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lullaby その2

Rはしばらくののち、
初めてのオリジナルソングを書くことになる。
“LOVE SONG”が何とか弾けるようになり、
自信をつけた彼は無謀にも作曲にチャレンジしたのだ。

たった一曲しか弾けないのにオリジナルなんて大丈夫?
そうWさんは聞いたが、
Rは自信満々だった。
もうメロディーは思いついている、とのこと。


それから三日後。
彼は一枚のルーズリーフをWさんに見せた。
歌詞だった。
詞の一行上には詞に添わせるようにギターコードも付いている。
何度も消しゴムで消した跡があった。
一番上の行には、

“lullaby”

と書かれていた。
この曲のタイトルだ。
さっそく放課後の教室で、このlullabyをRは弾き語った。


『でも彼女にとっては、
ちょっと残念な完成度だったみたいですね』

その曲は“LOVE SONG”によく似ていた。
十人が聴いたら七人くらいは、

「これってチャゲアスの“LOVE SONG”に似てない?」

と言いそうな曲だった。
だがRは真剣そのものだ。
一心に歌った後、彼は不安げにWさんの顔を見た。

「……どうかな?」

「……いいんじゃない? あたしは好きだよ」

Wさんはそう言った。
それは本心だ。
チャゲ&飛鳥の曲に似ていようがいまいが、
このlullabyは世界にひとつの“Rが初めて書いた曲”なのだ。
その事実に偽りはないし、
それがWさんの心に響かないはずがなかった。


彼女のオーケーを聞いてRは満面の笑みを浮かべ、

「だろー? 自信あるって言ったろー?」

と言った。
その笑顔が、その言葉がWさんには可愛くてならなかった。

『その辺りで、もう彼女は自覚していたんだと思います』

自分がRに恋心を抱いている、と。


Wさんから想いを告げられた時、
もちろんとまどいはあった。
何しろ純粋な彼のことだ。
二人の関係が壊れることを恐れていた彼のことだ。
しかし、もちろん断る理由などあろうはずもない。
二人は恋人同士になった。
出会って十七年目のことだ。

家も近所だった二人は、
それからはさらに頻繁に会うようになった。
映画に行ったり買い物に行ったりもしたが、
歌うことも忘れなかった。
スタジオに入ったり、
以前のように河原に行って二人で歌った。

Wさんは歌が上手かったし、声も美しかった。
Rの演奏は依然として拙かったが、
自分の弾くギターに合わせて彼女が歌ってくれているという事実に、
Rはただもう感動していた。

――きれいな声だなあ。
毎日でも聞いていたいような声だなあ。

そう思い、満ち足りた気分でRはギターを弾き続けた。


lullaby以外にも、
Rはそのあと何曲か書いた。
いずれもWさんにために書かれた恋の歌だ。
そのどれもがWさんには愛しかった。

『まあでも、
彼が初めて書いた曲には敵わなかったようですね』


深く印象に残っている曲と言えば、
やはりlullabyなのだ。
曲の完成度でいえば、
最初に書かれたこの曲が一番低い。
しかしその拙さゆえに愛着も強くなり、
ずっと彼女にとって忘れられない曲となる。


二人の蜜月は続いた。
高校を卒業し、
少ししてからWさんは妊娠した。
もちろんRの子だ。
<つづく>



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