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本能のカレーとガリガリのカレー:カレー哲学の視点(22/03/12〜22/03/18) 

自分はガリガリってほどガリガリじゃないが、ど田舎の選択肢が少ない環境で育ってきたことは自身の物事への屈折した取り組み方やカレーへの嗜好に大きく影響を及ぼしている気がする。高い材料を惜しみなく使う、それができたらそれだけで本能に訴えかけるカレーになる。

ガスタンドールをもらったよ

先日、いきなり知らない人からガスタンドールをいただいた。
しかもわざわざ家まで持ってきてくれた。生きているとそういうことがあるんだなあ。

U・F・O

下の方は穴が空いており、ガス台の上にそのまま置いて火をつけ、蓋を閉めることで高温を実現する。タンドール窯を探していたときにTIRAKITAで販売されているのを見たことがあるが実物を見たのは初めて。

日本のAmazonでも一件だけ販売があったが、インドのAmazonではもっとたくさん種類があった。

Gas Tandoorではなく、DAL BATI Makerとして売られていることが多い。DAL BATIはインドラジャスタン州の伝統的な丸い砂漠パンであり、本来は牛糞を焼いた灰の中でじっくり焼くらしい。

本物のタンドールは調子のいい時は1000度近くになり、温度が落ち着いても300度〜500度くらいまで温度が上がる。(参考
ガスタンドールは流石にそこまでは上がらないが、蓋を閉めれば250℃くらいまで温度が上がるらしく、オーブンくらいの温度は出せる。本物のタンドールほどではないがチキンなどもパリッと仕上がって焼くことができた。

ただ、たこ焼き器みたいなものと同じで本当にたまにしか使わないですねこれ。早くも押し入れでほこりを被り始めている。カリフラワーを丸焼きにするのに、積極的に使っていこう。

本能のカレーとガリのカレー

カレーの味わいを表現するのに「おいしい」という言葉はなるべく使いたくない。どのような香り・味がするのか、レトロネーザルとオルソネーザルはどう変わるのか。うま味を感じるタイミングはいつなのか。食感はどうなのか、咀嚼中の口内の感覚の経時変化はどうなのか。感じられたものを出来るだけ細かく記述したい。

特に、五味の一つとしての「うまみ」と料理が「うまい」というのは分けて考えたい。先日大阪のカレー屋さんがきてくれたときに、うま味を足し算していくカレーを作ってくれた。

牡蠣に牛豚ひき肉、フォンドボーにたこ、魚粉にサキイカの粉末まで追加し、うま味にうま味を重ねていくスタイル。
うま味成分のアミノ酸が出過ぎてほとんど塩を入れなくても塩味を感じるレベルになっていた。

このカレーはとても美味しくご飯も進み、シェアハウスの住民Dが残っていた分を全て独り占めして食べ尽くしてしまい、住民Aと喧嘩になるという事案も発生した(住民Dは朝目覚めるとその時点で冷蔵庫にある一番美味しいカレーを全て独り占めしようとする習性があるため)。

人間も動物だ。身体にとって必要な栄養素が吸収されやすい形で舌に感じられると本能的にとても「うまい」と感じる。動物としての本能に訴えかけるカレーというのはこういうカレーだ。一言で言うならデブのカレーだ。
ご馳走であり、食べると特別な気持ちになり、幸せホルモンが溢れ出る。

一方自分は、うまいものを食べるのは好きなのだがどちらかというと情報を食ってばかりいる。食事に毎回驚きや発見が欲しい。
インドの見知らぬ食べたことのない料理を試しに作ってみるのが好きだ。誤解を恐れずに言えば重要なのは面白いかどうかであり、美味しいかどうかはあまり関係ないのだ。もちろん美味しくて面白いのがベストだが、最悪の場合、別に美味しくなくてもいいのかもしれない。

また、ご馳走のカレーもいいが日常的に毎日食べられるようなカレーが好きである。わかりやすくいうならうま味控えめなガリガリのカレーばかり作ってしまう。豆とか野菜ばかり使って、出汁とか砂糖とかは使わない。うま味過剰なものに罪悪感でもあるのだろうか。

そんなガリガリのカレーの例としてラージャスタンのGatte Ki Sabzi・またはガッタカリーをあげてみる。
ひよこ豆の粉を捏ねて茹でたものをヨーグルトグレイビーにぶち込む。精進料理のようなものだ。

ラージャスターンでは砂漠の気候であることもあり生鮮野菜がほとんど採れない。だからひよこ豆の粉、小麦粉など保存の効く食品を捏ねて団子にしておかずにするという工夫が広がったのだと思う。

作って食べてみると植物性のたらこでもいうようなねっとり感がある。ひよこ豆のもったり感でお腹が膨れる。ちくわぶのようでもあるが、食べたことのない食感で面白かった。
確かにこれは先日のうま味重ねキーマよりうま味は少ない。だが、美味しくないのかと言ったらそんなことはないし、単純に横同士で比べられるようなものではないと思う。 

「美味しい」という言葉の解像度を上げ、単純に美味しい/美味しくないで判断するのではなく、デブのカレーもガリのカレーも楽しめるようになることが豊かなことだなあと思う。


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