PPIは食事の影響を受ける
いずれのPPIも添付文書上の用法は「1日1回」のみで、食前か食後かの明確な記載はないが、IFによると次の通り。
ランソプラゾールはCmaxが食前は1,038だが食後では679にまで低下する(AUCは不変)。
ラベプラゾールとオメプラゾールは食後では食前に比してTmaxが2hrほど延長する。
エソメプラゾールは数値は不明だが食後投与でCmaxとAUCが低下すると記載がある(胃内pHは不変)。
ボノプラザンはTmaxが食前は1.5hrだが、食後では3hrに延長する。
総じてPPIは食前服用の方が、作用が早く or 強くなる傾向がある。
でもこれは、よくよく考えたらごく自然なこと。たいていの薬は、空腹で服用すれば小腸への移行速度が速い(胃内滞留時間が短い)ので、効果発現が早まる(Tmaxが短縮)し、小腸内の薬物濃度が一気に上がるから、Cmaxも上昇しやすい。
浜松医科大学臨床研究管理センターの古田隆久准教授も、日本医事新報社の記事でPPIの服用タイミングについて言及されているが、薬物動態学的数値と効果をイコール視してしまうと判断を見誤る。
必ずしも「Cmaxが高いから効果がいい・副作用が出やすい」という訳ではない。
なぜなら、このPPIの効果には「薬力学的」要素を考慮しなければならないから。
これには薬理学的作用機序が関与する。
PPIはプロトンポンプを不可逆的に不活性化する(要は完全破壊だな)ことで胃酸分泌を抑制するという結果を出す。このプロトンポンプは再生するのに約24hrを要するから、その間は胃酸分泌を抑制できるという訳だ。
つまり、PPIが作用するのはプロトンポンプを破壊するところまでで、その後はプロトンポンプが体内にあろうがなかろうが、胃酸分泌は抑制され続けるのだ。
上に示した4種のPPIで考えると、例えばランソプラゾールは食前でCmaxは確かに上昇する。しかし、食後のCmaxで十分な数のプロトンポンプを不活化できていれば、「食前の方が効果がいい」とは言い切れなくなる。実際、胃壁に存在するプロトンポンプの何パーセントが阻害されているのかが分からないから何ともいえないが、Cmax上昇=効果上昇 という安易な考えは危険であることは認識しておきたい。
【2018/02/25記載】
仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。