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トイレの怪談

Rさんの実家はかなりの頻度で出るという。

郊外の古い一軒家なのだが、
あまりに家鳴りが激しいので一度神主さんにお祓いに来てもらったらしい。
そしてありがたいお札をもらい、
家の各所にそれぞれのお札を貼った。
すると家鳴りはぴたりとおさまった。

そのまま何年もお札は貼りっぱなしだったのだが、
Rさんが京都で一人暮らしをしはじめてから一年過ぎ、
久しぶりに実家に帰ったらはやり家鳴りがする。
前ほどひどくはなかったのだが、
それでもぴしぴしと軋むように鳴る。

見るとお札は貼りっぱなしなのだが、かなり古びている。
効力を失っているのかもしれない。
そう思い、また神社に話したほうがいいのかな、
とRさんはぼんやり考えた。


実家に帰って三日目。
Rさんは居間でテレビを見ていた。
と、玄関の戸が開いて、ぺたぺた廊下を歩く足音が聞こえた。
あの歩き方は父だ。
そう思っていると、乱暴にトイレのドアを開け閉めする音が聞こえた。
その音があんまり大きかったので、

「お父さん。もうちょっと静かにドア閉めてよ」

とRさんはトイレに向かって声をかけた。

「何だ?」

ぬっ、とキッチンから顔を覗かせたのは、
他でもないRさんのお父さんだった。

「あれ? じゃあトイレの人は誰よ?」

キッチンではお母さんが忙しそうに動き回る音が聞こえる。
他にこの家には人はいない。
状況を理解した瞬間、Rさんは短い悲鳴をあげた。

「お父さん。……トイレに誰かいる……」

「……まさか」

お父さんは疑わしげにそう言うものの、
確かにトイレに入る音がしたのだ。

Rさんは手にお父さんのゴルフクラブを持ち、
お父さんの後ろに隠れながらトイレに近づいた。
トイレの電気は点いている。
中に気配は感じられない。
Rさんは意を決し、トイレのドアに手をかけると、
勢いよく開いた。

はたして、中には誰もいなかった。

「ほら見ろ。いるわけがない」

お父さんはやれやれ、といった感じでドアを閉めた。
Rさんはがっくりと疲れた。

しかしトイレから離れようとしたRさんの耳にもう一度、
聞こえるはずのない音が聞こえた。
かちゃり、という音だ。

トイレのドアを見ると、内側から鍵がかけられていた。




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