の寺ピアノ以前に、ララガーデンという商店街で開催される赤羽ストリートピアノというイベントがありまして、vol.1は2019年6月1日・2日ですが、武藤がはじめて主催したストリートピアノです。これには2つの伏線があります。1つは武藤が通っているピアノ教室の生徒同士の交流を深めるためにもう8年間主催しているピアノパーティで、もう1つはコトイロ岩淵が主催する「宿場町まるしぇ」を手伝っていたことです。後者は地域社会やまちづくりの研究教育のフィールドとして、研究室の学生たちと関わっておりました。この2つの伏線が交差して生まれたのが、赤羽ストリートピアノでした。


具体的には宿場町まるしぇのブースづくりを一緒に手伝っていた仁科吉裕(にしなよしひろ)さんという地域のアクター(仕掛け人)と出会い、ララガーデンの理事長さんに繋いでもらいました。仁科さんとは赤羽や王子など東京都北区のストリートピアノを何度も共同で主催しています。赤羽ストリートピアノは2019年6月にvol.1、同年12月にvol.2、2020年の今年はコロナの影響で遅れましたが9月にvol.3を、王子ストリートピアノは2020年10月末と11月に開催でき、大変な盛り上がりでした。たとえば、赤羽のvol.3にふらっと来てくれたハラミちゃんとけいちゃんによる千本桜の連弾動画は、まだ3カ月も経っていないですが、はやくも400万回再生になると思います。


寺ピアノは、当初、宿場町まるしぇに合わせて開催されるイベントでした(寺ピアノ・フェスタ)。そのねらいは、第1に、人通りの多い商店街のイベントである赤羽ストリートピアノとは違い、ふだんあまり人が来ないけれども美しい本堂や境内をもつ正光寺や岩淵エリアを知ってもらうこと(地域文化の発信とシビックプライド醸成)。また第2に、ストリートピアノは子どもから現役世代・お年寄りまで誰もが楽しめるため、地域の人同士や地域外の人とそこで知り合えること(多世代交流・関係人口を意識したコミュニティづくり)。寺ピアノはこれら2点をねらったまちづくりの一環としてはじまりました。寺ピアノの正式名称は岩淵パブリックピアノですが、2019年10月にvol.1、2020年2月にvol.2を開催しました。特にvol.2は念願叶い、マルシェとの同時開催ができたので大盛況でして、ネット上にもこのときの動画を参加者がたくさんアップしてくれています。


寺ピアノの設置は、正光寺の住職、高橋寿光さんと相談して決めました。寿光さんとは宿場町まるしぇが正光寺で開催されたときに繋がりました。正光寺は地域に開かれたお寺を目指していて、マルシェ以外にも子どものイベント、境内の掃除イベント、ライブイベント、映画上映、落語などさまざまなイベントをいろいろな地域のアクターたちと一緒にやってくれています。寺ピアノもその一環です。


寺ピアノの常設化は、第1にはピアノを近隣住民の方に寄贈していただいたので、イベント時以外に遊ばせておくのはもったいないということがあります。ただこれより重要な第2の点として、赤羽ストリートピアノやマルシェとの共催での寺ピアノなどの非日常的なイベントでは、盛り上がりすぎて地域の方も含む一定数の方々がピアノを弾きにくいという状況が生まれました。つまり、こういったイベントではストピを毎週渡り歩いたり、動画をネット上にあげられたりする、腕に覚えのあるストピ常連の演奏者さんが一度に集まるので、「ストピビギナー」やそれに近い方々は遠慮しがちになってしまうのです。これは赤羽のような盛り上がるストリートピアノイベントが抱える最大の問題だったのですが、それをを解決するのが、寺ピアノの常設化でした。


ストピ実現のために工夫したポイント

10点ほどあります。まず1点目として、ピアノの装飾に工夫があります。武藤のいきつけの裏赤羽の飲食店(CircoさんとAzulさん)の壁画が気に入っていたので、その作者の大橋まなみさんという方に仕事としてお願いしました。大橋さんは美大を出られているプロの画家さんで、かつ赤羽周辺にお住まいの地域の方でもあります。YAMAHAさんのLovePianoなどの例外もありますが、基本的にはストリートピアノは地域のものだと思っていますので、地域の方々の力で作り上げていけるのが誇らしいです。地域に根差したストリートピアノは、シビックプライドそのものですね。じっさい地域の人びとが誇りに思っている赤水門(旧岩淵水門)と青水門(岩淵水門)がピアノの両側面に描かれ、住職の寿光さん、仁科さん、織戸さんと武藤の出会いの場ともなったコトイロの宿場町まるしぇがピアノの下のほうに描かれています。


