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マリナードの人に聞いてみた【ピアノ設置者インタビューvol.2】

ストピ設置者インタビュー第二弾!!今回は、執筆者の私が人生初めて訪れたストリートピアノ、BMIストリートピアノの設置者奥田さんに色々聞いてみました。

◆奥田正則さん(インタビューイー)
マリナード地下街と馬車道駅のストリートピアノの設置・運営を担うBMIストリートピアノ運営委員会会長。横浜中央地下街株式会社代表取締役社長。
◆かの (執筆者・インタビュアー)
ストリートピアノ情報発信Twitterアカウント「ストリートピアノまとめ」を運営。幼少期にピアノを習っていたもののクラシック音楽が苦手で挫折。以降十数年間ポップスや作曲を中心に趣味でピアノを続ける。
◇BMIストリートピアノ
関内を中心に設置されているストリートピアノ。BMIはB:馬車道・M:マリナード・I:伊勢佐木の3拠点を指す。関内のマリナード地下街と馬車道駅に設置されており、早朝から深夜まで年中無休。

※当該記事のヘッダーデザインは横浜中央地下街株式会社が商標登録しています(登録第6261065号)。


なぜBMIストリートピアノを設置したか

かの:本日はよろしくお願いします!!

奥田さん:よろしくお願いします。

かの:さてさて早速本題ですが!そもそもなぜBMIストリートピアノを設置されたのか教えていただけますか?

奥田さん:大きな目的は関内地域のまちづくりです。当時、JR関内駅南口前にあった横浜市庁舎が、2020年に北仲通地区に移転することになっており、移転後の関内地区のまちづくりが課題となっていました。

かの:市庁舎で働く方々や訪問客がごっそり移動しちゃいますもんね。

奥田さん:それに加えて、近年みなとみらい21地区や横浜駅周辺の開発が急速に進んでいる状況から、関内地域の賑わいを維持する必要がありました。あれだけ大規模な商業施設ができれば、どうしても人の流れがそちらに行ってしまうんですね。

かの:みなとみらい大規模ですもんね。。。

奥田さん:そんな中、まちづくりの企画を検討している中で、NHKのドキュメント72時間で放映された宮崎のストリートピアノ特集を目にした人がいまして、発案のきっかけになりました。

かの:なんという偶然!以前と比べてメディアがストリートピアノを特集することが増えましたもんね。

奥田さん:そこで横浜中央地下街(マリナード地下街)代表取締役社長である私、馬車道商店街伊勢佐木町1・2丁目地区商店街伊勢佐木町商店街という3つの商店街の理事長、有隣堂代表取締役社長(現会長)の5人をメンバーとしてBMIストリートピアノ運営委員会を発足しました。(※リンクをつける)

かの:うおおおスゴイメンバー過ぎる。。。

奥田さん:BMIストリートピアノのBMIは、「B:馬車道・M:マリナード・I:伊勢佐木」を意味していまして、海の方から一本に繋がっている地域なんですよね。ストリートピアノの力を借りてこの地域のまちづくりに貢献したい、という想いで運営委員会は活動しています。

かの:なるほど。設置したピアノはどこから調達したんですか?

奥田さん:ちょうどその頃に横浜市の施設である「横浜市青少年育成センター」にあったKAWAIのアップライトピアノ2台が電子ピアノに買い替えられるので使わないか、というお話を頂きました。なのでその好意に甘えて、無償で頂きました。

かの:これまたタイミングが良かったんですね。


雰囲気づくりへのこだわり

奥田さん:最初はまず馬車道・マリナード・伊勢佐木の真ん中に位置するマリナード地下街の広場に設置することにしました(平成30(2018)年12月に設置)。もともと殺風景な広場でしたが、壁と床と階段に赤を基調とした「SHARE THE SOUND OF MUSIC」のデザインを施し、環境づくりを行っていきました。

かの:資料を拝見しましたが、現在のマリナードストリートピアノって背景の壁にキャラクターが書いてあるんですね。僕が2年前マリナードを訪れたときは無かったような。

奥田さん:多分かのさんが訪れたのは設置して間もなくの頃だったんでしょうね。当初の装飾から少しずつ環境整備を行っています。第二弾の装飾の際は、五線譜が描かれたレコード盤のような円形のステージをイメージして床面の赤い装飾を拡大しました。また、伊勢佐木側のスロープの壁面にも装飾を施しました。更には演奏を聴いている人が座れるようにサークルベンチの設置も行いました。

かの:設置して終わりではなく環境整備に力を入れているのが凄い・・・!


