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ADFEST2023視察レポート前編。ADFESTから見えてきたクリエイティブトレンド「デジタル&ソーシャル」

新型コロナウイルス感染症の影響で、2021年からオンライン開催となっていたアジア最大級の広告祭「ADFEST」。今年3月、タイ・パタヤで3年ぶりに現地開催され、ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は現地視察に行きました。
そして、視察報告オンラインイベント「FUTURE VISION」をクアドラ主催で2023年4月26日(水)に実施。4年ぶり4度目の視察となるクリエイティブディレクター阿部達也と司会役のプロデューサー溝渕和則が登壇しました。
イベントでは、アジア太平洋地域の最新のクリエイティブトレンドや日本のクリエイターとして心がけるべきことを分析していきました。

noteでは本イベントでのレポート内容を前後編の2回に分けてまとめていきます。前編である今回の記事では、まずはADFESTから見るアジア太平洋地域の最新クリエイティブトレンドについてお届けします。

左から、阿部達也、溝渕和則

例年からのスケールダウン

3年ぶりに現地開催されたADFEST。まず今年の大きな変化の一つとして見られたのが「スケールダウン」でした。海外メディアでも「伝統的な広告キャンペーンが少なく、複数のカテゴリーでグランプリが少ないことは、広告業界が伝統的な力を早く取り戻す必要があることを示唆している。」とイベントのスケールダウンが話題となっていました。
今年のADFESTは2019年の現地開催の際と比べてどれほどのスケールダウンがあったのか、エントリー数などを比較しながら見てきましょう。

  • エントリー数:1699作品(2019年より33%減)

  • 開催期間:3日(2019年より一日減)

  • 授賞式:2日(2019年より一日減)

  • 参加都市数:45都市(2019年より26%減)

  • 参加者数:857名(2019年より22%減)

  • 審査員:63名(2019年より26%増)

全体的に減少傾向にあるものの、審査員のみ増加していることが分かりました。また、審査員の対応範囲にも変化がありました。

こちらはADFESTのサイト内で公開されている審査員紹介ページです。
フィルム部門、アウトドア部門、プレス部門、ラジオ&オーディオ部門の4部門を1つの審査員グループが審査していることが分かります。通常、1つの審査員グループがこれほど多くの部門を審査するということは考えられません。細かい原因は推測にはなりますが、カテゴリーの変化によって審査部門にも変化が見られた可能があります。

今年のテーマ「立ち上がるアジア=RISE」

そんなスケールダウンの傾向が見られたADFESTですが、今年はどのようなテーマを掲げていたのか解説していきます。
パンデミックの余波で落ち込む世界。そこから立ち上がる=RISEが今年のテーマとなっていました。
毎年コンセプトムービーが制作されますが、今年は、撮影機材やクリエイティブで使用する機材で構成され、蔦が這ったロボットが永い眠りから覚めて立ち上がる様子が描かれていました。まさに今回のテーマ「RISE」が表現されたものでした。

ADFESTを振り返る意味とは?

改めてではありますが、ADFESTを振り返り、学びを得る意味を考えていきます。
世界3大国際クリエイティビティフェスティバルのひとつ「Cannes Lions」は全世界で通じる新しさや影響力の祭典です。そのため審査員は欧米系の方が多く、受賞作品も欧米系の方の作品が多い印象です。価値観や考え方としては、リザルトや持続性が評価される傾向にあります。

一方、ADFESTはアジア圏のカルチャーに理解がある祭典です。リザルトや持続性はCannes Lionsに比べるとそこまで高く評価されることはなく、勇敢さや簡潔さやが評価される傾向にあります。
Cannes Lionsの作品は遠い世界のものという印象を持つことも少なくはありません。しかしADFESTの作品は、アジア圏の国々の特徴を捉え、課題解決をするため、日本人にとっては普段の仕事に近く、学びを活かしやすいのです。

今年の傾向「デジタル&ソーシャル」

では、今年のADFESTから得られる学びや傾向は何だったのでしょうか。
まず、今年から「デジタル部門」が「デジタルソーシャル部門」に変わり、部門が包括するサブカテゴリーも増加しました。
今、広告業界ではインドが力を付けてきており、Cannes Lionsでも数多くの作品で受賞している中で、従来のインドではプリント部門やアウトドア部門での受賞が多かったのですが、今年はデジタルソーシャル部門での受賞が目立ちました。インド人審査員は「これは、私たちにとって大きな変化で、作品の性質が進化していることを物語っている。」と述べていました。

また、現地では複数のセミナーが開催されますが、今年はデジタルについて語るセミナーが多い傾向にありました。一見、タイトルだけではデジタルとは関係ないようなセミナーでも、深堀ってみるとSNSと絡めた内容になっていたりと、デジタルに触れていることが多かったです。

