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ベランダで燻製を作りながらめんどくさい男について考える:カレー哲学の視点(22/1/17〜22/1/23)

土曜日はベランダで燻製をしまくった。インド北東部ナガランド州の料理を再現するためだ。ナガの人たちは牛や豚の肉をよく食べるが、長期間保存するために焚き火やかまどの上に一週間以上吊るしよく乾かし、カチコチの燻製にするのだ。

ナガの燻製豚納豆カレー

ナガの人たちは様々な肉を食べるが一番人気なのは豚肉のようで、レシピを調べていると「Smoked Pork」・「Axone(アクネー)」という枯草菌を使った納豆・里芋を使ったカレー(?)がよく登場する。


燻製は人類が狩りを始めた頃から行われている食肉の保存技術で、1万年以上の歴史があると言われている。ただ、塩漬けやスパイスの利用などの技術が発達したのはごくごく最近のことで、それまでは煙臭いだけの燻製が食べられていたようで、スパイスの力は偉大だ。

ナガの人々が燻製を作っているところの動画を見ると、肉を切って塩を振って、焚き火の上で炙っているだけという作り方をしている事が多い。もしくは、家の中のかまどの上にしばらく吊るしておく。長時間燻すので水分が抜け、最終的に真っ黒で鰹節のようにカチンコチンになる。冷蔵庫を使わなくても長期保存できることを目的としていることがわかる。

今回は一週間塩漬けした皮付き豚バラ肉を軽く塩抜きしたあと乾燥させ、ダッチオーブンで30分程度燻製した。煙の風味がつき表面が熱で固まっているが、長時間かけて水分を抜くわけではないので特に保存に役立つわけではない。インスタントに燻製の風味を楽しむだけのものだ。燻製しているというよりは、煙をまとわせたといった程度。

#豚は皮付き

豚バラの他にも牡蠣、チーズ、鮭、ホタテ、パニール、バナナなど色々な食材で試してみた。特にバナナは適度に水分が抜け、バナナケーキのような味わいになって本当に美味しい。ダッチオーブンでなくても直火加熱できる鉄フライパンなどで簡単にできるのでおすすめである。

燻製豚はちゃんと納豆を使ったカレーにした。



なんで人はわざわざめんどくさいことをするのだろうか

「付き合わないほうがいい男の3C」の一つに「カレーをスパイスから作る男」が入るという冗談があるが、人はなぜわざわざ燻製をしたり、スパイスからカレーを作ったり、古民家をDIYして何かを始めたりするのだろう。

一つの理由として、隠蔽されている物事や普段省略されている仕組みを自分で体験してみることで、生きている感覚を取り戻すことができる、ということが考えられると思う。カレーの例はとてもわかりやすい。とても芳しい香りのカレーに出会ったとして、お店でただそれを食べているだけではただの消費者だが、素材の特徴や仕組みを理解し、学び、自らカレーを作るようになることで世界の見え方が変わる。

もともと仕事として行われていたことが遊びになる例もある。本来は生きるためやお金を稼ぐために行われていた農作業や工場労働が、その必要がなくなり人々が解放されると、余暇の時間にわざわざめんどくさいことを行う、家庭菜園や趣味のものづくりという形で生活の中に復活してくる。

家でやる燻製も広い意味でそういう役に立たない「遊び」だ。現代人はやがてそうやって"仕事"から解放されていって、最終的には遊ぶこととカレーを作ることのみをするようになるのだろうか。

最近、日がな一日、家から出ずにパソコンに向かって"仕事"をしている。しかしそこで自分が実際にやっていることと言えば、毎日ぼんやりした頭を震わせながら糖やタンパク質、ミネラル、水分を摂取しエネルギーに変えて、ディスプレイに向かって延々と情報を操作し続けているだけだ。

そうやって情報を処理する端末の一つに甘んじていることに対しての代償として手に入れた金銭で、食欲をそそる香りのする乾燥した植物の粉末やら動物性タンパク質の塊をスーパーマーケットで手に入れることができる。

この社会では分業が進んでいて、その流通経路も処理もうまい具合に見えないように隠蔽されている。動物を自分で屠らなくても安価に食べることができる。余計なことを考えなくて済むようになっていて、手間がかかることは悪だとされている。

滑らかでするするとしたひっかかりのない円滑なコミュニケーションや思考がもてはやされる。ゼロ秒で、最短距離で、立ち止まることなく、多くの人に知られることこそが価値があると信じられている。

そうやって大事なところはいつも隠蔽されている。秘伝のカレーのレシピのように。
つるつるとした世界にひっかかりを取り戻すために、僕はこれからもめんどくさいことをわざわざし続けるのだろう。

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