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小説④

皆さん、こんばんは。オカダムです。

先日スキが70個になりました。ありがとうございます。

もう少し頑張るとスキが100個になるんだなー、すごいなーと思っています。

これからもコツコツがんばります。

さて、今回は小説の4回目です。前回も個人的になるほど、と思うことを追体験しましたが、今回も成長につながる体験をしています。改めて振り返って、この時間を過ごせたことは本当に良かったと思います。

では、前回の続きです。どうぞー。

(前回のあらすじ)

様々な人と話し、自分を出していって良いのだと気付き、また就職活動にしても相手を一人の人間として接することや、仕事は楽しむものだということがわかった僕(オカダム)が、事業所の訓練を通して成長していく。


(ここから小説)

 そうして日々は過ぎていき、更に仲間が増えていった。
 今は事業所の近くのファミレスで、その人たちとお茶をしているところ。
「聞いてくださいよ。今日もカッコよかったんです!」
 開口一番にテンション高めに語りだしたのは腐女子さん。BL好きな女性だが、同じ利用者のSさんに一目惚れしたようで、よく恋愛相談に乗っている。
「あの人、どこがええの?」
 冷静にツッコミを入れているのはアロハさん。よくアロハシャツを着ている関西人の方。関東の人間が関西弁を適当に話すとキレる。
 ちなみに僕もSさんのどこが良いのか全くわからない。
「顔とフォルムです!」
 うーん。ある意味面食いなのかー。余計理解できない。
「あ、オカダムさんがこのあいだ言っていた、”あの人何考えているのかわからない”っていうの、すごく喜んでましたよ」
「やめろー!本人にそういうこと言うもんじゃないよ」
「そうですかー?」
「なあ、サイコさんもそう思うでしょ?それ、本人が聞いたら悪口でしょ?」
「うーん。そうかもね」
 無難に僕の振りに返してきたのは、サイコパスさん。すごく温和な性格をしていて、あらゆる人達とコミュニケーションがとれる。あと僕と同い年なのに大学生みたいな雰囲気をしている。
 ただ、あまりにも性格がよいのである利用者が「きっと自分の切った爪でも集めているに違いない」と言い出したので、サイコパスさんと呼ぶことになった。
 あと一人、バンドマンさんを含めていつものメンバーだ。バンドマンさんは大人しいひょろっとした人だが、言うときは言う人で、最近の事業所の状況に不満を持っているようだった。今日も白さんに相談に行っている。
 このメンバーで集まるきっかけとなったのは、まず腐女子さんが恋愛相談をアロハさんにして、そのアロハさんが冷静な意見を求めて僕のところに声をかけた。それがしばらく続いて、ほぼ腐女子さんの愚痴を聞く時間になったときに事業所に入ってきたサイコさんとバンドマンさんに声をかけて、この形になった。
 僕は恋愛の経験がないからあまり良いアドバイスはできないが、それ以外なら普段から説教みたいなことをしているので得意。あとの三人のうち、二人がバツイチで、もう一人は更に濃い経験をしているので、恋愛相談にはもってこい?なメンツだった。
 腐女子さんの話を聞いていると、事業所内では恋愛模様が色々繰り広げられているよう。自分の課題のクリアしか考えていなかったから、そういったことは全く感じていなかった。
 個人的には障害者同士でうまくいくとは思えない。かなり濃いキャラクターが多いので、正直成立しない気がしている。案の定、うまくいっていない様子。
 基本的に腐女子さんが話して、それを他の4人で聞く。主にアロハさんが聞き役。僕とバンドマンさんがやいのやいの言って、サイコさんは聞いてるんだか何なんだかよくわからない。振るとちゃんと聞いているのがわかるが、たまに誰かとお話しているのか、うん、うん、と相槌を打っている。
 もちろん、僕としてはYさんとの色々もあって、誰かに自分の意見を押し付けるのは控えている。もしも事業所内で感じたことがあったら、それは自分から相手に直接言わないで、まずスタッフに言うようにしている。
 腐女子さんとバンドマンさんは色々と感じることが多いのか、不満が出てくる。それに乗ってあげたりして解消していくのが日課になっていた。
 他人のことだけでなくまず自分のことをもしっかりしないといけないが、僕にとってもこの時間は日々の訓練が終わった後の良い休憩時間になっていた。