つぎに2点目、設置場所ですが、正光寺本堂の扉前(屋外で屋根付き)、本堂内、観音堂という3箇所で試しました。2019年10月のvol.1で試した本堂の扉前ですと、本堂全体が反響して音が非常に大きくなり、正光寺近隣は閑静な住宅街ですので、クレームもありました。そこで、vol.2では本堂内に設置しました。こちらのほうが、ピアノのまわりが広く、様々な他楽器とのセッションも可能となり盛り上がりました。イベントでは、本堂内が良いようです。ただ、本堂は法事などで使われることも多く、常設での公開は難しいので、住職の寿光さんのお考えもあり、観音堂に移してこちらで2020年10月末から公開することにしました。本堂もそうですが、観音堂も音響がよいので、元々質のよいピアノがさらによく響きます。観音堂はふだんはガラス戸が閉まっており、入ることはできませんが、寺ピアノ公開日だけは入って観音様を直接拝顔することができます。観音堂の公開という意味でも寺ピアノは貢献しています。また、観音堂は外で聴くスタイルになりますが、境内のお庭は芝生や大樹が美しく、ピアノの音色とともにとても気持ちよい空間になります。散歩にふらっと来た親子連れの方々が足を止めていかれることもしばしばです。観音堂、本堂、いずれにしても美しく、なかなか設置できる場所ではないだけに、住職の寿光さんの懐の深さのおかげです。


3点目に、日程ですが、通常の常設ストリートピアノは毎日弾くことができる一方で、弾かれない時間も多く、奏者同士・聴き手同士あるいは奏者と聴き手との交流などが難しくなっていると感じていました。そこで日程をしぼって週末1日、平日1日の週2回で公開することにより、ある程度の人が集まって交流できる状況をつくりました。加えて、観音堂内には貴重な仏像が複数安置されておりますので、基本的には誰かが見張っていないといけません。また、武藤がギリギリ動けるのが週2回までということもあります。


ただこれについては、4点目として、監視とともに通知や視聴の機能もそなえたネット上でのライブ配信を行うことで、最終的には無人化を目指す研究としても取り組んでいます。ふだん人があまり通らないからこそ、ネット上からストリートピアノを視聴するというアイディアでもありますが、常設ストリートピアノのライブ配信は聞いたことがないので世界初かもしれません。しかし、このライブ配信は、当初、音が綺麗にネット上では聞こなかったために、今年(2020年)の8月・9月に何度も実験を繰り返さなければならず、苦労しました。特に、実験期間中は、コロナ期間中でもあったので(今このインタビューを受けている最中もそうですが)、多くの方を呼ぶことはできず、武藤が各所のストリートピアノで知り合った方々を何度かに分けて実験協力者という体裁でご招待いたしました。毎週のことだったので、これはかなり大変でした。


もっとも5点目として、現状では無人にはせず、武藤がお店のようにホストをしております。来られた方々をもてなしたり、交流を促進することができるので、このホスピタリティは他のストリートピアノにはない、寺ピアノ最大の特徴になっているかもしれません。武藤は奏者としても、いろいろなストリートピアノに足を運んでいて、そこで知り合う演奏者やストリートピアノ・ファンの方も多いので、友人・知人と再会できるピアノパーティという雰囲気はあるかもしれません。これは武藤の活動の原点でもあるのですが、出会いの場、人と人が繋がる場、パーティとしてのストリートピアノをいつも念頭においています。結局、ある個人の世界の広がりは、その人の人間関係の広がりだと思っています。人と人が繋がることで、いろいろなことが新しくできるようになります。世界の豊かさも人の心の豊かさも、人と人の繋がりが生み出すものです。ストリートピアノはその一助となるものと考えています。


