追伸 その2
棺の前でS君の遺影を見ても、なぜかG君の胸に悲しみの感情は湧かなかった。
「ただ、なんで気付いてやれなかったんだろ、って。……あとね」
S君が逝った前日の夜。
またも係長の携帯にS君から連絡があったようだ。
係長はその時は気付かず、
奇しくも翌朝、S君の訃報を知らせる部下からの電話で、前夜のS君からの着信の存在を知った。
着信を知らせる緑のLEDが物悲しく明滅していたのだ。
ここにいたんだよ、と言わんばかりに。
伝言は残されていなかった。
「最期まで俺に電話をしてこなかったのが、さ。俺ほんと何やってたんだろ、って」
死後、幾日も経っていなかった。
係長の携帯に、死んだはずのS君から電話があった。
「見たことない番号で。かけなおしても、使われておりません、ってアナウンスがかかる。でも」
間違いなくS君の声なのだ。小声で何事か告げている。
「それは仕事の引継ぎ電話だったんだって」
S君はぼそぼそと、しかし一方的に引継ぎを続けた。
係長が恐怖に凍りつきながら何を話しかけても応えなかった。
ただ抑揚のない声でつぶやくように話し続けた。
そして最後に、
『……本当にすみませんが、よろしくお願いします』
と付け加えたという。
S君からの電話は、その後彼の同僚の携帯にもかかってきた。
内容は同じようなものだった。引継ぎだ。
顧客リストの更新にはこのサイトを使えばいい、とか。
どこそこの客は何時のアポイントがベストだ、とか。
どうでもいい内容だった。
<つづく>
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