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Netflixオリジナルドラマ『アッシャー家の崩壊』ep4小ネタ解説

 この文章を書いているのはケビン・ベーコン出演のドラマ『The Following』を見てポーの小説を読みあさったただのオタクですのでお手柔らかに。


 『アッシャー家の崩壊』ep4: 黒猫、見ました。結構好きなエピだな。小説の『黒猫』の猫ちゃんよりは不気味さがない気もするけど、黒猫に振り回されて狂わされてるのはとても良かった。パートナーのジュリアスが可哀想だけど。いい子なのに。鼻折れなくて良かったね。
 さて、『黒猫』(The Black Cat)はポーのホラー作品における代表作。飼っていた黒猫を怒りのあまり殺してしまった語り手はその猫にそっくりな黒猫を見つけ飼い始める。当初は罪悪感から黒猫を大事にしていた語り手だったが段々と恐怖と怒りが湧いてきて...
という話である。これだけだとホラーという感じはしないが。
 黒猫の名前はプルートー。ドラマでもちゃんと同じ名前になっている。語り手は元はといえば動物好きで、結婚した後も色々な動物を飼っており、プルートーのことは特に大事にしていたのだが、その気持ちを変えたのが酒。日に日に機嫌が悪くなり苛立ちを抑えられなった結果パートナーとペットに暴力を振るうようになり、ある泥酔した晩、プルートーに手を噛みつかれ怒りのあまりペンナイフで眼球を抉り取る。そしてある日、プルートーの首に輪縄をかけて木に吊るしてしまう。
 ドラマではレオはあまりプルートーのことを可愛がっているように見えない(膝に乗ってきたプルートーに悪態をついてたし、パートナーの猫ちゃんだから面倒みてるように思える)し、酒ではなく薬の勢いで、刃物で黒猫を殺す。そしてラッキーなことにジュリアスがレオに殴られることはない(鼻は折れかけたが)。また、目を抉り出すタイミングも違う。ドラマではパートナーにプルートーを殺してしまったことがバレないように代わりの黒猫(幻覚だったが)を連れて帰るが、小説ではたまたま飲み屋にいたプルートーそっくり—首周りの白い点を除いて—の黒猫を連れて帰る。

幻覚の猫ちゃん

 そんな連れ帰った黒猫にどちらも狂わされるのだが、原作ではその黒猫もプルートーのよう様に目がない(これは後に判明する)上に、首周りの白い模様がどんどん広がり縄が掛かっているようになっていったことからこの黒猫の不気味さが見て取れる一方、ドラマではそもそも死因が違うので首元の白い模様はなし&目が抉り取られるのは黒猫が取り替えられた後で、黒猫の不気味は多くの生き物を飼って部屋に置いていく行動で描かれている。また、大きく違うのが原作では黒猫は語り手に懐いてる(懐きすぎて語り手は怒りを増していく)一方、ドラマの黒猫はレオに危害加える気マンマン。後にくり抜かれることになる目と同じ場所を先制攻撃をする。『黒猫』を知っている人からすれば、ワロタとなるシーンである。

『黒猫』における印象的なシーン

 さて、原作では地下で黒猫に怒りが爆発した語り手は斧で黒猫を殺そうとするがそれを止めようとしたパートナーの頭をかち割って殺してしまう。そして部屋の壁の中に死体立ててを隠すのだが、警察が捜索に来た時に壁の中から猫の鳴き声が聞こえ、壁を取り払うと腐敗した死体の上に黒猫が真っ赤な口を開け一つしかない眼球をらんらんと輝かせながら座っていた…。おや、この猫ちゃんの状況どこかで見たことありますね。そう、ドラマで暴走したレオが見た幻覚である。小説では猫を壁の中に埋めたのとは逆にドラマでは猫を壁の中から外に出そうとし、壁をムジョルニア(突然のギャグかな?)で破壊しまくる。そして最後に破壊した壁の中にレオが見たのは腐敗のヴェルナの死体の上に乗る黒猫の姿。『黒猫』で印象的なシーンが、状況は違えどドラマ内で再現されているのはテンションが上がる。ジュリアス可哀想〜。ドラマの黒猫(猫ちゃんどころか生物の死骸も)は全てヴェルナによる幻覚であるから、ジュリアスから見れば、パートナーが薬のやりすぎでまじで頭おかしくなって幻覚見てベランダから落ちた、という状況になる。可哀想。

壁の中の黒猫
服着てなかったやん

 因みに原作内ではプルートーが驚くほど賢い黒猫ということから語り手のパートナーが古くからの民間伝承を引き合いにだして、黒猫は全て魔女の変装だと強調している。ドラマでは黒猫がレオに負わされたのと同じ怪我をヴェルナが負うシーンがあるし、最後、死んだレオに近づく黒猫の(グッチの)首輪についているイニシャルは"P"。まさかプルートーの頃から?意図的かどうか分からないが、原作で語られる伝承的な部分も描かれているのかもしれない。黒猫、かわいいのにね。グッチの首輪かぁ。

プルートー?

