見出し画像

<第9回>お金がないなら、アイデアを振り絞るしかない!?

『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』 
森岡毅著(角川文庫)

➊イントロダクション~東のTDRに並ぶ西のUSJ、V字回復の軌跡

本書は2014年に単行本として発刊、2016年に文庫化された、日本を代表するマーケッター、森岡毅氏の初めての著作です。この本で、USJ経営再建の具体的な戦略を知った方も多かったのではないでしょうか。

森岡氏は現在、世界初のマーケティング・ノウハウのライセンシング・カンパニーである㈱刀の代表取締役CEOに就任されています。最近だと、西武園ゆうえんちのリニューアルが話題となりました。

どれもすごいプロジェクトばかりですが、こんなことを思いませんでしたか?
「ヘッドハンティングされるぐらいの実力者でしょ。そもそも、レベルが違いすぎる……」
「門外不出のテクニックが、じつはあるんでしょ?」

森岡氏の経歴を少し紹介すると、日本のP&Gでブランド・マネジャーとしてヴィダルサスーンの黄金期を築いたのち、P&G世界本社(米国シンシナティ)へ転籍。その後、2010年6月にUSJを運営する㈱ユー・エス・ジエイに入社されています。とくに高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウなどは有名です。

今回も、本書の「プロローグ」から気になった文章を抜粋してみました。
私の脳裏に蘇るのは、発狂しそうなくらいドラマチックだった3年間の記憶です
私は「奇跡」という言葉が好きではありません
デフレどん底の時期に、価格を上げながら大幅に集客を増やし、V字回復をすることができた
"「アイデア」こそが最後の切り札になりうるということです
お金がなくても、コネがなくても、「アイデア」だけはあなたの頭の中に眠っているのです

思ったよりも泥臭い感じですが、すごい実績をたくさん残されています。
そして、何げなく、いきなり「すごいこと」を言われていることに気づかれましたか?(私は「え!?」と思い、調べてしまいました)

「マーケティング」を簡単にいえば、「売れる仕組みをつくること」。この仕組みづくりの秘訣ともいえる「森岡メソッド」には、じつは、すぐに実践できるものもあるんですよ!

さっそく、実践していきましょう!
Let’s try!

➋実践してみたよ~森岡氏が来る前、USJは事実上2004年に経営破綻

私の「グッと」きたところ、戦略上の大きなミス=「差別化」という名の誤ったこだわり

本書は、森岡氏がUSJに入社してから、「ハリー・ポッター」がオープンするまでの2010年から2013年の話がメインです(文庫版あとがきには、「ハリー・ポッター」オープン後の2015年の年末までの話がリアルに書かれています)。

本書の内容ですが、じつは「USJの経営再建」です。

"経営不振のUSJを立て直す、そのために何をすべきなのか?"

森岡氏は入社後、USJの業績不振の課題を見つけるべく、幹部社員にヒアリングを重ねます。
「不祥事のせい」や「映画のテーマパークとして差別化ができていないため、TDRにお客を奪われた」という仮説が出てきますが、「見当違いである」と、なんと一刀両断します。

よく考えてみましょう。
最初に発覚した2002年の不祥事が、2010年までも尾を引くでしょうか?
森岡氏が実際に過去のデータを調べてみると、現実はまったくの反対だったのです。
不祥事が起きてから来場者数が減ったのではなく、来場者が減ったことが不祥事発生の要因になっていることを突き止めたのです。
来場者が減ると、食品がたくさん余ってしまい、「もったいない」と提供してしまったのが、「期限切れ食品問題」として不祥事になっていた、というわけですね。

さらに、ディズニーランドとUSJの間の距離は離れているため、「どっちに行こうか」と迷うことは考えにくい、という分析もしています。このことを森岡氏は、「関東と関西には交通費3万円の川が流れている」というたとえを使って説明をしています。

そもそも関西地方には、人口から考えても、関東の3分の1程度の市場規模しかありません。
映画ファン「だけ」を対象にしようとすれば、必然的に、さらに市場が減っていくのは想像にかたくないと思います。

そこで戦略として、森岡氏は「映画ファンのためのテーマパーク」から「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」への脱皮をめざしたのですね。

この考え方や分析は、「なるほど!」のひと言に尽きます。
これ、かなり使えそうですね。

私の「本当に使える!」実践テクニック、ピンチをチャンスに変える「イノベーション・フレームワーク」

本書は、森岡氏の高等数学を用いた需要予測や、限られた資金をどう使うか、社内幹部の説得の風景も書かれています。なにより、次々と起こるトラブルに最前線で対策を打つビジネスパーソンの姿には、尊敬しかありません。森岡氏の心の声も、すごく共感してしまいました。(笑)

本書の一部を紹介しますが、10周年イベントのスタートは2011年3月3日。その8日後に東日本大震災が発生、関西でも自粛ムードが流れ、パークに人が来なくなるという事態に直面します。その際にも、アイデアの必要条件をまとめ、どう対策を打ち出すか、を考えられていますが、この発想法こそ、「イノベーション・フレームワーク」です。

この「イノベーション・フレームワーク」の概念は、四つの柱で支えられています。
フレームワーク ⇒必要条件を明確にしてから、何を解決するためのアイデアか、を考える(戦略的フレームワーク)。足して100になる仮説を立てて、検証する(数学的フレームワーク)
リアプライ ⇒すでにあるアイデアを応用する
ストック ⇒アイデアを蓄えるためにいろいろなことを自分で体験する
コミットメント ⇒考えつくまで考え抜く(精神論)

※なお、フレームワークにはもう一つ、「マーケティング・フレームワーク」というものがあり、森岡氏はこちらを多く活用されるそうですが、専門的ということで、本書ではほとんど触れられていません。

とくに「フレームワーク」については、成功する確率を上げる方法として説明されていますが、「戦略を決めてから戦術を決めること」や、「重なりや視界落ちのない仮説なのか(すべてを網羅できているか)を検証すること」は、すぐにでも活用できそうな思考法です。

本書のタイトルにもなっている後ろ向きジェットコースター、「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~」を参考に、「フレームワーク」を実際にやってみましょう。

この時の必要条件は、
①使える資金が少ない
②プラス20%の集客増
③「世界最高」に恥じない品質
です。
ここから、リノベーション(改造)にポイントを絞り、パークをぐるぐる回って考えていたところ、夜中に「アイデアの神様」はやってきたのです。
もちろん、社内調整のたいへんさ、プロモーションや話題づくりについてもたくさん書かれており、実現のためには、アイデアがすべてではありません。が、「確率」を高める方法であることに間違いありません。

そして、なによりも森岡氏のどんなにピンチでもあきらめない、この姿勢は見習わなければなりません。

実践するか、しないかはアナタ次第! です。


★おまけ★最近読んでいる本

『任天堂 "驚き"を生む方程式』 井上理著(日本経済新聞出版社)

いまやアップルとも比較されるイノベーション・カンパニー、任天堂。最近ではNintendo Switchも大ヒット。しかし過去の任天堂は、多角経営の失敗やソニーとの10年戦争など、経営が厳しい時代もあったのです。発刊は2009年と、同社が絶好調だったころですが、岩田聡元社長や当時の経営トップの危機感あふれる話は目からウロコです。任天堂のいまを知るうえでも必読の一冊。お勧めです。