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「おいち不思議がたり」シリーズ 誕生秘話


6月12日発売の『星に祈る――おいち不思議がたり』は、あさのあつこ先生による好評「時代」ミステリーシリーズの第5弾。担当編集者が、同シリーズの誕生秘話を語ります。

野球少年を主人公に据えた『バッテリー』、女子高生の日常を瑞々(みずみず)しく描いた『ガールズ・ブルー』などで、青春小説の書き手として一躍有名になった、あさのあつこ先生。
最新刊『星に祈る――おいち不思議がたり』も、時代小説ではありますが、医者をめざす少女おいちが主人公の青春小説です。

連載がスタートしたのは2008年。このシリーズが生まれた経緯を、思い返してみました。

私があさの先生に初めてお会いしたのは、いまから15年ほど前。「バッテリー」シリーズ大ヒットのあと、一転して藤沢周平を思わせる時代小説『弥勒の月』を上梓され、同じ作家の作品とは思えず、どうしてもお会いしたくなって、創刊まもない小説誌『文蔵』でインタビューをさせていただいたときになります。
『弥勒の月』は、凄惨(せいさん)な過去と決別するため、商人に姿を変えて生きる元武士が登場する、ダークな江戸ものです。でもそこに私は、地を這って生きる人間に対して注がれる、あさの先生の優しい眼差しを感じました。
こんな小説を書ける方と仕事がしたい、と思ったのですが、同じようなテーマをお願いするのは気が引けて、『弥勒の月』とは正反対の明るい江戸もので、若い女性にも読んでもらえる時代小説を、とお願いしたように思います。
その後、打ち合わせを重ね、主人公の少女おいちは、医者である父を尊敬し、父のような医者をめざす設定になりました。しかも、この世に思いを残して死んだ人の姿が見えるという、ちょっと不思議な能力を持っていて、それを活かして苦難を乗り越えていくという基本コンセプトができあがったのです。

先ほどの『文蔵』誌に連載していただくことになり、第1回の原稿をいただきましたら、父の松庵、毒舌だけど愛情はたっぷりの伯母おうた、岡っ引の仙五朗など、個性豊かなキャラがたくさん登場! おいちたちが住んでいる菖蒲長屋の喧騒が聞こえてくるような物語で、しかもおいちが仙五朗と協力し合い、事件の謎を解いていく展開に、私自身が、原稿をいただくたびにワクワクドキドキしています。

「おいち不思議がたり」シリーズは、ただいま文庫が4巻出ておりまして、このたび、5巻目となる単行本『星に祈る――おいち不思議がたり』が発売になります。巻を重ねるにつれ、おいちがたくましくなっていくのですが、いまでは母のような気持ちで、おいちの成長を見守っています。
『星に祈る』では、おいちの人生にさまざまな変化が訪れます。医者になるという夢に向けての第一歩が始まるのと同時に、私生活でも……。
丹地陽子さんのカバー絵もすばらしいので、併せてお愉しみいただければ幸いです。

第三制作部文藝課 後藤恵子

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