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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯11大久保 渉》

『ちあきの変拍子』
ここ数年、米子高専放送部から気になる応募作が続き、審査会議でも話題に。公式X(@hoso_YNCT)の多種多彩な活動報告にもぜひご注目を!

『ちあきの変拍子』

本作の個人的な見どころは、イマジナリーフレンドを起点としたフィクションと、”変拍子”とまさに呼びたい展開のドキドキ。抜群に速くて強いテンポ感は、動画の視聴も編集もごく身近に接する10代監督たちに共通する魅力かも。日進月歩の動画スキルの超吸収。パンパンと絶妙に切り替わるカットも、グルグルと絶妙に渦巻く悩みの種も、千々に乱れる主人公の心を奥深く表し続けていく。そしてまた、「わたし、統合失調症みたいなやつなんだ」と悩む千秋を、決めつけるように“弱い人”として色づけることはしない。その高校生の眼差しと、理解の広がりに、感じ入るものも確かにあった。同級生たちも絶妙!


『季節のない愛』

『季節のない愛』
入選監督の在学校・出身校に注目するのも、自主映画の楽しみ方の一つと言えるかも。東北芸術工科大学の卒業生を今挙げるとするなら、『ルックバック』、『チェンソーマン』と漫画に映画に注目を集める藤本タツキさんもその一人。今年は同校から渡邊咲樹さん(『チューリップちゃん』)も入選し、北からアツい風が吹く!本作の個人的な見どころは、直接的に何かを語らない、けれども響き渡ってくる様々な感情に胸を打たれるところ。ハイキングを経由する、音響、ショット、台詞の創意工夫。平然と喋り合う二人の胸中は? 人の心は、そもそも簡単には分からない。私の傍にいる大切な人も、表情とは裏腹に、痛みを抱えている最中かもしれない。当たり前なようでいて、一呼吸する必要のある、“想う”ということ。この84分の旅路は、私にも色々なことを考えさせてくれた。


『秋の風吹く』

『秋の風吹く』
本作監督の肩書は、“フリーター”。PFFアワードは、応募資格に学歴も年齢も制限がないからこそ、無限に広がる表現の可能性に呑み込まれる楽しさがある。過去にもフリーターと名乗る入選監督は数多く、各賞の受賞者も。本作は、正直に言って初めは「ふざけてる」とだけ思った。けれども、一次審査会議で竹中祥子さんが推薦し、自分の頭の中にもあの強烈さが残っていることに気づいた。そして二次審査会議に向けて再視聴して、私も絶賛側に。失笑している場合じゃなかった!オムニバス三話目の、自分の中でイイことしたと思った後の容赦ないあのやるせなさとかも、心底身に染みた。ふいに真理を突いてくるような、独自の批評と表現。オルタナティブな「ガロ」や「アックス」系との評価も。見た人の感想が一番気になる作品。竹中祥子さんの本作レビューもぜひ読んでほしいです!!

『鎖』

『鎖』
“独自の批評と表現”という点で言うと、本作もぜひ!抽象的なアニメーション、風船と民族衣装や、具体的な家族の姿や会話の挿入による、目を奪われるパフォーマティブな表現。そしてまた、結婚、性別役割意識の圧力、問題を男女で括ることのLGBTQへの抑圧など、監督が身辺を映すセルフドキュメンタリーという果敢な形態をとることで生まれた、言葉の重み。極めて特異な構成に、映画と対話する21分間を味わった。中国で起こる差別についてナレーションが語り出す声のトーンが絶妙で、全編に渡り、大声でまくしたてないことで目や耳を傾けたくなる強かな演出力を感じた。アートを介して、今のこの社会に、どう伝えていくか。新しいトガリ方をした一石を世に投じる監督を応援したいと思った。外国籍の応募者が増えてきていることも、発見や再発見と一層出会えるきっかけにつながっている。

セレクション・メンバー:大久保 渉(ライター/編集者/パブリシスト)

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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