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装飾前(左上)からピアノ設置前までのデザイン


奥田さん:第三弾・第四弾の装飾の際には、スロープ壁面への更なるデザインの追加を行いました。マリナード地下街のイメージキャラクターの港マリ子さん、夫の航平さん、愛娘のかもめちゃんが音楽を楽しむ姿をあしらいました。

かの:イメージキャラクターなんですね!

奥田さん:4枚の絵は春夏秋冬を表していまして、春はさくらをモチーフに管楽器を演奏する姿、夏はひまわりをモチーフに打楽器を楽しむ姿、秋はもみじをモチーフに弦楽器を弾く姿、そして冬は雪をモチーフにコーラスする姿をテーマにしています。

かの:デザインへのこだわりがとにかく凄い・・・!

奥田さん:ピアノへの装飾にも少しこだわっています。ストリートピアノ設置を検討していた時に、他の様々なストリートピアノを見る中で「ピアノに装飾を施すか」がテーマにあがりました。

かの:都庁のピアノやLOVE PIANOをはじめとして、デザインされたストリートピアノも多いですよね。

奥田さん:そうですね。ペイントされたピアノも素敵だと思いますが、マリナードの場合は「落ち着いた大人の雰囲気」をテーマに考えていました。赤い装飾の落ち着いた空間にポップなピアノはちょっと不自然だと思ったんですよね。なので、ピアノの黒を生かし装飾はシンプルに、「BMI STREET PIANO」を白文字で入れるだけに留めました。

かの:たしかにピアノデザインは他と比べるとシンプルですよね。

奥田さん:ストリートピアノを設置したからには、まちづくりという意味でも多くの人に来ていただきたい。今の時代SNSの力は非常に強く、訪れた方はピアノを演奏する写真や動画をSNS上にアップされると思ったんです。その中で「これはマリナードのピアノだ」と分かってもらえる雰囲気にしたい、という想いもあります。

かの:たしかにマリナードや馬車道のストリートピアノは、背景だけで分かりますね。

奥田さん:もちろん設置される方の考え方によると思いますが、私の場合はストリートピアノの雰囲気づくりにはとにかくこだわりました。

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左上(初期デザイン)から更に音楽を楽しめる空間に。


なぜマリナードを選んだのか

かの:ストリートピアノというと駅ピアノや商業施設への設置が多いように思います。マリナード地下街を選んだのには何か理由があったんですか?

奥田さん:ストリートピアノの設置を考えたときに、①屋内で雨に濡れる心配がない②ピアノの周囲に広いスペースがある③人通りが多いという条件を満たせる絶好の場所がマリナード地下街だったんですね。監視カメラもあり管理の観点でも適している場所ですし、地下街の防災センターにあるモニターカメラの映像を確認して利用者の人数も把握できます。

かの:資料を拝見しましたが、コロナ禍以前はコンスタントに一日50人も来ていたんですね。マリナードのストピは良く響いて気持ちいいんですよね。

奥田さん:ピアノの前後に壁(柱)があり、広場全体の天井も低い。ストリートピアノの音響には絶好の形状なのかもしれませんね。マリナードのピアノをよく演奏しに来てくださる常連さんからは「自分の演奏する音が後ろの壁に反響してとても心地よく聞こえる」と言っていただけます。

かの:もう一台を馬車道駅にしたのには何か理由があるんですか?

