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サイドボーディング統一理論【Magic: the Gathering考察】

サイドボーディングはマジックのプレイで最も難しい要素といっていい。要するにサイドボーディングとは、75枚のカードを使ってその場で特定の相手のためのデッキを構築せよ、という課題だ。
メインデッキの構成は家でゆっくり考えたり、調整相手と議論しながら時間をかけて練ることができるが、サイドボーディングではすぐにデッキ構築を行う必要がある。
デッキ構築に完全な理論がないように、サイドボーディングにも完全な理論はない。サイドボーディング統一理論などと大風呂敷を広げたが、その意味でこの記事で解説したいのは万能理論ではない。サイドボーディングには当然、カードそれぞれの特性やデッキの構造が影響するが、こういった要素は環境次第なのだから、万能理論など作るべくもない。
この記事で解説を試みたいのは、カードの特性やデッキの構造を度外視した場合のサイドボーディングの考え方の大枠である。筆者はアリーナのスタンダード・エクスプローラーのBO3を主に遊んでいて、先シーズンではミシックに到達することができた。ガチのプレイヤーほど強いわけではないが、BO3でサイドボーディングを繰り返すうちに考えたことをここに備忘録的に残したい。
ぜひコメントなどで議論できれば幸いである。
なお、この記事はサイドボード自体にどのようなカードを採用するかについては言及しない。すでにサイドボード自体ができあがっていることを前提に、実戦でのサイドイン・サイドアウトの方針について議論するつもりだ。

この記事で解説すること/しないこと

○ サイドボーディングの抽象的な考え方
○ 典型的なサイドボーディングのパターン
× 特定の環境における特定のカードの強弱
× デッキの速度など、具体的なデッキ構築のテクニック
× サイドボード自体の練り方

弱いカードを抜いて、強いカードを入れろ

サイドボーディングは、特定のマッチアップを前提として、メインボードの最も弱いカードを抜き、サイドボードの強いカードを入れることだ。何を当たり前のことをと思われるだろうが、この当たり前を明言している記事はなかなか見当たらない。この記事で言いたいことはこの当たり前のことに尽きる。

サイドボーディングはデッキ全体を構築しなおすことではない(アグレッシブサイドボーディングなどの例外はあるが、後に触れる)。入れ替えは最大15枚までで、大概の場合、数枚から10枚ぐらいにとどまる。したがって、サイドボーディングはデッキ構築の50-55枚程度が確定したあとに、デッキを完成させる作業に近い。そのような状況では大概、候補のカードを挙げて、強さを比べ、強さ順に5-10枚を採用することになるだろう。サイドボーディングでも同じことだ。
図で表すと以下の基本図のとおり。

基本図

弱いカードと強いカードを入れ替えるためには、①メインのカードの評価②サイドのカードの評価③評価したカードを比べるの3ステップが必要だ。
逆にいえば、ほとんどのサイドボーディングの失敗は3種類に分けることができる。①メインのカードの過小評価/過大評価②サイドのカードの過小評価/過大評価③比較の失敗の3つだ。

カードの評価方法

サイドボーディングにおけるカードの評価方法は相手のデッキがわかっている点で構築段階の評価と大きく異なる。構築段階では環境全体を相手にするため、カードの評価は環境の様々なデッキを考慮する必要があり、難しい。それに比べればサイドボーディングではデッキリスト非公開でも相手のデッキはある程度わかっているのだから、そのアドバンテージを利用しない手はない。

サイドボーディングでのカードの評価は相手のデッキの何枚のカードに刺さっているか、刺さる対象の相手のカードがどの程度重要かで考えればよい(わかりやすさのため、以下ではカードの重要性はいったん考慮しない)。除去ではこれはわかりやすい。たとえば2点火力はタフネス2以下のクリーチャーには刺さるが、タフネス3以上のクリーチャーには刺さらない。したがって、<ショック>はタフネス2以下のクリーチャーが8枚のデッキに対して、おおむね刺さり値は”8”と評価できる。

詳細には立ち入らないが、このとき、デッキの特性やカードの特性の理解が重要になる。たとえば、3マナ3点火力は<ショック>より除去できるクリーチャーの範囲が広いが、マナを多く使うため遅い。そのため、特に相手のデッキがアグロなら、1-3マナのクリーチャーにはあまり刺さらない。したがって刺さり値は単純な除去範囲より低く見積もるべきだ。こういった事項は環境次第なので、個別のセオリーとして学んでいこう。

