見出し画像

ADFEST2023視察レポート後編。壮大なパーパスを掲げる以上に大切なこととは?

新型コロナウイルス感染症の影響で、2021年からオンライン開催となっていたアジア最大級の広告祭「ADFEST」。今年3月、タイ・パタヤで3年ぶりに現地開催され、ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は現地視察に行きました。
そして、視察報告オンラインイベント「FUTURE VISION」をクアドラ主催で2023年4月26日(水)に実施。4年ぶり4度目の視察となるクリエイティブディレクター阿部達也と司会役のプロデューサー溝渕和則が登壇しました。

左から、阿部達也、溝渕和則

noteでは本イベントでのレポート内容を前後編の2回に分けてまとめていきます。前編では、今のクリエイティブトレンドは「デジタル&ソーシャル」であるということをお届けしました。

後編である今回の記事では日本のクリエイターとして心がけるべきことをお届けしていきます!


日本のクリエイターとして心がけるべきこと

ADFESTでの学びを活かし、日本のクリエイターとしてどのようなことを心がけていけば良いのでしょうか?雑誌『WIRED』が2023年のトレンドに迫った「THE WORLD IN 2023」の特集号では、以下のような記載がありました。

Facebookが政治干渉のツールとなり、Airbubが地域コミュニティを破壊し、「いいね!」ボタンが若者の自尊心を低下させることは当初は誰も予想もしていなかったように、イノヴェイションは必ず負のインパクトを伴い、得てしてだれかの未来がほかの未来とトレードオフになる。
だからこそ、耳に心地のいいパーパスを後生大事にするのではなく、「それは誰のための未来なのか」を常に想像し、問い直す不断の態度が今や必要となるはずだ。

出典元:雑誌『WIRED』日本版 VOL.47 特集 / THE WORLD IN 2023

これはADFESTの学びにも通じるところがあります。では、世界の事例を学びつつも「日本のための未来」を考えた時、どのようなことがパーパスになるべきなのか考えていきます。

日本がブランドに求めていること

ADFESTのセミナー内では「ブランド・パーパスに関する分析や記述は、欧米市場のものであったり、消費者データではなく、主観的な視点に基づくものがほとんど。そのため、アジアの消費者はブランド・パーパスについてどう感じているのか?という疑問が残る。」と語られ、アジア圏の人々がブランドや企業に何も求めるのかについての独自の調査結果も発表されていました。

このグラフの縦軸はブランドにどれほどパーパスを求めるかを表し、横軸は国のGDPを表しています。ここから、GDPが低いほどブランドに社会貢献を求めるため、経済が堅調な日本や韓国はブランドにパーパスの体現を求めない人が多いということが読み取れます。

また、同セミナー内では、各国がブランドに何を求めるのかの内訳も語られていました。

資料内では主要な6か国はどれもTOP5以内に「環境と持続性」を入れていたと述べられていました。しかし、日本人である我々が注目すべきは、他国は「環境と持続性」が1位になっている中で、日本のみが「環境と持続性」は5位、「女性の平等」が1位になっている点です。

さらには、日本国内でも男女で求めるものに差がありました。

このグラフの縦軸はブランドに求めるものを表し、白が男性、緑が女性の数値を表しています。ここから、男性は価格の安さと国威につながること、女性は女性のエンパワードメントや健康、脱貧困を求めていることが読み取れます。

これまでお話ししたことから、世界のパーパスが必ずしも日本の正義になるとは限らないと言えます。日本のクリエイターは世界と日本の差を自覚して、使いどころをローカライズすることが大切なのです。

過去にクアドラでも壮大なパーパスを掲げていないニッチな施策だったにも関わらず、高く評価いただいたものがありました。それは「Palm Beat」という施策です。

「Palm Beat」は手のひらでリズムを感じ取るための道具で、指揮者が考えるリズムやテンポを、振動と光で伝えるたまご型デバイスです。聴覚障がいのある児童の音楽学習をサポートし、すべての人がもっと楽しく歌える仕組みとして開発しました。
この施策はブランドもなく、たった生徒10名と教師1名の音楽の授業時間を変えただけのものでしたが、海外広告賞がいただくことができました。対象が狭くとも、真摯に等身大で向き合って実行することが、壮大なパーパスを掲げること以上に大切だったと言えます。

Q&A

ADFESTでの学びを活かし、日本のクリエイターが心がけるべきことを分析していきましたが、ここからは視聴者の皆さんから事前にいただいた質問に回答していきます。

【Q1】
個人的にはあまり目新しさはなかったイメージなのですが、今後もNFTなどに続くデジタルテクノロジーの発展に伴うソリューションがコミュニケーションに影響してくると思われますでしょうか?(一部の業界人だけではなく、一般ユーザーを巻き込む形で浸透するか、という意味です。)

【A1】
遅いか早いかはありますが、技術時代の進歩は続くので、いずれコミュニケーションには落ちてくると思っています。
ただし、技術が生まれてから社会に落ちるまでの時差は国によっても大きく異なり、特に日本は既得権益が強く、新しいものへの対応力がない国なので、他国のデジタルテクノロジーを活用した事例が、自国では現実味のない専門家の中だけの技術のように見えてくる可能性は大いにあると考えます。

【Q2】
AIものの施策などで気になったものはありましたか?

