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何のために、の家 その2

彼女が大学生の頃の話。
Eさんは合コンドライブのようなものに赴いた。

女の子はEさんともう一人Yさん。
そしてメンズが二人。
同じサークルのメンバーだ。
Yさんとは仲が良かったが、
メンズとはほとんど面識がなかった。
だからこそのドキドキがEさんには心地よかった。


向かった先は信州。
町からもそう遠くない山。
近くにキャンプ場のような場所もペンションもある、
割合にメジャーなところだったはずだ。
木々が車道にぐいっとせり出した、
自然のトンネルのような道を、
くねくねカーブしながら車は走った。

「おっかしいなあ。もうそろそろ下るはずなんだがなあ」

ドライバーのG君は言った。
助手席のS君も、

「前にも通った道なんだよ。覚えてたはずだよな」

と賛同する。
まあ急ぐ道行きでもないわけだし、
太陽はまだ傾いてもいない。
四人の心には余裕があった。

「あ、こっちか。右の方だったか?」

三本に分かれている道の、
さっきは真ん中を選んで走った。
G君は次に右の道を選択した。
が、走り出してすぐアスファルトは土に変わった。

「ねえ、やっぱりこの道も間違えてない?」

「うーん……。っぽいな」

とはいえ道幅は車幅ぎりぎりだ。
方向転換するには広い場所に出るしかない。
G君はなおも車を走らせた。


あ。ほら、ねえあれ」

Yさんが身を乗り出し、斜め前を指差した。
細い車道からさらに横道が延びており、
その先にテニスコート二面くらいの広場が見える。
広場のど真ん中に家が建っていた。


見れば見るほど異様な家だ。
和風建築の平屋で、縦横の長さがほぼ同じだった。
家の周りを取り囲むように、
幅1メートルくらいの庭がある。
その家を建てるためだけに山が拓かれた。
そんな感じだ。

「へーんな家」

Eさんが言った。

その言葉を合図に、
ドライバーのG君は路肩に車を停めた。
そして車を降りると大またで家に近づく。

「ねえ、ちょっと。いいよ、コワいから」

Yさんの制止も聞かず、
G君は庇の上を手で探った。

「やっぱり。みーっけ」

G君はしたり顔で、手にした鍵をちゃらつかせた。

「どう見たって廃墟だよ、まだ綺麗だけど。
打ち捨てられて間がないんだよな、きっと」

そう言って手早く開錠する。
助手席のS君も車を降りた。
やむなく、女子二人も後に続く。


入ってみると、家はさらに異様の色合いを濃くした。
玄関が長細く、家の端まで続いているのだ。
いや端までどころではない。
玄関が家をぐるりと取り囲んでいる。
真四角の家の四面のすべてが縁側のようになっているのだ。

家の東西南北すべての外壁の内に玄関があり、
どこからでも家の中に上がれるようになっている。
そして玄関はすべて回廊のようにつながっている。
先に入ったG君が玄関を歩いて一周してきた。

「ほんっと変な家だな」

G君は首を傾げた。
<つづく>



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