開催3日間のセミナースケジュール。緑で囲っている部分がデジタルについて語るセミナー。

さらには受賞数TOP6の作品すべてがデジタル&ソーシャルをテーマとした作品でした。

これらのことから、今のクリエイティブトレンドはデジタル&ソーシャルであるということが分かります。

しかし、デジタルを活用した作品が高く評価されていることは事実ですが、デジタルを使えば何でも良いという訳ではありません。
審査員からは「多くのクリエイターが、AIがなくてもできたであろう作品のケーススタディに、『AIで作った』と書き込むようになることを心配している。」という声もありました。また、審査の過程で本当にAIで作っているかリバースエンジニアリングして確認する、という話もあります。
PR映えのためにデジタルの要素を付け加えるなど、必然性のない場面でデジタルを使う必要はないということを忘れてはいけません。

さらに、「消費者はモバイル空間で生活しており、その画面は彼らの人生である。私たちは、ソーシャルプラットフォームにコンテンツを投稿するだけにとどまらないことを恐れてはならない。」という声もあります。
つまり、デジタル技術が作るソーシャルネットワーク空間は、今やほとんどの人が過ごす場所であるが、その中でただ目につけば良いわけではなく、消費者の心情を汲み取り、どのような広告を届けるべきか考える必要があると言えます。

世の中に届けるべきコミュニケーション「ストリート上のストーリー」

デジタルがますます発達していく中で、我々は世の中にどのようなコミュニケーションを届ければ良いのか分析していきます。

GoogleはZ世代がどれくらいの尺の動画を好んで視聴しているか調査を行っていました。調査結果によると、6秒以下のスナックムービー、または60秒以上の上質な動画がよく観られているようです。TikTokやYouTubeのショートなどを視聴したり、そこをきっかけに長尺の動画を視聴していると推測できます。
一方で15秒、30秒のいわゆるテレビCM尺の動画はあまり視聴されておらず、このことからテレビよりネットで観ている人が多いと考えられます。

つまり、SNSのタイムラインが現代のストリートであると言えます。我々はデジタルという手段を使うことを目的にするのではなく、そこにいる人の気持ちに応えることを目的にすべきなのです。

ある審査員は「人々はもはや、完全な物語を受け身で与えられることを望んでいない。デジタルでは、ブランドは語る以上のことができるからだ。」と述べました。
つまり、インタラクティブなストーリーを提供することが大切であり、その手段としてデジタルが向いていると言えます。
今回のADFESTの受賞作品の要素を分解すると、このことが当てはまっている作品が多く見られました。いくつか事例を紹介します。

  • 事例①「VOICE WATCH」

「VOICE WATCH」はモータースポーツ観戦のバリアフリー化に向けて、視覚障がい者のための実況音声をリアルタイムで生成するAIです。
スポーツ観戦の際、健常者は視覚で情報を得ながら、解説音声を聞きます。音声解説はあくまで視覚情報の補足でしかなく、視覚情報を得ることができない視覚障がい者にとって、音声解説は情報量が足りず、スポーツ観戦を十分に楽しむことができません。
この課題にフォーカスした音声ガイドとして「VOICE WATCH」が制作されました。

スマホカメラとタイミングモニターの情報をAIが処理することで状況をリアルタイムで情報化し、音声で解説します。解説者が状況を見ながら話すことの違いとしては、AIが情報処理を行うことでより様々な状況に対応することができます。
今後の発展として、解説者が複数いるような大きな大会だけでなく、マイナースポーツや小学校の運動会のような小規模な場所での使用も可能になってきます。

  • 事例②「Knock Knock」

「Knock Knock」はDV被害者のためのスマホ用通報サイトです。
韓国にはDV被害者が通報するための112という電話のダイヤルが存在します。しかしDV被害は室内で起き、加害者と被害者が非常に近い距離にいるため、加害者に知られずに通報することは難しいという問題があります。
これを解決するため、音声を介さずに通報できるツールとして「Knock Knock」が生み出されました。

112をダイヤル後、画面を2タップすることでスマホのカメラが起動し、部屋の様子を共有することができます。
また、Google検索画面風のサイトが送られてき、そこを通じてチャットで警察に状況を通報できます。加害者から見るとネットで検索しているようにしか見えないため、加害者に知られずに通報することが可能となりました。

  • 事例③「CITY HALL OF LOVE」

「CITY HALL OF LOVE」は国の慣習や憲法によって、結婚することが許されないカップルに向けた施策です。
通常、婚姻届は国や役場に提出しますが、国に属さず、社会や憲法の及ばないブロックチェーンの世界で、NFTの婚姻証明書を発行します。これによって、あらゆる関係のカップルが、愛を表現し、祝福されるための聖域を作ることができました。

まとめ

ここまで、今年のADFESTにおける変化や最新のクリエイティブトレンドについて振り返りました。現地で参加されていない方にも、今年のADFESTについてご理解いただけたでしょうか?
次回の記事では、ADFESTでの学びを活かし、日本のクリエイターが心がけるべきことをお届けしていきます。
後編もぜひご覧ください!

また、本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。こちらもご覧いただけますと幸いです!

(この記事の内容は2023年5月22日時点での情報です)


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