#41 忙しい現代人に贈る、明日使えるマンガロール料理の無駄知識(現地編)
業界に激震が走った。マンガロール料理の専門店「バンゲラズキッチン」が、銀座に1号店をオープン後、わずか2年足らずで「スパイスカレー魯珈」とともに「ミシュランガイド東京2020」のビブグルマンに選ばれたのだ(ビブグルマンはお値段以上の満足感が得られるお店)。
これって結構すごいことじゃないか?今まで日本で聞いたこともなかったようなインドの地方料理に過ぎない、マンガロール料理。それがなぜ短期間でこんなにも人気が出たのだろうか。
その理由を解き明かすべく、年末の旅行でマンガロール現地を訪れたので、前半は教わった家庭料理について、後半は訪問したレストランについて実食レポをまとめてみた。
長くなってしまったので現地編と日本編の二回に分けてお送りします。
マンガロール概要
マンガロール(Mangalore, Mangaluru)はインドの南西部カルナータカ州にある都市で、州都バンガロールの次に大きい。
アラビア海に面している港町のため魚料理が豊富。宗教的にもクリスチャンやムスリムが多く、留学生も多いためコスモポリタンな雰囲気がある。海鮮や鶏、牛など様々な食材を食べ、料理にはココナッツを多用する。飲酒文化も広く受容されていて、実際に見たマンガロールではビアバーやミュージッククラブが立ち並ぶ通りもあった。
マンガロールの家庭料理の構造
人間は6人の知り合いをたどると地球上の全ての人と繋がることができるという。
友達の友達の友達がマンガロール大学の教授で、なぜか大学の寮に泊めてもらい、料理を作るところを見学することができた。
上から時計回りにダヒ、じゃがいもと青豆のクルマ、ナスと冬瓜のサンバル、ラッサム、ウプマ、チャパティ、冬瓜のポリヤル。
料理する工程をイチから見せていただき、サンバルとクルマとポリヤルに共通する構造に気がついた。
基本的にどれも、下ごしらえした野菜を、油で炒めた玉ねぎ・トマトの中に入れ、ターメリック、塩、カレーリーフを加えていた(これを基本の野菜炒めと呼ぼう)。そこにココナッツフレークとスパイスを油で炒めてブレンダーで粉砕してマサラを作ることで三種類の料理が作り分けていた。
◆サンバルの場合
マサラの材料は以下のようになる。よく炒めてブレンダーで粉砕する。
油、チャナダル、白いウラドダル、カレーリーフ、クミンシード、コリアンダーシード、シワシワのカシミールチリたくさん(パプリカで代用可能)、大量のココナッツフレーク、ターメリック、タマリンド
これに煮たトゥールダルと基本の野菜炒めを合わせて煮込めば完成。カルナータカのサンバルが赤いのは大量に入れるチリの色(辛くない)で、粗糖のジャガリーを入れて甘くするお店もかなり多い。
◆クルマの場合
油、皮ごとのニンニク生姜、大きめにカットした玉ねぎ、青唐辛子、コリアンダーリーフ、クミンシード、チャナダル、ターメリック、ガラムマサラ、大量のココナッツフレーク
これをよく炒めて、フレッシュ感を出すために生のココナッツと生の玉ねぎを追加してブレンダーに投入。基本の野菜炒めを合わせて煮れば完成。
◆ポリヤルの場合
ポリヤルはもう少しシンプル。油を使わずに煎って粉砕するだけ。これを基本の野菜炒めに混ぜて、ドライな感じに仕上げる。
大量のココナッツフレーク、クミンシード、ターメリック、皮ごとのニンニク、大量のチリパウダー
ニンニクを皮ごと油で揚げてつかっているのを見たときはちょっと驚いたが、これがマンガロールのスタンダードなのだという。皮からもいい香りが出るのだろうか。剥くのがめんどくさいだけのような気も。。。
あと、ココナッツフレークの使用量がものすごく多く、基本的にどの料理にも入るし、食べるときに上から振りかける。
以上が、自分が見たマンガロール料理の作り方の一例だ。もっとフィッシュグレイビーの料理とかを教わりたかったなあ。、
マンガロールのレストラン実食レポート
バンゲラズキッチンオーナーのバンゲラさんやマンガロール在住の日本人からおすすめのお店情報をゲットし、いくつかマンガロール現地のレストランを訪問した。マンガロールのレストランは、
①フィッシュミールスを出すお店
②ベジミールスを出すお店
③お酒の飲めるビアパブ的なお店
に大きく分けられる。
①は、ミールスが基本となりオプションとして海鮮系のおかずを別途オーダーするという形式。ミールス自体は安く、オプションの魚料理が高い。ライスとグレイビーは食べ放題。
②は、ベジ専門なので海鮮系は食べられない。ミールスの提供は昼だけで朝や夕方はバナナバンズやドーサワダなどのティフィン類が充実している。ウドゥピ風のピュアベジレストランなども多数。
③はお酒が充実しており、おつまみ的に色々食べられるお店。若者に人気のお店が多かった。味付けは濃いめ。
①フィッシュミールス系
・Narayana
フィッシュミールスは安く提供され、そこにオプションで魚のフライを追加するというのがマンガロール流。ボイルドライスに小さい秋刀魚のココナッツカレー。さんまは日本で見かけるようなものより小さいが、秋刀魚のm味がしてなんだか懐かしかった。キャベツと豆をくたくたにココナッツミルクと豆で煮たおかずは冷たいが、味が馴染んでいておいしい。
これにアチャールがついて60Rsだった。ライスは何も言わないとこのボイルドライスになるらしい。Fat rice(太った米)とも呼ばれ、パラパラしていくらでも食べられそう。
オプションには謎の白身魚のステーキ的な、キングフィッシュのフライ。ギトギトの油に香ばしいマサラが塗されており、グイグイご飯が進む一品。食べるラー油的。これは220Rsで、ミールスより高い。