6点目として、人を集める広報活動では、twitter、Instagram、FacebookなどのSNSを多用しています。武藤はピアノ奏者や作曲家としての「スクエアゼット」という名義の個人アカウントのほか「Piacross」というピアノイベントユニットというグループ名義のアカウント、「岩淵パブリックピアノ」「赤羽ストリートピアノ」という4つのアカウントを管理していまして、Facebookはともかくとして、twitterとInstagramは、それぞれアカウントがあるので、個人を含めると10個くらいのアカウントを管理していることになります。こういった広報と集客はふだんからの業務になってきますので、かなりの作業量になり、いろいろと他の仕事に支障が出がちになり悩んでいます。


7点目として、広報に関わることですが、チラシのデザインにも力を入れています。本来ならチラシのデザインはデザイナーさんに依頼すればよいのですが、主催者・設置者としての思いもあるので、どのチラシも武藤がパワーポイントで自分で制作しています。赤羽ストリートピアノのTシャツもデザインしています。自分でこんなにデザイナーの仕事をやることになるとは思いませんでした。岩淵や赤羽のイメージにも関わることなので、デザインには気を配りますが、一定程度のイメージづくりはできたので、今後は外注していくことになる可能性はあります。


8点目にコロナという観点ですが、不特定多数の方々が集まる本堂内でのイベントは難しいため、換気のよい屋外に人が集まる観音堂はよい設置場所になりました。また、常設にすることで、来客も分散するので、この点もコロナ対策になっております。交流をはかりつつも適度に分散させるのは、上述の日程とも関連しますが、ひとつの工夫ポイントですね。


9点目として、これはマルシェとの同時開催のイベントとしての寺ピアノ・フェスタや赤羽ストリートピアノなどのイベントでの工夫ですが、整理券を配ることにより、並ぶストレスから演奏者を解放しています。これにより、演奏者が自由に他の人と話したりしてイベントの雰囲気が和やかになるだけでなく、近くのキッチンカーや飲食店で飲み物や食べ物などを買えるので、これらのお店の売上にも貢献できます。なお、整理券を配布・回収するのに人手がかかるので、研究室の学生だけでなく、仁科さんが当日スタッフを組織してくれました。このストリートピアノ実行チームは、正光寺での焼き芋会など他のイベントの運営でも活躍しています。


さいごに10点目として、運営費については、教育研究の一環ということで、芝浦工業大学からいただいている研究費を一部、使用しています。また、北区の地域振興事業にも応募して50万円ほど北区から助成金をいただいております(こちらでライブ配信、調律、イベント経費などを賄っています)。ですが、調律費とピアノ輸送費などで、しめて1回のイベントなら10万円くらいでできるので、主催グループを立ち上げて、そのメンバーのカンパやクラウドファンディングなどを使えば、お金を集めることは可能なのではないでしょうか。私も東大宮ストリートピアノのときに、教育の一環として大学生にクラウドファンディングをやってもらいましたが、とてもよい経験になると思います。なお、赤羽ストリートピアノでは、近隣の飲食店等から協賛金という形で支援金をいただきました。仁科さんと一緒に回ったのでだいぶ軽減はされましたが、一軒一軒店舗を回るのは精神的にも大変でした。


ピアノを設置しようと思ってる人へアドバイス

自分の経験をもとにして言えば、マルシェ、子ども食堂、ゴミ拾い、趣味のサークルなどなんでもよいかとは思うのですが、既存の地域イベントに参加して、地域のアクターと繋がらないと難しいとは思います。地域のアクターは、ふつう地域の他のアクターさんとの繋がりやコネもあるので、運営スタッフや集客なども含めて強い力になります(社会的関係資本といいます)。


もちろん地域のピアノ教室やピアノサークルなどの団体を立ち上げていればやりやすいとは思いますが、個人だとなかなか相手にしてくれない可能性があります。武藤の場合は、仁科さんとの出会いが大きく、彼と相談しながら、ストリートピアノ事業を進めているので、地域プロジェクトでは一般によくいわれることですが、相棒役の人を見つけることがスタートかと思います。ちなみに浦和美園駅ピアノの主催者も似た形です。


