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カンヌライオンズ2023視察レポート「TWEET IN CANNES|#ツイカン」後編。デジタルを使った面白い作品と日本でも真似できそうな作品を紹介

ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は今年もカンヌライオンズの視察に行き、帰国後には視察レポートイベントを実施。今回はより充実した内容にするべく2回に分けての開催となりました。

以前、ADFESTの視察レポートを開催した際に「作品をもっと紹介してほしい」というお声をいただきました。これにお答えして、第一弾視察レポートでは、スピード重視で速報的にカンヌライオンズ2023の受賞作品を紹介。「TWEET IN CANNES|#ツイカン」と題し、現地でのインプットをリアルタイムにツイートした阿部の投稿と共に振り返っていきました。

noteでは本イベントでのレポート内容を前後編の2回に分けてまとめていきます。前編では、目立ったグランプリ作品、日本の主な受賞作を紹介しましたが、後編となる今回の記事ではデジタルを使った面白い作品、日本でも真似できそうな作品を紹介していきます。


デジタルを使った面白い作品

「The Closer」

「The Closer」は、働きすぎに風刺を加える一方で、ワークライフバランスの重要性を訴えるためHeinekenが行った施策です。

Bluetooth搭載の特殊な栓抜きを開発。事前にBluetoothでPCと接続しておくことで、この栓抜きでHeinekenのビールを開封すると、瓶の開封を感知してPCが強制シャットダウンする仕組みになっています。
Bluetooth接続をしておけば、自分の端末だけでなく、近くにいる同僚や上司の端末もシャットダウンさせることができ、ユーモア溢れる施策として注目を集めました。

「The Artois Probability」

「The Artois Probability」はステラ・アルトワのブランド史と美術史を組み合わせたキャンペーンです。

ステラ・アルトワは1366 年に創業した、非常に歴史あるビールブランドです。この歴史の長さから、ヨーロッパ各地の歴史的絵画に描かれているビールがステラ・アルトワなのではないかと考えました。
絵画が描かれた年、地理的位置、ガラスの種類、液体の色などをAIを用いて分析。各絵画ごとに、描かれているビールがステラ・アルトワである確率を数値化しました。

また、ステラ・アルトワが描かれているであろう絵画を美術館で展示。絵画に特設アプリをかざすとその確率が表示されるという展示会も行い、アートとビール愛好家にリーチできた施策です。

ステラ・アルトワが長い歴史を持っていたからこそできた施策ではありますが、世界の老舗企業の約80%は日本にあると言われており、世界最古の企業は日本の「金剛組」で、創業は578年です。アイデアさえ思いついていれば、日本でも同様の施策ができたかもしれません。

「FitChix」

「FitChix」は“放し飼い”と表示し、発売されている卵を産んだ鶏が、どれほど放し飼いであるかを証明するための施策です。

放し飼いといっても、法律上では最大1万羽/1haの鶏を飼育することが可能になっています。そこで、鶏に歩数計測デバイス「FitChix」を取付け、1日の平均歩数を卵に印刷することで、購入時に情報に基づいた意思決定ができ​​るようになっています。結果として、販売収入を25%増加させることができました。

「A Second of Happiness」

「A Second of Happiness」は、マクドナルドのデリバリー部門を強化するための施策です。

コロナ禍の影響もあり、マクドナルドにとってデリバリー部門はビジネスの重要な部分となっています。しかし、注文の遅れや不備へのクレームが増えていることも事実です。
そこで、配達員の帽子に小型カメラを取り付け、ユーザーがデリバリーを受け取った瞬間のハッピーな表情を撮影。撮影した写真をSNS、店舗ポスターなどで展開し、結果としてデリバリー売上が20%増加しました。

「The Smart Legacy」

「The Smart Legacy」は同性婚の法的認知がないために起きる相続問題を解決するための施策です。

資産をトークン化して管理、分配、デジタル遺言書の作成などができる、デジタル相続プラットフォームを作成。パートナーが亡くなるとトークン化された資産はスマートコントラクトを介して転送され、資産を受け取れる仕組みになっています。
LGBTIQ+コミュニティだけでなく、社会全体の包摂と平等も推進します。

ADFEST2023の視察レポートイベントでは、慣習や憲法によって愛することの自由が奪われるカップルのために、国に属さず、社会や憲法の及ばないブロックチェーンの世界でのNFTの婚姻証明書を作った「City Hall of Love」を紹介しました。

「City Hall of Love」も素晴らしい施策ですが、あくまでブロックチェーンの世界のみで現実世界での課題は解決されていません。一方、「The Smart Legacy」はより現実世界の課題も解決されるため、もう一歩先を行く施策になっています。

「Heinz A.I. Ketchup」

「Heinz A.I. Ketchup」はケッチャプブランドのHEINZが若い消費者との結びつきを再構築するために行った施策です。

AIで画像生成をする際にはプロンプトと呼ばれる、AIシステムに対して指示や命令を入力します。HEINZは消費者に「AIにケッチャプの画像を生成してもらうためには、どのようなプロンプトが必要か」という募集をしました。
そして消費者が提案したプロンプトをAIに入力し、画像を生成。生成したケチャップの画像は、どれもハインツのような見た目で「ケチャップ=ハインツ」を強調する結果となりました。
生成した画像はOOH、印刷物、ソーシャルキャンペーンや、メタバースとトロントのギャラリーで展示も行いました。