・Girimanja's
マンガロールの誰もから絶賛おすすめされたお店。
店内はかなり混雑しているが、誰も列を作らないので店員さんにいかに自分の存在を認めてもらうかが勝負になってくる。客たちは食事中の客を睨みつけながらすぐ横に仁王立ちになり、じっと自分のターンを待っている。
そんなカオスなお店だが、味は確かに絶品。他のお店同様、フィッシュミールスは基本であり、オプションを何にするかを黒板から選ぶ形。人気メニューは早々に黒板から退場となるので、お目当てがあるなら早めにいくべし
混雑しすぎて相席になったお兄さんが色々と教えてくれたのでよかった。
オプションはプローンギーローストを注文。フライされたエビに濃厚なグレイビーとギーがまとわりついている、香り高き逸品。マンガロールで食べたもので一番美味しかったのでアイキャッチ画像にした。
ライスには最初フィッシュグレービーがかけられてくるが、コカムラッサムとサンバルももらうことができる。ただ、言わないと出てこないので注意。サンバルは甘めで、コカムラッサムは酸っぱい。グレービーが余ったらご飯も追加でもらうことができる。コカムは酸っぱいフルーツで、タマリンドのように酸味を出すために使われる。
②ベジミールス系
・Janatha Deluxe
ベジミールスの美味しいお店なのだが、訪問した時にまだミールスの時間じゃなかったのでティフィンを食べた。米の粉を薄くクレープ状に焼いたニールドーサに、チャトニ類をつけていただく軽食だ。ココナッツチャトニは美味しかったが、フニフニのニールドーサはそんなにグッとこなかった。元々、そんなにおいしさを求めて食べるような料理でもないのかも。
ACルームとNON-ACルームがあり、空調だけでなくメニューの値段と内容も変わってくる。ACルームの方が当然豪華なものを食べられる。ベジミールスは結局、時間と体調の兼ね合いで食べることができなかった。悔しい。
③ビアパブ系
・Shetty Lunch Hom
マンガロールの中でもお酒を飲めるお店が立ち並ぶ一角にある。ここはチキンギーローストがおいしいと聞き、一人でチキンギーローストとマトンスッカとフィッシュターリーを頼むという暴挙に出てしまった。チキンギーローストはギーがブンブンでビールが進みそう。ギーの香りは確かに強いのだが、まとわりつくグレービーがうまい。マトンスッカも美味しかったが、少し固くて、若干キャパオーバーしてしまった。
フィッシュターリーは安いけどそんなに力をいれていない感じだったので、ここではあまりおすすめしない。
バナナバンズの食べ比べ
日本のバンゲラズスパイスラボで美味しかったバナナバンズを現地で食べ比べしてみるというのも今回の旅の目的の一つであり、可能な限り食べた。
バナナバンズというのはすりつぶしたバナナを精白小麦粉(マイダ)と混ぜ、クミンやアジョワンなどをいれて揚げたパン。
甘いパンをイメージするが実際はちょっと塩味があるものが多く、カルナータカ流の赤くて甘いサンバルやココナッツチャトニと共に食べたりする。
上記のJanatha Deluxeで食べたもの。なんか油がギットリしていて重い揚げパン。期待が高まりすぎていたのか、肩透かしを食らったようだった。
マンガロール空港で食べたものは甘め。サンバルとチャトニはかなりイケていたが、いまいちバンズと合わず。
通りすがりのお店でテイクアウトしたもの。クミンとニゲラが大量に入っていて、薬っぽい仕上がり。ホテルの部屋でゴキブリにたかられてしまった。甘みは全くない。
ウドゥピのドーサ発祥のお店Woodlandsでオーナーがサービスで出してくれたバナナバンズは、甘めのバナナの風味があり、揚げたてで美味しかった。
結論:日本で食べたバナナバンズが一番美味しかった。バンゲラズへ行こう!(宣伝みたいになってしまったけどホント)
▼その他、行けなかったけどおすすめされたお店情報
Machaliは微妙という話も。行ってないのでレビューできないけど、どこもおすすめだそうです。
・Kateel Temple
変わったところでは、お店ではなくお寺の食事もおすすめだという。年間で数万人が参拝するという寺で、一度に数百人に振る舞われる無料のミールスがおいしいらしい。
現地編まとめ
全般的な感想として、インドのローカルのレストランにバンゲラズキッチンのようなクオリティを求めていくとかなり乖離がある。
日本のバンゲラズキッチンではかなりクオリティに気を配っているので、漠然と自分の中で「マンガロール料理=高級」な頭になってしまっていたが、全然そんなことはない。現地のレストランにはピンからキリまであるのが当たり前だ。
きっかけとなったのは日本で食べたマンガロール料理だったが、実際に現地を見てみないとわからないことがたくさんある。そして反対に、日本で食べられるインド料理がいかに安定しておいしいかということも、インドに行くたびに思い知る。正直、別に行かなくてもいいのかもしれない。
現地に憧れがあり続けるということは、それを超えることができないということだ。もう少し、自分はカレーから自由でありたいし、オリジナリティを追求したいと思う。
体調管理が思うようにいかず悔いの残るマンガロールだったが、機会を作ってまた訪れたい。
次回はバンゲラズキッチンの日本で食べられるインド料理についてと、なぜそれが東京で流行ったのかについて書いてみます。
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