奥田さん:マリナードへの設置後、馬車道もしくは伊勢佐木への設置を検討しました。設置に適した場所を探している中で、横浜市のまちづくりを担う横浜市都市整備局と、みなとみらい線を運行する横浜高速鉄道株式会社の協力が得られ、馬車道駅への設置が実現しました(令和元(2019)年6月に設置)。

かの:馬車道のストリートピアノは比較的オープンな場に置かれていますよね。人通りも多いし音も良く響くイメージがあります。

奥田さん:マリナードの装飾は横浜中央地下街株式会社が中心となり比較的大規模に行いましたが、馬車道駅の場合はなかなかそこまでの装飾はできません。なのでパネルを使うなど工夫して装飾しております。馬車道は日本で初めてガス燈が灯った場所ということでガス燈のイラストをデザインしています。

かの:シンプルですが、とても素敵なデザインになっていると思います。マリナード地下街、馬車道駅に続いて伊勢佐木への設置は考えているんですか?

奥田さん:伊勢佐木にも常設として設置したい気持ちはあるんですが、まず設置する場所をどこにするか、さらにピアノの調達をどうするかを決める必要があり、具体的には進んでいないというのが現状です。

かの:企画段階なんですね。

奥田さん:一方で、BMIストリートピアノとは別なので私は関与していませんが、Go To商店街事業で12月に伊勢佐木の商業施設の前に期間限定で設置されていましたが、コロナの影響で現在中止されているようです。

かの:なるほど。購入は検討していないんですか?

奥田さん:ある程度のグレードのピアノを購入しようとすると、かなりの費用がかかってしまいます。寄付でいただくのも有効な方策であることは間違いないですが、場合によっては制約が生じることもあり得ると思います。この辺りは慎重に検討する必要があるのではないでしょうか。

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馬車道駅ストリートピアノにはガス燈のデザイン。


運営の中で困っていること

かの:ここまで聞いていると、色々な人の援助も受けられていて比較的順調に進んだ印象がありますが、何か困ったことってありましたか?

奥田さん:企画から設置までについては、私の感じる範囲では特に困ったことはありませんね。強いていうのであれば運営ですかね。実はマリナードのストリートピアノ、たった2年間でピアノの弦が3回も切れているんです

かの:!?!!?3回も!?

奥田さん:ピアノは低音部は1本の弦、中間部が2本、高音部が3本の弦でできていますよね。その内2回は中間部の弦が切れ、1回は低音部の弦が切れてしまいました。低音部の場合は弦は1本なのでその弦が切れると全く音が出なくなってしまったんです。

かの:そんなことがあるんですね。。。ピアノの弦が切れるだけでもレアだと思っていました。。。

奥田さん:マリナードのストリートピアノは基本2か月に1回調律しているんですが、調律師さんが言うには一般的には高音部の弦が切れやすいそうです。

かの:弦そのものが細いですもんね。

奥田さん:マリナードに設置しているピアノが製造されてから30数年経ったものであることも理由の一つかもしれませんが、低音部の弦がこれほど切れてしまうのはやはり弾き方が強い人が多いのかもしれないなと思っています。ペダルも一度壊れたことがあり、修理してもらうために何日間かペダルを使った演奏ができないことがありました。

かの:やはり色んな人が使う公共のものとなると、そのあたりの管理は難しそうですね。。。

奥田さん:極端に強く鍵盤にタッチしたり、肘やゲンコツで鍵盤を叩いたり、ペダルを強い力で踏む方がいらっしゃることも事実です。ピアノはデリケートな楽器なので、丁寧に演奏して頂けると嬉しいですね。飲みかけの缶コーヒーをピアノの上に置いて演奏する人を見かけたときはとても残念でした。

かの:缶コーヒーですか!それは悲しいですね。。。

奥田さん:ただ、あくまでも演奏される方のモラルの問題ですので、「ピアノに負担がかからないよう優しく演奏してください」と書いておくぐらいしかできません。ストリートピアノとして長く続けられるように、演奏される皆さんには「多くの人が楽しむストリートピアノなので、みんなで大切に使っていこう」という気持ちを持って頂きたいと願っています。

かの:(気持ちが高ぶって打鍵を気にしていなかった過去の自分に反省)