HEINZは昨年「Heinz Draw Ketchup」という施策も行っていました。

匿名の社会実験として消費者に「ケチャップを描いて」という指示すると、多くの人がハインツのようなラベルを描く結果になりました。

「Heinz Draw Ketchup」は対象が人間のため、結果に揺らぎが出てしまいますが、「Heinz A.I. Ketchup」でAIを用いることによって「ケチャップ=ハインツ」というイメージをより強固にしました。

日本でも真似できそうな作品

「Transparency Card」

「Transparency Card」は、ブラジルの政治家の公的資金使用を監視するシステムです。

ブラジルでは毎年、政治家の汚職支出により約400億ドルを損失していました。公的資金の使用目的は国民に公開されているものの、非常に複雑なデータになっているため、国民が情報を手にするにはかなりの労力を要しました。

そこで、政府が公開しているデータベースと接続し、政治家が公的資金を使用するたびにリアルタイムで国民に通知が送られるシステムを開発。実際にこのシステムを活用し、500人以上の政治家の支出を監視、2000万件以上の通知が送信されました。

データとシステムの紐付けさえすれば、日本でも同様の施策を行うことが可能です。

「Inflation Cookbook」

「Inflation Cookbook」は、400種類以上の主要食材の価格変動を追跡し、費用対効果の高い食事選択を提案するシステムです。

世界でもインフレが加速し、多くの人が家計のひっ迫を訴えています。こうしたインフレから国民の生活を守るためのシステムとして「Inflation Cookbook」が開発されました。

AIが400種類以上の主要食材の価格変動を追跡し、食料品の買い物をする際に価格を抑えたものを選び、それらのお得な食料品を使ったレシピを提案。レシピはプロのシェフや栄養士が監修しており、価格を抑えるだけでなく、健康面も意識されたものになっています。結果として、4人家族で毎週平均20.3%の節約に成功しました。

物価高騰は日本でも問題になっています。さらに、日本には季節によって旬の食材があり価格が変動するため、日本でこそ役立つシステムではないでしょうか。

「eCycleland」

「eCycleland」は、任天堂の「どうぶつの森」のインタラクティブな体験を通じて、電子廃棄物 (e-waste)のサイクルに対する認識を高めるための施策です。

電子廃棄物のリサイクル問題は大きな課題となっており、例えばアフリカでは電子廃棄物を燃やし、そこから銅を抽出するという健康被害を伴う労働が存在します。しかしそのような実態は世界的にあまり知られていません。
そこで、半導体メーカーのインテルは「どうぶつの森」ゲーム内に電子廃棄物電子サイクリングセンターである 「eCycleLand」を立ち上げました。
ゲーム内の電子廃棄物を新しいレアアイテムにリサイクルし、ユーザーに実生活でも使えるリサイクル方法を学習させ、eサイクルへの意向を46%高めることに成功しました。

2019年時点で日本は電子廃棄物の排出量世界4位で、電子廃棄物のリサイクル問題は日本にとっても大きな課題です。また、「どうぶつの森」はもともとは日本のゲームであり、日本に多くのゲームユーザーがいるため、この施策はそのまま日本でも実施することができそうです。

「Turnstile Turbines」

「Turnstile Turbines」は、スペインの風力発電会社のイベルドローラが、フランスの市場でブランド認知度を向上させるために行った施策です。

日常生活の中ではなかなか馴染みのない風力発電を身近に感じてもらうため、イベルドローラはパリの地下鉄の改札を回転式タービンに変えました。乗客が通過するたびにタービンが回転し、毎日数千ワットの再生可能エネルギーを生むと同時に、人々の生活の導線上に設置することでブランドの訴求に成功しました。

日本は世界の乗降者数ランキングのTOP10を全て有します。この新しい発電システムを導入すれば、かなりの量の電力を生むことができるはずです。

カンヌライオンズの感想

コラムニスト天野祐吉さんの著書『天野祐吉ことば集 広告の見方 ものの見方』には以下のようなことが書かれています。

このこともふまえ、阿部は今回カンヌライオンズで次のような感想を持ちました。

後編のまとめ

前編・後編を通して様々な作品を紹介していきました。各作品、簡潔な紹介ではありましたが、どのような作品が高く評価されたのかご理解いただけたでしょうか?

視察レポート第一弾は作品中心の紹介でしたが、第二弾では、世界のクリエイティブの考え方を起点に日常業務の考え方に至るまでを俯瞰的にお伝えしました。そちらの様子も後日noteで記事化しますので、ぜひご覧ください!

また、本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。5日間のカンヌライオンズを1時間40分にぎゅっと濃縮還元した、純度100%のレポートになっています。ぜひご覧いただけますと幸いです!

(この記事の内容は2023年7月31日時点での情報です)


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