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カレーの玉ねぎを強火で炒める必要はあるのか?比較実験@八丁堀wacca【東京マサラ部活動レポート】

カレーを考えることは玉ねぎを考えることだ、と俺は古くからじっちゃんに言われて育ってきた。特に、飴色玉ねぎを作ることはカレー作りにおいて最重要な課題とされてきた。

実際に飴色玉ねぎの作り方について調べてみると、大きく分けてレシピには二つのパターンが登場する。

①洋食的アプローチ。弱火で長時間、じっくり加熱してつくるあめ色玉ねぎ。
②インドカレー的アプローチ。玉ねぎを強火で焦がし気味に炒めて一気に仕上げる玉ねぎ。

両方とも同じ飴色玉ねぎではあるが、同じ脱水量(重量)を目指すにしてもたどり着くまでの時間や工程、温度変化が異なるため当然味わいも異なるはずだ。

では、具体的にどのように異なるのだろうか。八丁堀のカレー屋wacca三浦さんの全面的協力を得て、強火炒め玉ねぎと弱火炒め玉ねぎの比較実験を行い、レポートにまとめてみた。途中でwaccaさん直伝のチキンカレーのレシピも掲載しています。

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飴色玉ねぎのカガク

ちなみに、玉ねぎはなぜ飴色になるのだろうか?また、生の状態では辛味と刺激臭を持つのに加熱すると甘くなるのはなぜなのだろうか。

変色することを褐変反応と呼ぶが、食品を切って空気中に放置した際に茶色く変色するのは主に酵素の働きによるものである。非酵素的に玉ねぎの色の変化に影響を及ぼす反応として、大きくカラメル化メイラード反応炭化が存在する。玉ねぎを加熱するときは、同時にいろいろな反応が起こっている。
(※この辺素人なので間違っている点はご指摘ください。)

カラメル化-Caramelization
糖類を100℃~200℃で加熱すると褐色になり、糖が加熱によって水分を失っていく過程でカラメル独特の茶色くて苦味のある、香ばしい物質が作られる反応。玉ねぎは糖分が多く(糖度が高いことはイコール甘いわけではないが)、切断や加熱の時に細胞が壊れ、内容物のブドウ糖、果糖、ショ糖が出てくる。加熱すると長い鎖のショ糖が分解され、水分量が減り、辛味成分が揮発することでより甘く感じられるようになる。この流出した糖が茶色く変化するのがカラメル化。

メイラード反応(アミノカルボニル反応)
おなじみメイラードさんの発見した反応。複雑なので未だに全容は解明されていない。タンパク質やアミノ酸と糖が結合し、褐色物質(メラノイジン)が生成されたり香ばしい香り物質が生成される。常温でも起こるが最も反応が活発になるのは155℃付近。高温で加熱することでこんがりきつね色になる。

コーヒーの焙煎、味噌や醤油の色素、黒にんにく、肉の表面などもすべてメイラード反応だが、反応の元になる等やアミノ酸の種類によって生成される成分が異なるためそれぞれ独特の香りになる。とりあえず「メイラード反応=うまい」とおぼえておけば間違いない。

焦げ(炭化)
炭化はメイラード反応より少し高い160℃以上で有機物が酸素を遮断された状況で加熱されて熱分解されると始まる。温度を上げすぎて黒くなるのはただの焦げであり、うまみではなく苦味が出てしまう。


問い

インド料理においてはよく"golden brown"という表現で、強火で表面を焦がすようなレシピが多いのだが、中の水分が飛ぶまでじっくり炒めることは少ない。それどころかケーララやタミル料理などでは玉ねぎを軽く色づくまでしか炒めないケースも多い。

反面、日本で紹介されているカレー用の玉ねぎレシピでは水を差しながら炒めていてカラメル化しか起きていなく、「色が付けばOK」とされているケースもある。逆に強火で炒めすぎて炭化してしまい、香ばしさがうまく引き出せていないケースもある。

大量の油を使い強火で加熱し続けるインドカレー的玉ねぎの炒め方は、弱火でじっくり炒めて焦がさないように色づけていく洋食の玉ねぎ炒めとは対極にある。洋食の世界では、強火で炒めた玉ねぎは雑味の原因になり素材感を損なうのでNGとなっている。

果たして、双方の玉ねぎ炒めのアプローチの差がカレーの仕上がりにどのような影響を与えるのだろうか。また、同じ水分量(重量)に合わせた既製ソテードオニオンを使った場合はカレーの味わいにどのような差があるのだろうか。検証してみたい。


仮説

今までの経験から言って、玉ねぎの炒め方によって味わいには差があるはず。結果の予想はこうだ。

仮説①:
弱火で長時間炒めた玉ねぎの方が甘く雑味がなく素材の味も感じられるのではないか。
仮説②:
強火で炒めた玉ね:はメイラード反応やカラメル化の影響でカレー自体が香ばしく感じられると思う。
仮説③:
ソテードオニオンペーストを使用した場合には玉ねぎの香りがあまりフレッシュに感じられないのではないか。


検証方法

・玉ねぎは3mmのみじん切り(荒くなったが)。差分が出ないよう、複数人で切ったものを均等に混ぜたものを同量ずつ使用する。今回は写真の玉ねぎを使用。

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・強火で多少の焦げは気にせずガンガン玉ねぎを炒めた場合と、最小限の弱火で焦げないようにじっくり玉ねぎを炒めた場合の差異を検証。水は使わない。
・玉ねぎ200g重量に対し20%(40g)の食用油を用い、油の重量を引いて元重量の15%(70g)になるまで炒めた。その際に仕上がりまでに必要な時間を計測した。
・火の大きさに関しては弱火は業務用コンロでの最弱、強火はフライパンの底を舐める程度の強さ。

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・できあがった時点で強火15%玉ねぎ、弱火15%玉ねぎ、15%ソテードオニオンの3種類の官能評価をする。
・それぞれの炒め玉ねぎを用い、同じレシピ(後述)で同じ火力、同じ加熱時間、同じ重量になるように3つのチキンカレーを作る。

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・官能評価を行い、仮説検証、考察、新たな問いについて議論。

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実験に使用したチキンカレーレシピ

玉ねぎ炒め
・玉ねぎ 200g
・サラダ油 40g

その他の材料

・鶏モモ皮なし 400g
・生姜すりおろし 15g
・ニンニクすりおろし 15g
・サラダ油 20g
・皮むき生トマト刻み 200g
・水 200g

【テンパリング用ホールスパイス】
・マスタードシード 2g
・シナモン 5cm
・クミンシード 2g

【パウダースパイス】
・クミンパウダー 4g
・コリアンダー 5g
・チリ 3g
・ターメリック 3g
・ヒマラヤ岩塩 5g

【ガラムマサラの材料】 ※使用量はひとつまみ
・シナモン  3g
・BP     3g
・カルダモン 5g
・クローブ  5g
・クミン   2g
・メース   2g

手順:(詳細は動画を参照)
・油でマスタードシードとカシアを弱火で加熱し、マスタードシードが弾けたらクミンシードを加える。
・焦げないようにすぐにGGを加える。
・生の香りが飛んだら、それぞれ炒めた玉ねぎを投入する。
・すぐに鶏肉を加え、表面の色が変わり香ばしい香りが立つまで炒める。
・パウダースパイスと塩を加える。
・トマトを加え、崩れるまで炒めたら水を加える。
・火を止め、ガラムマサラをひとつまみ加える。


結果

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官能評価結果

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