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カンヌライオンズ2023視察レポート「TWEET IN CANNES|#ツイカン」前編。目立ったグランプリ作品と日本の主な受賞作は?

ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は今年もカンヌライオンズの視察に行ってきました!帰国後には視察レポートイベントを実施。充実した内容にするべく2回に分けての開催となりました。
第一弾を2023年7月5日(水)に開催し、今回で6度目の視察となるクリエイティブディレクター阿部達也と、過去3度の視察経験を持つ司会役のプロデューサー溝渕和則が登壇しました。

以前、ADFESTの視察レポートを開催した際に「作品をもっと紹介してほしい」というお声をいただきました。それにお答えして、第一弾視察レポートでは、スピード重視で速報的にカンヌライオンズ2023の受賞作品を紹介。「TWEET IN CANNES|#ツイカン」と題し、現地でのインプットをリアルタイムにツイートした阿部の投稿と共に振り返っていきました。

noteでは本イベントでのレポート内容を前後編の2回に分けてまとめていきます。前編である今回の記事では、目立ったグランプリ作品、日本の主な受賞作を紹介していきます。


今年のカンヌライオンズの特徴は?

まず、作品紹介の前に今年のカンヌライオンズのおさらいです。

今年でカンヌライオンズは70周年を迎えました。
今年から新たに「Entertainment Lions For Gaming部門」が設立。フォーカスされる内容も時代によって変化しますが、今年は「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」、つまり多様性、公平性、包括性に重きが置かれました。

また、作品ではAIを使用したものが多く見られ、セミナーでもAIを扱うことが多かったです。

さらに、今年からサステナビリティへの意識もさらに高まっているようでした。

目立ったグランプリ作品

ではそんな今年のカンヌライオンズでは、どのような作品が高く評価され、グランプリを受賞していたのでしょうか。目立ったグランプリ作品を振り返っていきます。

グランプリ作品の中から、トロフィーの獲得数を累計。獲得数が多かった上位5作品を紹介していきます。

「The Last Photo」

「The Last Photo」は自殺防止のためのキャンペーンです。

まず、この施策の背景として、2018年にイギリスでは毎週84人の男性が自殺をしていたことから、イギリスのメンタルヘルス団体のCALMとイギリス最大の民放テレビ局の ITVが手を組み、「プロジェクト84」というプロジェクト立ち上げました。
そこからコロナ禍なども影響し、自殺者が毎週125人に増加してしまったことを受けて、CALMとITVが新たに実施した取り組みが「The Last Photo」です。

笑顔の人々の写真のインスタレーションを作成し、ロンドン中心街に展示。一見、幸せな生活を送っている人々の写真ですが、ITVの番組内で展示されている写真は自殺で亡くなった人々の最後の写真であることを明かしました。

自殺の兆候は必ずしも目に見えるとは限らないため、自殺を防ぐためには普段のコミュニケーションの中で、いち早く自殺願望に気づいてあげることが重要だと啓蒙し、半年で161人の自殺を防いだという結果も出ています。

「DREAMCASTER」

「DREAMCASTER」は視覚障がい者の方でもバスケットボールの試合実況を可能にするシステムとして開発されました。

全盲のスポーツジャーナリストのキャメロン・ブラックさんは視覚障がい者を持つがゆえに、スポーツキャスターになる夢を叶えられずにいました。
特に、バスケットボールは試合展開が早いため、視覚障がいのある方が試合実況を行うことは非常に難しいスポーツです。

しかし、コート上の全ての動きを感知できるハプティック(触覚反応)装置と、コート上の音を体感できる空間オーディオ、生成AIを用いた点字での実況を組み合わせることで、目が見えなくとも試合解説を可能にしました。
このシステムを活用し、キャメロン・ブラックさんはNBAの試合解説を行った初の視覚障がい者となりました。

このシステムは今後、一般にも提供することが予定されており、バスケットボール以外のスポーツでの展開も予定されています。

「Where to Settle」

「Where to Settle」はウクライナからポーランドへの難民を支援するプラットフォームです。

ウクライナ戦争勃発後、ポーランドは多くのウクライナ人難民を受け入れた結果、主要都市の過密化が問題となっていました。同時に小都市の若者人口の減少も問題となっており、主要都市と小都市の人口バランスを整えるために「Where to Settle」を開発。
マスターカードの支出データやポーランド中央統計局のデータを基に、希望の雇用形態や家族の人数などを入力するだけで、希望条件を満たした都市を難民の方々に紹介しました。

必ずしも主要都市のみが希望条件を満たす都市ではないと知らせることで人口の分散に成功しました。

「ADLaM - An Alphabet to Preserve a Culture」

「ADLaM - An Alphabet to Preserve a Culture」は西アフリカに住む世界最大の遊牧民であるフラニ族の識字率向上と、フラニ族の母国語であるプラール語を保護するための取り組みです。

プラール語は長らく話し言葉のみで、アルファベット表記が存在しませんでした。しかし現代はテキストコミュニケーションがメインのため、話し言葉のみではデジタル社会への参入が難しくなります。
そこでフラニ族のとある兄弟は、フラニ族の言葉をアルファベットに対応させた独自の「ADLaM」というWindows のエンコードのセットを作成。MicrosoftのオフィスのアプリやWindowsの端末でプラール語が使用可能となりました。
さらに、児童書や教材など、識字率向上のための学習ツールも作成。フラニ族の生活を大きく変える施策でした。

「World Cup Delivery」

「World Cup Delivery」は2022 FIFAワールドカップ優勝国のアルゼンチンで実施された、開催国のカタールからアルゼンチンまで優勝トロフィーが届けられる過程をリアルタイムで追跡できるようにした施策です。