除去や対策カード以外では少々評価は難しくなるが、同じ考え方が通用する。たとえばクリーチャーを評価してみよう。自分のデッキがアグロやミッドレンジだとして、メインのクロックになるようなクリーチャーを評価してみる。そのクリーチャーが相手のクリーチャーよりサイズで優っているのであれば(遅すぎない限り)、おおむねその相手のクリーチャーには刺さっているといえる。したがってその相手のクリーチャーの枚数を刺さり値にカウントできる。
また、そもそも自分のデッキのプランとして、速度が著しく優っている場合は、自分デッキのクリーチャーは相手のデッキ全体(除去以外)に刺さっているといってよい。したがって刺さり値はおおむね60となる。

クリーチャー以外のメインの勝ち手段もおおむね同じように評価できる。勝ち手段が相手のデッキに有効であれば刺さり値はおおむね60で、そこから相手の対策カードを引いていく。勝ち手段が相手のデッキに構造的にとおりづらければ値を引いていき、無効であれば刺さり値はおおむね0となる。
シナジーが重要になるカードはシナジーしているカードのまとまりで、相手のデッキへの刺さり値を考えればよい。

正確に考えるには、ここに刺さっている対象のカードの重要性も加味する。相手のキーカードに刺さっていればその分評価は上がり、そうでなければ下がる。たとえば相手がリアニメイトであれば、リアニメイト呪文をカウンターする呪文や、そもそも唱えさせないハンデスは、その呪文にしか刺さらなくても重要性が高いので刺さり値は多く見積もる。

評価の具体的方法はいくら語っても尽きないが、この記事の主眼ではないため割愛する。いずれにせよ、サイドボーディングでのカード評価において、相手のデッキを基準とすることの有用性はおわかりいただけただろう。

このように評価すれば、相手のデッキとの対戦において正確なカード評価ができる。何度も強調するが、サイドボーディングとは、特定のマッチアップを前提とした課題なのだから相手のデッキを基準にすべきなのである。

本来なら、ここで記事を終わってもいいのだが、以下ではいくつかの帰結を見ていこう。

メインボードを順位付けせよ

よくあるサイドボーディングの間違いとして、オーバーサイドボーディングがある。オーバーサイドボーディングすると、デッキがむしろ弱くなるわけなので、サイドボーディングしないより罪が重い。

オーバーサイドボーディングの原因の一つはメインボードの過小評価である。たとえば、4枚投入されている勝ち手段をなんか多いからという理由でサイドアウト対象にするのが、よくある間違いだ。
すでにみたように、メインの勝ち手段は相手のデッキに有効であれば刺さり値はおおむね60なのだから、デッキのベストカードである可能性が高い。メインの勝ち手段は、構造的に相手のデッキに全然効かない場合(遅すぎるとか)に初めて刺さり値がおおむね0になり、サイドアウト対象になる。
基本図のとおり、サイドボーディングとは、弱いメインボードと強いサイドボードを交換することなのだから、デッキのベストカードを交換する理由はない。

基本図再掲

そんな間違いするか? と思うかもしれないが、筆者自身、よく4枚投入されているフィニッシャーの<黄金架のドラゴン>を強いとわかりつつ1-2枚抜いたりしたし、実況動画でもこの間違いはよく見る。

よく、メインボードで4枚投入されているカードはするだけの理由があるので容易に抜いてはいけない、と言われるが、それはこのことだ。

サイドボードの効き目を考えよ

オーバーサイドボーディングのもう一つの原因はサイドボードの過大評価である。
人はなぜか対策カードを過大評価しがちだが、相手のデッキのうち何枚に刺さっているかを考えた場合、大して対策が刺さっていないことがよくある。

たとえば、特定の1種類4枚のカードがあまりにうざいため、対策カードを4枚投入してしまうことがある。この場合、刺さり値でいえば4にすぎないため、大概メインボードのカードに負ける。

以上で説明としては足りるが、一つ計算をしてみよう。対策が機能する場合とは、自分が対策カードを引き、かつ相手が対策対象カードを引いたときである。逆に、自分のみが対策カードを引いた場合、腐っているので失敗である。相手のみが対象カードを引いた場合も対策できていないので失敗である。

ここで、対策対象カードが相手のデッキに4枚あるとし、対策カードを4枚投入したとする。マジックはおおむね5ターン目までに有利不利が表れてくるため、5ターン目までに引く確率を考える。
4枚のカードを5ターン目までに引く確率は約60%であるため、確率は次のようになる。

おわかりのように、失敗パターンは合計48%あるのに対し、成功パターンは36%しかない。したがって、対策対象になるカードがよほど重要なカードでなければ、4枚のカードの対策のためにサイドインをすべきでないことがわかる。

