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すうーっ。 その2

その日の夜。
さっそく妖怪が出たらしい。

O君が布団でとろとろとまどろんでいた時。
すうーっ、と壁から足が出てきた。
それは辺りをうかがうような様子だったらしい。
すうーっと出てはすっと引っ込み、
またすうーっと出ては素早く引っ込み。

眠さで感覚が麻痺していたO君は、
出ては引っ込むその白い足を無感動に見ていた。
そしてまた足が出て、
今度は一気に反対側の壁に走りぬけた。
舞台のカミテから出てシモテに入るように、
それは一瞬で対面の壁に吸い込まれた。

しかし、一瞬ではあったが薄明かりにその姿を見た。
上半身裸の、だるまのような生き物だった。
大きな頭、丸みを帯びた胴体に手はない。
丸い胴体から、直接細長い白い足がはえていた。

そいつはシモテの壁の中に入っていったかと思うと、
またしばらくして壁から足をすうーっと出した。
そしてまた素早くカミテの壁の中に走りこんだ。
そいつは土の壁を自由に出入りできるようなのだ。

ただ、目的はわからない。
結局化け物の目的など人間に理解できるわけもないのだ。


僕はこういう話を色々な人からたくさん聞いてきたが、
この状況で体験者がとる行動は大体一つだ。
しらんぷりをする。または、
気付いていてもアンタになんか興味ないですよ、というふりをする。

O君もそうしたようだ。
そうすることが最善に思えた。

結局その後何回かそいつはカミテからシモテを往復した。
O君はいつしか眠ってしまったようだ。
翌日すぐに、思い当たる木箱を仔細にチェックした。
原因と思しきものはすぐに見つかった。
壁に接地していた面に、古い紙が貼ってあったのだ。

それには毛筆で、
縦四本・横五本の線からなる格子柄が描かれていた。


それが何なのかはわからないが、
とりあえずは木箱を元あった場所にきっちりと置いた。
壁に日焼けの跡があったため、
寸分たがわず置くことができたようだ。


以来、そいつは出てくることはなかった。
その木箱のことは両親に聞いても、
「存在すら知らない」と言われたそうだ。
いつかきっちりとお払いをしなきゃ、
と言ってO君はまたからからと笑った。

O君は、写真くらい撮っておけばよかったな、
という好奇心をあわてて引っ込めた。
そういったものは、
もう出てこないのならそれに越したことはないのだ。



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