 かあちゃんと宗教家さんが卒業した。それぞれ就職先をしっかり見つけての卒業だった。障害者が事業所で訓練を受けると、大半の人は就職するが少数の人は他の事業所へ行くこともある。そういう意味では安心した。二人とも、きっと大丈夫だろう。
 かあちゃんはグループワークで、誰も話題に挙げないけど重要なところをしっかりフォローしてくれる、視野の広い人だった。将来はピアサポーターになりたいと言っていたが、きっと相手に寄り添った対応ができるだろう。
 宗教家さんは元々料理人だったそうなので、マルチタスクができるのが強みだろう。しかもタイピングは事業所内で2番めに速かった(1番はチャラさん)。知識と経験の幅が広いため、とても頼りになる。「師匠」と呼ばれることもある、器の大きな人だった。
 そして今回、チャラさんの卒業が決まった。
 チャラさんはなかなか先方からの返事が来なかったらしい。というのも、受け入れ体制を整えるのに時間がかかったからだそうだ。まだ障害者を雇用するのに慣れていない会社は多い。今は法律で会社の規模によって従業員の総数の何%かを雇わないといけない決まりになっているが、それをお金を支払うことで免除してもらおうとする企業も多い。企業からすると罰金のイメージが強いらしい。しかしそのお金が障害者の就労に役立てられているので、払っても雇ってもどちらでも良いと個人的には思う。
 この事業所では、利用者が自分の得意なことを講義形式でプレゼンしてもよい、というシステムがある。それにより例えば好きな音楽についてや、ビジネスマナーについてを利用者が他の利用者に教える、ということができる。 
 チャラさんは最後にプレゼンの仕方について教えてくれた。
 まず企画を立てるところでどういったことを考えるかや、企画書の大まかな形。それをスタッフに確認して実際の資料にするときの注意点など、とても役立つ内容だった。
 そして、プレゼンの仕方のプレゼンを終えた後、彼はポケットから手紙を取り出し、読み上げていった。
 各スタッフに宛てた感謝の手紙だった。
 聞いている利用者もスタッフも泣いていた。彼自身も泣いていた。
 僕も泣いた。
 僕たちに宛てたメッセージに「スタッフを信じてついていってください」とあったことがとても強く心に響いた。
 彼はここに入ってきたときは誰とも話さなかったらしい。だが、徐々に皆と打ち解けあって、いつからか中心人物になった。
 プログラムができるから、と言って皆のスケジュールを自動で組むマクロを作ったり、カリキュラム中にスタッフに対してツッコミを入れたりすることで、双方がコミュニケーションを取りやすくしたりした。誰にでもできることじゃない。きっと彼の中にそうするだけの理由があったのだろう。
 僕はどうだろう?僕にとってこの場所はどんな場所なのだろうか?
 答えはきっと卒業するときに出るのだろう。できれば良いものであってほしいと思った。
 僕の課題というのはたくさんあるが、最近成長してきたのがタイピングの速度と電卓の正確性だ。タイピングは計測機能がついているタイピングソフトを使っているが、初めてここで打ったときよりも2倍近く打つスピードが速くなっている。一方、電卓の方はダブルチェックをするようになったことで、ミスを減らすことができるようになった。それは要するに検算するようになったということだが、僕の場合は左手で計算した後に右手で検算する。器用に思われるかもしれないが、片方だけで計算し続けると疲れるのと、ペンを右手で持ち左手で計算するパターンと、パソコンをやっているなかで右手でテンキーを入力するパターンとを想定したからだ。もちろん、僕が使う電卓はパソコンのテンキーと同じ配置のものにしている。
 しかし、なかなかうまくいかないこともある。それがグループワークだ。特に、企業を想定した状況で行なうものが計画通りに行かない。
 企業を想定したグループワークは大体5人程度のチームで、上司役のスタッフからの指示内容に従って課題を進めていく。求められているのはチームワークもそうだし、時間内に課題を完成させるための、意見交換とタイムスケジューリングだ。誰かがチームリーダーとなり、指示をして進めていくことになる。僕はなぜかリーダー役が多く、課題をなかなか達成できない。自分の不甲斐なさを毎回感じて終わることが大半だった。
 白さんがいつもと同じように問いかける。
「皆さん、また締切守らないんですか?実際の仕事でそんなこと許されると思いますか?」
「いえ、思わないです」
「じゃあいつになれば終わりますか?」
「・・・」
「わかりました。この課題は来週までにします。来週までに終わらなかったら、また別の課題にします」
 白さんはきっぱりと言い放つと、自分のデスクに戻って行った。
 また今日もできなかった。
 時間内に課題を終わらせ、かつ報告書を作成させる。言うだけなら簡単だが、チームの全員の意見をまとめることや情報の共有、誰がどの作業をやるかといった話し合いをする必要があるので、全然時間が足りない。意見がまとまらないこともあるし、一人ひとりの力量も違う。また、当たり前だが上司であるスタッフの指示内容からずれるとやり直しになる。
 なぜ出来ないのかはたくさん出てくるが、どうすれば出来るようになるかはなかなかアイデアが浮かばなかった。
 一度白さんに「白さんならどのくらいでこの課題できます?」と聞いてみたことがある。すると、「皆さんはこれに10時間かけて終わってませんけど、私達なら4時間ですね」と返された。なぜそんなに早く出来るのか、と続けて問うたら、「私達スタッフは自分たちの得意不得意がわかっていますから」と言われた。
 なるほど。僕たちが月ごとに変わる即席チームであることに比べて、スタッフさんたちは付き合いが長いから、誰に何の仕事を任せれば早く終わるのかがわかるのか。
 ん?ということは、相手に無関心な人が多いチームは効率が悪いのか。仕事を振ってもらうにも、自己理解と他者理解が必要で、かつ自分はこれができる、できないということをアピールすることが必要になる。それをしないと、仕事は割り振られない。
 グループワークで見学ばかりしている利用者は、特に自分で自分のチャンスを棒に振っているようなものだということになる。
 この発見で、何かできることはあるだろうか?

つづく

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