実例として、筆者は<大釜の使い魔>と<魔女のかまど>のいわゆる猫かまどコンボが入ったラクドスサクリファイスデッキをよく使う。そのデッキには猫かまど以外に墓地シナジーはないのだが、あまりにうざいのか、よく対戦相手が墓地対策をフル投入してくる。このとき、墓地対策は<大釜の使い魔>にしか刺さらない(かまどのほうは別の用途がある)ため、刺さり値は4である。こういった相手にあたると「オーバーサイドボーディングありがとう!」とつい心の中でほくそえんでしまう。

大胆に入れ替えろ

最後のよくある間違いは、評価までできているのになぜかメインとサイドを正しく比べられない現象である。

ここでサイドボーディングの基本図を拡大してみよう。

拡大図

いま、メインの強さ59番目のカードと60番目のカードを比べたとき、サイドで1番強いカードと2番目に強いカードのほうが強いとする。メイン59、60とサイド1、2を入れ替えるべきなのは、さすがに誰の目にも明らかだろう。
さて、メインボードに1枚差しのカードはないとき、メイン59と60は同じカードだろうか、違うカードだろうか。

メイン59と60は同じカードであるのが普通だ。なぜなら、同じカードは何枚目だろうが同じ評価なのが通常だからだ。同じカードなら刺さり値は特に変わらないし、刺さる対象のカードも変わらない。
これを一般化するなら、1枚サイドアウトするなら、2枚目から4枚目もサイドアウトを検討せよ、となる。ということは、中途半端なサイドアウトをするのは、サイドインするカードが足りない1種類のみともなる。

実戦心理として、あまり刺さらないカードでも何かあったとき用に1、2枚残しておきたい気持ちはわかる。たとえば自分のデッキがアグロで、相手がコントロールだとする。このとき、<ショック>は刺さり値がほぼ0と評価できたとしよう。それにも関わらず、人は相手のライフが残り2点のときだけ強いからという理由で<ショック>を1-2枚残しておきがちだ。
そもそも刺さる場面が少ないという理由でサイドアウト候補にしたのだから、数少ない極端な場面で刺さるという理由では評価は上がらない。ましてや枚数が少なくなると刺さるようになるわけでもない。
したがって、サイドボーディングでは基本的に全抜きから検討すべきで、全抜きできないならそもそも抜くべきでないことがほとんどだろう。

ただし、例外として同じ種類のカードで枠を共有している場合がある。たとえば除去が6枚入っているデッキで、似てるが刺さる条件が違う2種類のカードがあるとする。このとき、刺さり度が2種類でほぼ同じなら、条件を散らす意味でそれぞれ1から2枚抜くようなサイドアウトは可能性ありだ。
また、シナジーを考慮した場合の例外もある。カードAがカードBとシナジーしているとき、カードAを抜くことでカードBが弱くなっていくことはありうる。このとき、カードAとBをバランスよく抜くことはありうるだろう。

高次サイドボーディング

相手のデッキへの刺さり具合を評価するとき、相手のデッキ内容をサイド後の内容で想定することもできる。
いわゆる軸をずらす戦い方やアグレッシブサイドボーディングはサイド後の相手のデッキに刺さるカードの投入と言い換えられるだろう。

たとえば、自分がコントロールデッキのときに、相手は除去を全部抜いてくるだろうと予想してクリーチャーを大量投入することがある。サイド後の相手のデッキは除去がないため、クリーチャーの刺さり値が上がっていると考えれば、今まで述べた理論にあてはめられる。

これを応用すれば、相手のサイドボーディングに対策するサイドボーディング(いわゆる対策の対策)があまり強くないこともわかる。相手がサイドインするカードはせいぜい5-10枚なので、対策の対策の刺さり値もせいぜいその程度だからだ。もちろん、投入してくる対策カードの重要性にもよるが。

例外:バランス

例外としてデッキ全体のバランスを考慮する必要がある。
デッキのマナカーブを大きく崩すサイドボーディングは相手に刺さるかどうか以前に、自分のデッキを弱くしてしまう。たとえば、アグロデッキの1マナ域を4枚サイドアウトして3マナのカードを4枚サイドインするようなサイドボーディングでは、マナ基盤が耐えられない可能性が高い。
このような場合にはサイドボーディングの量を調整したり、1マナ域の最も弱いカードの代わりに2-3マナ域の弱めのカードと入れ替えることが許容されるだろう。

ほかに考慮すべきバランスとして、脅威と対策(だいたいの場合クリーチャーと非クリーチャー)のバランスなどもある。基本的な考え方は、デッキのコンセプトを崩壊させないようにする、である。

