『最後のジェダイ』が破壊した、ルーカスの「善」と「悪」の捉え方

世界的に物議を醸した『スターウォーズ 最後のジェダイ』。ナンバリングから除外するようにとの署名運動も行われるなど、スターウォーズのファンの間で未だに論争になっています。

個人的には楽しめる作品でしたが、気になる点がいくつかあったのも事実です。その中の一つ、DJというキャラクターが発言した「良い奴ら(グッドガイ)」と「悪い奴ら(バッドガイ)」という言葉は、本作そしてシークエルトリロジー全体の悪い部分を象徴していると感じました。

レジスタンスは善人で、ファーストオーダーは悪人なのか?

DJというキャラクターはフィンに対し、個人の利益のために善悪どちらにも加担する人々が存在する、ということを諭します。その際に、レジスタンスを指して「グッドガイ」、ファーストオーダーを指して「バッドガイ」と語ります。

そもそも、レジスタンスもファーストオーダーも一概にグッド、バッドで分けてしまえるほど単純なものなのでしょうか。この場面は初めて観た時から非常に疑問に思うポイントでした。

結局この後、レジスタンスとファーストオーダーの善悪二項対立についての問題提起はなされませんでした。あくまで「世の中には善悪どちらでも関係なくすり寄る、利己的な人間がいる」というだけの話に終わったのです。

この善悪の定義、これはジョージ・ルーカスが今まで築いてきたものを無碍にする、今作中でも最も問題視すべきところだと、私は考えています。

ジョージ・ルーカスが提示してきた 善悪の曖昧さ

元々のスターウォーズは勧善懲悪の物語でした。しかしジョージ・ルーカスはその後作品を作り続ける中で、単純な勧善懲悪で終わらないようにスターウォーズの世界を拡張してきたのです。

旧三部作では、善人が悪の帝国を倒すという、誰の目にもわかる単純な物語構造でした。

その後の新三部作では、善人のアナキンが悪のダース・ベイダーに堕ちるという物語を描き、善悪の曖昧さを描いています。

この新三部作で特に素晴らしいのは『エピソード3 シスの復讐』。

アナキンの悩みに対し、あくまで教義にこだわり続け、情が感じられないジェダイ達の姿と、アナキンの気持ちを汲み取り親身になって語りかけてくるパルパティーンの姿が終始対比的に描かれます。観客も観ている間中、「本当にジェダイの教えは正しいのか。ダークサイドの方がより人間らしい良い生き方なのではないか」と疑問をいだくことになります。

これまで真剣にスターウォーズを観てきた人ほど、今までの価値観が大きく揺さぶられたことでしょう。アナキンがパルパティーンの味方をするのも止むなしと感じられる展開になっています。

一方で物語の後半、アナキンが子どもたちを手に掛けるところを観て、この行為だけは許されない悪だ、と我々は痛感するのです。

物語を通して何が善で何が悪なのかを常に考えさせられ、しかし最後には世の中には絶対に許されない悪と、揺るぎない善が存在するのだということを実感させられる、という非常に良くできた構造なのです。

これらの内容を観客に向けてセリフで説明するのではなく、キャラクター達の行動や発言を通して観客の心に想起させるという作りになっていることも、ジョージ・ルーカスのストーリーテリングの巧みさが見て取れます。

ジョージ・ルーカスは単純な善悪の対立で始めた物語を、30年かけてブラッシュアップしていき、その曖昧さを私達に提示してくれていたのでした。

ルーカスの善悪観は打ち捨てられ 本当の「スターウォーズである」意味も失われた

ジョージ・ルーカスが6作品を手掛ける中でどんどん深まってきた善悪というものの捉え方

その善悪の追求はシークエルトリロジーには全くといっていいほど受け継がれませんでした。作品全体が旧三部作的な冒険活劇に回帰し、「こちらは善で、相手は悪」という二項対立に逆戻りしました。

その決定的な証左とも言えるのが、先述の「グッドガイ」と「バッドガイ」というセリフに他なりません。

これは『最後のジェダイ』の大きな罪だと言えるでしょう。しかし、もちろん『フォースの覚醒』のスタートにも問題があったと言えます。そしてその後の『スカイウォーカーの夜明け』もそこを覆すことは無く、そのまま「悪いやつを倒してハッピーエンド」というところに着地してしまいました。

ルーカスフィルムはシークエルトリロジーを作る際に、ジョージ・ルーカスのアイデアにNOを突きつけたと言われています。その際に、彼が築いてきた善と悪の価値観までまるごとゴミ箱に捨ててしまったのでしょう。

「スターウォーズである」ということはミレニアム・ファルコンが空を飛ぶ映像のことではありません。時代に合わせて変化していく善と悪について考え続けることこそが、「スターウォーズである」ということだったのではないでしょうか。

スターウォーズの善と悪の物語は、40年の時間をかけて振り出しに戻ってしまったです。