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気になるあいつ その1

Uちゃんは今から十年前、コンビニでバイトをしていた。

「最初からヘンな人だな、って思ってました。でも店長の知り合いらしいし」

中年過ぎの男だった。Kという。
二十代前半でかためられたバイト仲間の中では浮いた存在だった。
店長のA氏は苦笑しながら、

「ま、ちょっと暗いヤツだけどさ。悪いヤツじゃないし。仲良くやってくれよな」

とバイト連中に言った。
メンバーは店長の知り合いならしょうがないか、というあきらめ顔。
ただ、Uちゃんだけは生理的嫌悪感を覚えた。

「別にブサイクじゃないんです。身なりが汚いわけでも。ただ」

目に精気がない。魚類を連想させるのだ。
その魚のような目で、KはUちゃんをじろじろ見た。

「彼氏に相談しても、お前自意識過剰なんじゃないの? って」

Uちゃんはアイドルのように整った顔立ちをしている。
レジに入っている時も、品出しをしている時も、
UちゃんはKの視線を感じた。
かがんだ時や、振り向いた時。
必ずKの視線はUちゃんの顔や体にあった。

「もう気持ち悪くて。店長に頼んでシフトの調節をしてもらいました」

しかしどうしても同じ時間に入る時もある。
そんな時、UちゃんはKの視線を感じないように意識した。
それでもKはUちゃんを盗み見た。
Uちゃんは必要な申し送り以外、徹底的に無視した。
そんな日が何日か続いた。


ある時、

「どうしてもはずせない用事ができて!」

と同僚に拝まれ、UちゃんはやむなくKと同じ日にバイトに入った。
客の少ない日だった。
レジに入っていると欠伸が出る。
と、横目でKの様子を見た。
何かをノートに書いている。

「こう、口で小さく呟きながら手のひらサイズのノートにね」

退屈な日だったし、
仕事に支障をきたすというほどでもなかったのでほっておいた。


三十分経過。
Kはほとんど姿勢を変えず、書き続けている。
気を使う性格のUちゃんは絶えられず、

「何書いてるんですか?」

と尋ねた。
Kはびっくりしたように体をそらせると、

「いや……大したもんじゃないけど」

と言ったきり、黙り込んだ。
Uちゃんは聞くんじゃなかったと後悔した。
何時間か経って、シフト交代の時間になった。
Uちゃんは素早く控え室に行こうと思ったが、
それより早くKが控え室に入り、内から鍵をかけた。

「控え室は男女兼用なんです。
 まあその部屋で下着姿になって着替えることとかはないですけど」

それでも男女兼用はいやでしょうがなかった。
Kのような不気味な男も使う部屋なのだ。
レジの前でUちゃんは、
ぼんやりと控え室が開くのを待っていた。

と、足元に丸められたメモがある。
Kが立っていた辺りだ。
ふと好奇心が沸いて、Uちゃんはメモを拾い上げた。
メモの中に自分の名前を見つけた。
文章はこう続いていた。

『UちゃんUちゃん。性交してください。』
<つづく>




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