【A2】
AIラッパー「BOTHARD」という施策に注目しました。

ラップが根付いていないインドで、初のラップタレントリアリティ番組「MTV Hustle」を放送するにあたり、視聴者を獲得するため、どんな言葉にも返してくるAIラッパーを開発したという施策です。
ちなみにこのAIラッパーはGPT3を使って開発されており、GPT3.5~4がリリースされてからようやく話題になり始めた日本が、テクノロジーの市民化において周回遅れになっている事実を浮き彫りにしているように感じます。

【Q3】
日本の作品で「これを出してれば受賞したかもしれない」と思う、もしくは「これは受賞すると思ったのに」という作品はありますか?

【A3】
「HOTAMET」という施策は今年エントリーしていれば、受賞したのではないでしょうか。

ホタテの水揚げ量日本一を誇る北海道猿払村では、ホタテを加工する際に水産廃棄物として貝殻が年間約4万トン発生しています。さらに2021年には、貝殻の再利用を目的とした国外への輸出が途絶えてしまったことを機に、地上保管による環境への影響や堆積場所の確保などが地域課題となっていました。そこで、ホタテ貝殻を使った環境に優しいバイオプラスチックヘルメット「HOTAMET」を開発し、CO2排出量を約50%削減し、ホタテを模した特殊リブ構造によりヘルメットの強度も向上しました。
さらには2023年春の試験利用開始と、防災用品やふるさと納税返礼品の展開予定し、2025年大阪・関西万博で防災用公式ヘルメットとして導入予定です。これらをふまえて、今後もアワード獲得の可能性は十分にあると考えています。

【Q4】
今年のCannes Lionsで受賞しそうな事例はありましたか?あれば教えていただきたいです。また受賞事例の傾向でSpikes AsiaやCannes Lionsとの違いがあればそちらも教えていただきたいです。

【A4】
ADFESTでも受賞していた「CLASSIFY CONSENT」はカンヌライオンズでも受賞の可能性があると考えています。

現在、映画などには、粗暴な言葉、ヌード、冒涜、薬物使用を特定する分類はありますが、同意がない恋愛表現を呼びかける分類は存在しません。同意がない恋愛表現も他と同様に注釈をつけるべきであると、非営利団体「Consent Labs」はオーストラリア人に、この運動への支持を表明する誓約書をウェブサイト上で作成するよう呼びかけています。まだ呼びかけ中の段階ではありますが、ルールとして社会実装されれば、Cannes Lionsでも受賞の可能性があるのではないでしょうか。

また、受賞事例の傾向におけるCannes Lionsとの違いは前述した通り、ADFESTではリザルトや持続性はCannes Lionsに比べるとそこまで高く評価されることはなく、勇敢さや簡潔さやが評価される点です。
ADFESTとSpikes Asiaの違いについては、どちらの審査も務めた、東急エージェンシーの室屋さんに伺いました。室屋さんは「ADFESTはブレイブ・シンプリシティしかデブリーフで語られず、Spikes Asiaに比べて、リザルトやビジネスインパクトがあまり重要視されていない。実際、双方の審査員のバランスを見ても、Spikes Asiaには、「APAC」「グローバル」を包括的に担当する欧米の方も多く、同じ運営団体が手がけるCannes Lionsの思考に近い印象です。」と語っていました。

【Q5】
ADFEST2024でデジタルクラフトでグランプリもらえそうな作品はどんなものだと思いますか?

【A5】
グランプリを獲得するとは言い切れませんが、近畿大学の新聞広告の施策がユニークで注目しています。

近畿大学は上品な大学ランキングではランク外だが、寧ろ企業が求める「コミュ力」「意欲的」という要素を持ち合わせているというメッセージを伝える広告です。
広告で使用されているのは架空の人物で、AIに聞いた近大のイメージと実際の近大生200人の顔をAI学習させて生成。これは一年生の生徒がいちはやく画像生成AI「Stable Diffusion」を使って作成しています。実際に総志願者数は2年連続で20万人を超え、10年連続で一般選抜の志願者数1位という効果も出ています。

最後に

ここまで前後編を通して、ますますデジタルが発展していく中で、どのような作品を世の中に届けるべきか?日本のクリエイターとして心がけるべきことは何か?をデジタルを得意とするクアドラ目線で分析していきました。皆さんにも業務に活かせる学びを見つけていただくことはできたでしょうか?

本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。こちらもご覧いただけますと幸いです!

そしてクアドラは今年、Cannes Lionsの視察にも行ってまいります!
また、クアドラはCannes Lionsへ視察に訪れる皆さまに向けて、2016年から、無料で蕎麦・ロゼを振る舞うオープンハウス「元祖カンヌ蕎麦 くあどら」を続けておりました。ようやくコロナ収束の兆しが見えはじめた今年、4年ぶりに「元祖カンヌ蕎麦 くあどら」を再開店します!
南仏料理を口にする機会が多くなる中、たまには日本食が食べたい!という気持ちに応えられればという想いで、会期中は毎日営業しております。電源・Wi-Fi・お手洗いも開放しておりますので、是非お立ち寄りください!
詳細はクアドラ公式Facebookにて随時お知らせしておりますので、ご確認いただけますと幸いです。

さらに、Cannes Lions視察レポートイベントも開催予定です。こちらの詳細もFacebookにて後日発信させていただきます。そちらもぜひご参加いただけますと幸いです!

(この記事の内容は2023年5月23日時点での情報です)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?