 因みに(2回目)ロデリックがフレデリックについて自分に一番似ているとし、苛つきを昇華できずに他へぶつけると言っていたが、『黒猫』で描かれているのは"天邪鬼"。まぁどっちもクソなんですけど()ジュリアスが殴られのは良かった。鼻は折れかけたけど。(まだ言ってる)

 さてさて、最後にep4に出てきたポー要素の話をしよう。
 まず、ep1の時にも言及したがレオはナポレオンの略でフルネームはナポレオン・ボナパルト。『眼鏡』の語り手の名前である。『黒猫』の語り手は名前がないので他の作品から持ってきたのであろう。原作における彼はドラマと同じく親族の遺産を相続することになる。共通点といえば髪の色が黒なところと、多血質で熱しやすく向こう見ずなタイプというところぐらいだろうか。好きな人に対して常に献身的な讃嘆の情を捧げ続けてきた…キャハハッ。ドラマとだと、浮気してたからな。
 さて、ロデリックとデュパンが話しているシーン。地下からの物音をロデリックが"マデラインが機械をいじっている音"としたが、恐らくあれは『アッシャー家の崩壊』におけるマデライン姫が急ぎすぎた埋葬から抜け出す音だろう。まぁ原作ではロデリックは恐怖のあまりギリギリまで黙っていたが。
 警備員に変装したヴェルナの写真見たロデリックとマデライン。マデラインが向かったのは昔初めてヴェルナと出会ったバー。今では廃墟となっていたその扉に描かれていたのは大鴉。言わずもがな『大鴉』ですね。カラスも飛んでくる。方やロデリック。地下で壁の中からスズの鳴る音を聞く。『アモンティリヤードの酒樽』ダァアアアアア。多分埋められるのはグリスウォルド。埋めよう、早く。埋めよう。埋めて。はよ。

The Raven

 そしてデュパンとの出会いのシーン。(結構前から知り合いだったんですね〜原作のロデリックと語り手ほどではないけど、昔からの友人を招くという点においてはシナリオが一致する。)ここでようやくオーギュスト・C・デュパンらしい"観察眼"が見て取れる。部屋の様子を見ただけで、ロデリックとアナベルの暮らしぶりや、どんな行動をしていたか当てる。良いシーンでした。因みにフォーチュナート製薬の治験責任者として名前が上がった"ブレヴィット"=Brevetは『使い切った男』に出てくる単語(Brevet Brigadier General John A.B.C. Smith )である。
 また、タマレーンとウィリアム・ウィルソンの"ゴールドバグ"。そのロゴは"黄金"虫になっている。 
 さて、ep4の感想としては「ジュリアス生きててよかった〜」(n回目)である。実はep3あたりで部屋にハンマー(ムジョルニアとは気が付かなかったが。)があることは気づいていたが、斧じゃないのでスルーしていた。斧だったらワンチャンジュリアスも死んでたかも?まぁハンマーでも、こう、ガンといかれる可能性もあったし、そうなるかもとドキドキしてた。
 あと、ロデリックが「私が指揮官だ!」と言った時、「キャプテンパイクーーー!」となったスタトレオタク。Yes, Captain! と叫んだ私であった。
次のエピは『告げ口心臓』。このエピも語り手は死なないので、さぁどうやってヴィクトリーヌは死ぬのか。楽しみだ。あと早くグリスウォルドを埋めてほしい。

『黒猫』、読んでね。

The Black Cat (原文)↑

 朗読もあるよ。
https://youtu.be/vLmS8t0F4To?si=tznusEEhLEZvJbff
 クリストファー・リーさんの朗読シリーズ、おすすめです。

 では、auf Wiedersehen. 

参考
エドガー・アラン・ポー、巽孝之訳(第七刷2016年)『黒猫・アッシャー家の崩壊—ポー短編集Ⅰゴシック編—』
エドガー・アラン・ポー、巽孝之訳、2015年『大渦巻への落下・灯台—ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編—』
E・A・ポオ、田中西二郎他訳(第46版2020年)『ポオ小説全集3』創元推理文庫
Edgar Allan Poe, The Fall of the House of Usher and Other Writings, London ( Penguin Books), 2003

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