奥田さん:利用上の制限を極力設けたくないという観点で、マリナードは連弾やセッション、弾き語りなどもOKにしてきました。常識の範囲で自由に音楽を楽しんで頂けるような場所にしたい。更には、ストリートピアノ文化が、譲り合う気持ちや他人を思いやる気持ちを培う場になってくれたら嬉しいです。

かの:公共の場で同じものを使うなんて場面、子供の頃は公園とかありましたが大人になると滅多にない機会かもしれませんね。

奥田さん:それとコロナ禍対応については悩みましたね。昨年12月に連弾やセッションなどの制限を解除した時も個人的にはとても悩みました。また今回の緊急事態宣言の再発出を受けて、1/8に閉鎖しましたが、前々日や前日には他のストリートピアノの運営者さんに連絡を取って、それぞれの動向も参考にさせていただいたうえで方針を決めました。この辺りはピアノが設置されている環境や演奏者数に応じて設置者としてどう考えるかということになりますが、難しい判断でした。

かの:コロナ禍におけるストリートピアノのあり方も考えないといけませんよね。。。


ピアノ設置への想いはあるか

かの:ストリートピアノの設置を考えている人に対して何かアドバイスや考えはありますか?

奥田さん:あくまでも私の個人的な見解になってしまいますが、個人がストリートピアノを設置して運営を続けるというのはかなりハードルが高いと思うんです。

かの:やはり味方を探すところからですかね。

奥田さん:味方を探すことはもちろん大事ですが、設置し運営していくに際して、関係する方たち・支援してくださる方たちとストリートピアノに対する想いをどれだけ共有できるかが大事なのではないかと思います。

かの:想いですか。

奥田さん:ピアノが調達できたとしても、ストリートピアノの設置には、必ず設置場所提供者との交渉・調整が必要になります。調律や修理などにかかる費用をどのように確保するかも重要です。加えてピアノに関する事故・トラブル・苦情に誰がどのように対応するのか?万が一設置者本人が何らかの事情でピアノに関われなくなった場合の対応をどうするのか?など検討しておくべき課題はいろいろとあると思います。

かの:ストリートピアノが「公共の場に置くもの」ゆえの難しさかもしれませんね。

奥田さん:設置すると色々な観点で責任が問われます。これらの責任を負うだけの想いがあるかというのは非常に大事な要素の一つだと思います。

かの:「ストリートピアノ設置」と聞くと一見「置くだけじゃん」という気分になってしまいますが、公共の場を使うということがどういうことかをしっかり理解している必要がありそうです。

奥田さん:設置し運営する主体が団体であっても、団体内での意思決定の方法、役割分担(権限)をしっかり決めておくことが必要です。誰がキーパーソンとなるか、どれだけピアノに愛情を注ぎこめるかも重要でしょう。

かの:最初から常設にせず、一旦は期間限定でもいいのかもしれませんね。

奥田さん:BMIストリートピアノには、ストリートピアノをまちづくり・賑わいづくりの核としたいという想いが込められています。この想いがあるからこそやって来れたと思っています。特にマリナード地下街では、ストリートピアノ文化を通して、地下街を素敵なピアノの音色があふれる魅力的な空間にして活気づけたいという想いを強く持っています。

かの:ストリートピアノ設置にあたっては、まず「なぜ設置したいのか」「どれほど情熱があるのか」という部分を自問することが必要そうですね。

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マリナード地下街ストリートピアノ2周年記念ライブの様子


インタビューを終えて(メールにて)

(かの):インタビューありがとうございました!原稿を仕上げ次第確認依頼をお願いしますね!

(奥田さん):こちらこそありがとうございました!昨日は、思いつくままにお話しをしてしまいました。本来お伝えすべきことが漏れていたのではないかと懸念しています。そこで、補足説明資料を作成しました。

(かの):なんと!?!!?

(奥田さん):添付いたしますので、是非是非ご参考になさってください。

(かの):ぬおおおおお・・・(感激の涙)


奥田さん貴重な資料やお話本当にありがとうございました!!

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