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晋耆や香砂六君子湯は胃がん患者の術後・補助化学療法後の生存率を向上させますか

〇はじめに

胃がんは今日でも世界的に重要ながんの一つです。特に東アジアでは発生率が高く、例えば韓国では毎年10万人あたり男性約60人、女性約25人の新規症例が報告されています。台湾では中医学が広く受け入れられ、胃がん患者にも漢方薬が処方されます。しかし、術後・補助化学療法後の中医学の効果については十分な研究がありませんでした。今回紹介する研究は、台湾のデータベースを基に胃がん患者における漢方薬の使用とその効果、処方傾向を評価したものです。

ゆき:胃がんの術後に漢方薬…本当に予後を左右するのでしょうか?どんな研究ですか?

さくら:プロペンシティ・スコア・マッチングによる7,000人規模のコホート研究だよ。典型的なCLo(C)K論文だ。どんな結果になるかな。一緒に見てみよう!

〇プロローグ

👧じいちゃん、六君子湯について教えて!
👴いいとも、小雪。

👴六君子湯は補気健胃・理気・化湿・止嘔・止咳・化痰の方剤。

👴気虚の気滞・水滞に用いるんじゃ。

👴適応範囲は非常に広い。

👴気虚では水分の吸収・排泄が低下し、悪心・嘔吐・腹部膨満感など気滞が見られる。

👴気管内の分泌過多による多痰・咳嗽など水滞も発生する。

👴半夏・生姜は胃内の溜飲を除き、悪心・嘔吐を止め、胃腸の蠕動を調整し、さらに鎮咳や痰の分泌抑制にも働く。

👴かように水滞や気滞の除去に有効じゃ。

👴六君子湯は消化器系・呼吸器系の慢性疾患で、気虚と水滞を呈するものにまず使えばいい。

👴脾気虚は食欲がなくとも食べられるが、胃気虚を伴うと食べられない・悪心が発生する。

👴脾気虚を補う四君子湯と、胃気虚を改善する小半夏加茯苓湯の合剤なので、食欲不振に対する効果も優れておるな。

👴気虚が著しい場合は黄耆を加えてもよい。

👴以上が中医学の視点による解釈じゃ。

👴派生処方の香砂六君子湯には胃がんの術後生存率を改善したとする疫学研究がある。お前さんの得意分野だな。紹介は小雪に任せるぞ。
👧好!(おっけー)まかせて!

〇はじめに

胃がんは腺がんやその他のがんを含むがんの中でも依然として主要な存在です。2018年には世界で100万以上の新規症例が報告され、最も頻繁に診断されるがんの第5位にランクされています。また、その結果として約783,000人が胃がんにより命を落とし、がんに関連する死亡の原因としても第3位に位置しています[1]。特に東アジアでは、胃がんの発生率が非常に高く、男性では10万人あたり32.1人、女性では13.2人となっています。韓国では、毎年10万人あたり男性約60人、女性約25人の新規症例が報告されています[2]。胃がんの初期段階では、通常、外科的手術が選択されることが多く、進行した胃がんに対しては放射線療法や化学療法などの補助療法が検討されることが一般的です[3,4]。2010年から2014年の間のデータによれば、韓国では胃がんの5年生存率が69%、日本では60%であり、台湾や米国など他の多くの国では40%未満でした[5]。

台湾では、伝統的な中医学に含まれる漢方薬、整体、鍼灸などが、がん患者に対する最も一般的な補完代替療法の一つとして幅広く受け入れられています。近年ではエキス製剤の品質の安定性が認められ、煎じ薬に変わって臨床現場で広く応用されています。さらに、エキス製剤の品質や利便性、台湾の国民健康保険(NHI)による単味および漢方製剤の全額償還制度の承認により、中医師は患者に漢方薬を処方しています。台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)は、国民健康保険制度における診療請求データの包括的な情報を提供しており、中医学と西洋医学の両方に関する詳細なデータが含まれています。そのため、NHIRDは薬剤疫学研究において医薬品の使用に関する適切なリソースとなっています。

先行する研究によれば、台湾の胃がん患者において、中医学の使用が全生存期間を改善することが報告されています[6]。台湾では、胃がん患者のほとんどが手術を受け、手術後には半数以上の患者が補助化学療法を受けています。中国では、手術および化学放射線療法後の胃がん治療において中医学を使用した多くの臨床研究が行われています。ただし、術後・補助化学療法後の胃がん患者に対する中医学の使用による潜在的な効果に関する、大規模な全国規模の研究はまだ限られています。そのため、今回紹介する研究の目的は、台湾における手術および補助化学療法後の胃がん患者に対する中医学の使用の効果および関連する処方傾向を評価することです。

〇エビデンス

台湾で伝統的な中国医学が胃がん患者の手術と補助化学療法後の生存率を向上:全国規模のマッチングコホート研究

【背景】胃がんは世界的に見ても依然として主要ながんであることが知られています。台湾では、胃がん患者の半数以上が手術を受けることが一般的ですが、手術後の胃がん管理における漢方薬の効果について、大規模な全国規模の研究はほとんど行われていません。この研究は、台湾において手術および術後補助化学療法を受けた、胃がん患者に対する漢方の効果と処方傾向を評価することを目的としています。

【方法と材料】この研究では、台湾の国民健康保険研究データベースから「大病患者データベース登録」と呼ばれる、重症患者の研究データベースからコホートサンプリングデータセットを取得しました。胃がんの新たな診断を受け、手術を受けた患者を登録しました。傾向スコアに基づいて、漢方を使用する患者と使用しない患者を1対3の割合でマッチングし、また中医学使用者も短期使用者と長期使用者のグループに分けました。統計手法として、イベント発生までの時間的経過を群間で比較するために、Kaplan-Meier法、Log-rank検定、Coxの比例ハザードモデルを用いました。

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