フードデリバリーサービスのPedidos Yaはアプリユーザーに「ご注文の品が配達中です」という配達通知を送りました。これは実際の注文ではなく、カタールからアルゼンチンに優勝トロフィーが届けられるフライトをリアルタイムで追跡できるようにした偽の通知です。

この施策はアプリの通知を送ったのみでメディア広告費は一切かかっていないにも関わらず、国民の半数以上にリーチすることができました。

日本の主な受賞作

目立ったグランプリ作品として、海外の施策を5つ紹介しましたが、次はブロンズ以上を獲得した日本の主な受賞作を紹介していきます。

「My Japan Railway」

「My Japan Railway」は2022年に150周年を迎えたJRが全国のJR路線に親近感を持ってもらうために行った施策です。

各駅ごとにデジタルスタンプを作成。位置情報をオンにした状態で対象の駅の近くに行くと、アプリ内でその駅のデジタルスタンプを押すことができます。

御朱印帳のようにスタンプを集めるアクティビティの楽しさに加えて、2022年はコロナ禍が少し落ち着いてきたタイミングということもあり、多くの人々が日本国内の旅行に興味を持つようになり、地域経済も活性化させたことで注目を集めました。

「A Train of Memories」

「A Train of Memories」は相鉄線と東急線の直通線開業を記念して制作された、家族連れをターゲットにその利便性を広めるための映像作品です。

新旧2つの楽曲をマッシュアップし、通勤・通学する父と娘の12年間の成長をワンカットで撮影。娘が新たな社会的価値観を追求し、家族から離れていく様子を描きました。

カンヌライオンズでは、昨年からクラフトとしてのクオリティの高さも評価されるようになっていることも影響し、受賞した作品ではないかと考えられます。

「Well-being Index (GDW)」

「Well-being Index (GDW)」は、既存のGDP(国内総生産)では捉えきれていない、社会に生きる一人ひとりの国内総充実(Gross Domestic Well-being、略称: GDW)を測定するための指標として開発されました。

ハーバード大学、オックスフォード大学、東京大学と提携し、全国4000世帯を対象に9つの幸福指標を調査、集約し、四半期ごとに発表。
GDPは量的拡大を目指し、物質的な豊かさを測る指標であったのに対して、GDWは質的向上を狙い、実感できる豊かさを測定する指標であるということが大きな違いです。特に従来の「幸福度」や「生活満足度」という単一指標では捉えることの難しかった、文化的な多様性も考慮した多面的な指標になっています。

GDWは首相から公式指標と認められ、現在は大手企業23社がこの指標を導入しています。

「SHELLMET」

「SHELLMET」はホタテ貝殻からできた環境配慮型ヘルメットとして開発されました。日本では「HOTAMET(ホタメット)」という名前で発表されています。

ホタテの水揚げ量日本一を誇る北海道猿払村では、年間約4万トンのホタテの貝殻が廃棄され、地上保管による環境への影響や堆積場所の確保などが地域課題となっていました。

本来、廃棄されるはずだったホタテの貝殻から作られたバイオプラスチックを原材料にすることでCO2排出量を36%削減。また、ホタテを模した特殊リブ構造により、通常のヘルメットより133%高い強度になっています。さらには2025年の大阪万博の公式防災ヘルメットに採用されています。

「Kaguya by GUCCI」

「Kaguya by GUCCI」はGUCCIのブランディングムービーで、日本最古の物語といわれる「竹取物語」を現代の東京を舞台に映像化した作品です。

GUCCIのバンブーハンドルバッグは持ち手が竹でデザインされていることから、「竹取物語」をテーマに映像を制作。都会生活に疲れた主人公が竹林で美しい女性に出会い、運命に抗う自己探求の旅に出るというストーリーになっています。楽曲はAIと共作され、アンドロイドロボットが歌っていたり、男女平等と流動性へのメッセージが込められていたりと、現代的な要素が取り入れられています。

「Journa-Rhythm」

「Journa-Rhythm」はZ世代が新聞をあまり読まず、投票に行かないという問題を解決するため、朝日新聞社とHip Hopアーティストのコラボから生まれた新しい報道プロジェクトです。

アーティストが社会問題に対して、報道記事をもとに自分の想いや考えをリリックに綴った楽曲を制作し、ポッドキャストで配信。Z世代にニュースへの関心を持たせるきっかけを作り、Twitterでは8300万のインプレッションを獲得しました。

日本の受賞作における性質の変化

ここまでいくつか受賞作を紹介していきましたが、「期間」「予算」「体力」「テーマ」「形式」の5つの指標を基にカンヌライオンズの各カテゴリーを相関図に整理しました。

今まで日本では相関図の左寄りのスケールでエントリーを目指す機会が多かったこともあり、デザインやクラフト系の作品が強い印象でした。
しかし、今年は先ほど紹介した「Well-being Index (GDW)」がクリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション部門でゴールドを受賞するなど、相関図の真ん中や右寄りの受賞作も出てきており、クリエイティブの包括する範囲が日本でも広がってきているように思えます。来年以降のカンヌライオンズでは、日本からはどのような作品が受賞するのか期待が高まります。

前編のまとめ

ここまで目立ったグランプリ作品や日本の主な受賞作をご紹介しました。
次回の記事では、デジタル領域を得意とする弊社が面白いと感じたデジタルを使った作品や、日本でも真似できそうな海外作品を紹介していきます。後編もぜひご覧ください!

また、本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。5日間のカンヌライオンズを1時間40分にぎゅっと濃縮還元した、純度100%のレポートになっています。ぜひご覧いただけますと幸いです!

(この記事の内容は2023年7月31日時点での情報です)

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