基本的にバランスは最後に考えればよい。あくまでサイドボーディングの目的は弱いカードを抜いて強いカードを入れることなのだから、バランスの考慮は一種の妥協だ。最初からバランスを考えていると、弱いカードを抜き損ねてしまうだろう。そのため、サイドイン・アウトの候補が決まってから最後にバランスを調整したほうが、正しいサイドボーディングに近づきやすいだろう。

まとめ

この記事で言いたい大原則はたった一つだ。

特定のマッチアップを前提として、メインボードの最も弱いカードを抜き、サイドボードの強いカードを入れよ

そのためには、①メインのカードの評価②サイドのカードの評価③評価したカードを比べるの3ステップが必要だ。

そして、カードの評価は相手のデッキの何枚のカードに刺さっているか、刺さる対象の相手のカードがどの程度重要かで考えるべきだ。

よくある誤りとしてオーバーサイドボーディングがある。オーバーサイドボーディングはメインデッキのキーカードの過小評価・サイドの過大評価によって起こる。相手のデッキの何枚のカードに刺さっているか、刺さる対象はどの程度重要かを評価して、客観的にサイド対象を決めよう。

弱いカードを1-2枚残してしまうのもよくあるミスだ。1枚のカードが相手に刺さらなければ残りも刺さらないのだから、基本的に抜くことをお勧めする。

実践編

ここまで述べたことを実戦で確認しよう。
といっても筆者のようなへぼプレイヤーの実戦では説得力がないだろうから、プロプレイヤーをお呼びした。
アンドレア・メングッチ先生だ。

(各マッチ1回目の)サイドボーディングは15:15、45:21、1:40:57、1:51:57、2:07:58だ。
フォーマットはモダンで、イゼット<濁浪の執政>を使っている。<濁浪の執政>デッキはわりとわかりやすい。<敏捷なこそ泥、ラガバン>や<ドラゴンの怒りの媒介者>、<濁浪の執政>といった低マナのハイパワークリーチャーを除去・カウンターで支援するテンポデッキだ(動画で使っているバージョンだと<帳簿裂き>もクリーチャー枠で入っている)。
となると、メインデッキのキーカード/勝ち手段はもちろんこれらのクリーチャーだ。

サイドボーディング部分で以下の事実を確認してほしい。

  • キーカードを(たとえ4枚あるからといって)抜かないこと

  • 対策カードを過剰に入れてないこと(特に15:15からのサイドでは<血染めの月>を一回迷って入れてないことに注目)

  • サイドアウトするカードはサイドインが足らないのでない限り全抜きすること

  • (英語が聞き取れる方は)たまにサイドボーディングの理由として相手のデッキの具体的なカードを挙げていること

1:51:57からのサイドボーディングでは原則を破っているので解説が必要だろう。
このサイドボーディングでは、<稲妻>を4枚中2枚とラガバンを4枚中1枚抜いており、全抜きの原則に反する。メングッチ先生曰く、<稲妻>をサイドアウトすると、相手のアミュレットタイタンに入っている<樹上の草食獣>を焼いて突破できなくなり、(相手にダメージを与えないと強くない)ラガバンが弱くなってしまうので若干抜くとのことだ。珍しい例だが、1種類のカードを抜いたことでシナジーが弱くなり、もう1種類の刺さり値が落ちたため、<稲妻>の2枚目よりラガバンの4枚目のほうが弱くなったと説明できるだろう。本人は言っていないが、アミュレットタイタンのサイド後は大概<忍耐>が3-4枚投入されることも考慮されているのではなかろうか(<忍耐>は3マナ3/4瞬速でラガバンを一方的に打ち取れる)。

これは珍しい例だが、少なくとも原則に反する行為をするためにはこれだけのちゃんとした理由付けが必要なのだ。実際、このサイドボーディングは議論の余地がある。<樹上の草食獣>なんて4枚しか入っていないのだから、序盤に引かれない可能性も十分にある。そのため引かれたらしょうがないと割り切って<稲妻>をもう一枚抜くという選択肢も十分あり得た。

ともあれ、プロプレイヤーのサイドボーディングですらこの理論でけっこう説明できる。この理論に気づいてからプロプレイヤーの実況動画を見るときはサイドボーディングを観察しているが、だいたいこの理論に沿ったサイドボーディングをしている。

読者諸賢も明日からこの理論をぜひ意識してみてほしい。感想・議論もお待ちしている。こういったケースはどうかとか、ここは違うんじゃないかとか、コメントや(リアル知人は)直連絡お待ちしている。


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