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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯08竹中翔子》

「これが撮りたい!」ここで出会う多くの映画たちは、スクリーンいっぱいにやりたいことがあふれていて、つくり手の意志が詰まっている。不器用でも、不格好でもいいではないか。
伝えたいことがあってこそ、映画を作る意味がある。

今年は等身大のエネルギーに満ちた10代の力作が目立った。技術的な未熟さはむしろ武器となり、それらが魅力となって噴出していた。

『サンライズ』

高校3年生による『サンライズ』は特に印象的だった。
ヤシロは、将来に悩んでいる。好きな映画を撮り続けるか、映画は趣味にするか。自問自答するように卒業制作の映画を撮りはじめる。
先生と友人へのインタビューを用い、フィクションをベースにドキュメンタリータッチで描かれており、大人になることへの不安や、自分自身と向き合う。
等身大のメッセージはストレートでカッコいい。

“自分=作品”という映画表現における一体感は、時にそうした気持ちよさや、面白さを生む。
更にはそこにこそ“作家性”が見られ、その人にしか撮れない何か、は観客を魅了する。

『分離の予感』

その点において『分離の予感』は突出していた。
とある映画のオーディションで、偶然に再会した男と女。芝居が始まると、その内容は過去のふたりの関係を、浮き彫りにしていくものだった。
ふたりの役者、劇中映画のカップル、エチュードで演じる男女、監督と制作担当の女性と幾重にも重ねられた人間関係に引き込まれ、まんまとこの作家による映画という構造物に迷い込んでしまった。この監督、実はもう一作『春眠』という作品も出品しているのだが、同様の構造的面白さに加えて、《暴力・別れ・対話》という同一のテーマを基にしている。この二作の共通点を読み解いてこそ、作家としての技量に気づかされた。

『秋の風吹く』

そしてもう一人“作家性”といえば、単独で作り上げた、この作品の個性に勝るものはない。
ペン、実写、写真、フィギュア等、さまざまな手法で世の憂いをコミカルに描く7つの短編集『秋の風吹く』。たったひとりで複数のキャラクターを演じ分け、あらゆるアイテムを駆使しては、個人制作の極みをいく。
ところが、この短編集のラストを飾る作品タイトルは、なんと「くたばれ作家主義」。
ただならぬつくり手の意志を感じる、エンドロールにも注目して欲しい。

やはり、ここにやってくる映画は、伝えたいことにあふれている。
そして、敢えて言いたい。そんな映画にこそ、“作家性”を見出していると。

セレクション・メンバー:竹中翔子(映画館支配人)

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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