つぎに、ピアノと設置場所です。ピアノは地域に根差すという観点からも、近所の方に寄付していただくのがベストです。地域の公共施設やお店などからいただくのでももちろん大丈夫です。お金はかかりますが、すこし遠いところから輸送するなど、どこからいただいても問題はありません。借りる場合にはピアノが壊れる可能性があることを、貸し手の方に了解をとる必要があるでしょう。設置場所のほうがおそらく難しいと思います。できるかぎり候補を出したうえで優先順をつけて、断られることを前提に、一番上の候補地から当たっていくほかはないです。ただ、なんのコネもないと断られる可能性が高いので、ここでも設置場所のオーナーとの繋がりが重要になってくると思います。


また、ストリートピアノはプロではない一般の方が演奏するものであり、音が出るものなので、全員が喜んでくれるわけではありません。苦情を減らすためにも、設置のすくなくとも一週間前までにストリートピアノイベント(ないしは新しく設置)があることを近隣住民の方々にポスティングして開催を事前にお伝えします。店舗などでは文書を渡すタイミングでお話もします。地域の方々と一緒にやっていくプロジェクトですので、なるべく事前に近隣の方々にお伝えするのは非常に大切です。


演奏者を集めるには、twitter、instagram、FacebookなどのSNSだけでも大丈夫だと思います。どれか1つ選ぶとすればtwitterがよいと思いますが、FacebookのイベントをつくってそのリンクをストリートピアノJAPANグループや地域の情報グループなどに投稿しておけばよいので、複数のSNSで告知することはそれほど手間ではないと思います。駅や商店街など、人通りがある場所ならSNSだけでも、聴き手は集まります。人通りがない場所なら、SNSに加えて、ポスター掲示やチラシ配布、口コミで広げるなど、なんらかの集客の方法が必要と思います。


2019年の年明けから仁科さんと設置場所を探していたのですが、まだこの頃はストリートピアノを知っている方も少なく、概念を説明するところからしなければならず、大変でした。しかし最近はストリートピアノも沢山設置されるようになり、さまざまなメディアを通じて、多くの人びとに知られるようになってきていますから、地域の方々の理解を得るのがかつてより容易になってきていると思います。上述したようにいろいろ大変なことはありますが、地域社会への大きな貢献にもなりますので、ぜひ興味のある方はチャレンジしてみてください。


ストリートピアノ設置にかける想い

1991年のバブル崩壊以来、日本社会全体は相変わらず閉塞感があり、失われた30年といわれ、日本の国際的な地位は低下する一方です。そんな社会全体を一気に変えることはできなくても、誰もが自分が住んでいる地域を変えていけば、社会全体を変えることができると考えてストリートピアノ主催活動をしています。もちろん選挙や世論などを通じて国政レベルで社会を変えていくことの意味はありますが、地域社会のよいところは、身近なだけに共通の関心も多く、個人が動くと、けっこう他の人も動いてくれる点です。社会心理学では「有効性感覚」というのですが、反響があるので、自分の活動の意味を見出しやすいのですね。


じっさい、寺ピアノを常設化してからは、イベントではなかなか演奏できなかったストピビギナーに近い方々や、心に傷を負った方々も演奏していただけるようになりました。引きこもりだったハラミちゃんがストリートピアノで自信を取り戻してスターへの道を歩んでいるのはストリートピアノ界隈ではよく知られていますが、寺ピアノや常設ストリートピアノが、ある種の社会的な癒しとして機能していることを実感しました。非日常的なお祭りとしてのイベントストピ、日常的な癒しとしての常設ストピは、両方とも相補的で重要な役割を担っていると思います。


誰でも自由に弾けるストリートピアノは子どもから現役世代・お年寄りまで、多世代交流が可能となる、なかなか他にはない仕掛けであり、地域コミュニティの核の1つになれる可能性があると考えています。各地域にストリートピアノがあることで、各地域の社会関係資本とシビックプライドが醸成され、市民自治を通じて、社会全体がボトムアップによい方向に変わっていけるようなムーブメントが起こり、それを仕掛ける役割を担うことができたら、個人でも社会に大きな貢献ができるのではないでしょうか。ストリートピアノは、YouTubeに投稿するピアノ奏者だけでなく、主催という役割を通じても、個人が社会に直接貢献できるような、大きなチャンスでもあると思います。

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