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内緒の関係 ちずる奥様のストーリ②

 彼女の名前はちずる。
 スレンダーな身体付きから、とんでもないフェロモンを振りまいている。
 癖のないロングヘアが風に靡き、良い匂いを漂わせているのだろうことが目で見てわかった。
 着ている服は流行を取り入れつつも、彼女自身に合った色合いで纏めてあり、センスの高さが窺えた。
 アパレル業界で働いていた経験があるらしいので、その服装の纏まり方も納得だ。
 綺麗な所作もその頃に培ったものなのだろうか。
 自分の前にやって来た彼女は、見本のような丁寧なお辞儀をしてくれる。
「今日もご指名ありがとうございます。いつもお仕事お疲れ様です」
 挨拶もそこそこに済ませた彼女は、さりげない調子で自分の腕を取り、手を握ってくれた。
 変に腕を絡めることもなく、胸を押し付けてくることもない。
 自分がいきなりそういう触れ方をされたくないことを見抜かれているようだ。大人の気遣いが出来ている。
 最初はこうして、手のぬくもりが感じられる程度の接触が好ましいと思う。
 手を繋いで歩き出しながら、まずは他愛もない話をする。
「私、詳しくはないのだけど……パソコンのソフトの開発って大変なんでしょう?」
「まあね。でも、忙しい時期がすごく忙しいだけで、いまみたいにゆっくり時間が取れないわけじゃないから」
 のんびりとしたやりとりが心地いい。
 彼女は聞き上手だから、話すことがとても楽しかった。
 そうしているうちに、彼女との距離は自然と縮まって、二人寄り添うように歩いていた。

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