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内緒の関係 ひなた奥様のストーリー➀

 大きなプロジェクトも一段落し、休日出勤もない休暇。
「はあ……」
 俺は大きなため息をついた。気分が下がった原因は妻と子供たちである。
「あなた、家にいるんだからリビングの掃除手伝ってよ」
「パパ、ゲームしたいからテレビ貸して」
 妻には家事の手伝いを要求され、息子と娘にはテレビを奪われる。
「俺、撮り溜めしてたドラマ観たいんだけど」

 いつもは皆のご機嫌をとるため言う通りにしてきたが、今日はそれを断った。
 俺は三か月にも及んだネットワーク設備更新工事を終えたばかりなんだぞ。取引先の都合で作業が深夜しか出来ず、昼夜逆転かつ変則的な休みで疲労困憊。作業終了間際には十連勤したんだからな、今日くらいは自由にさせてくれよ。
「最近平日に帰ってきてたじゃない。私が仕事に行っている間、休んでたでしょ」
「私たちが学校行ってる間に観ればいいじゃん」
 しかし、妻や子供たちは俺の仕事が激務だったことを知らない。自分たちが働いている間休んでいたとしか思っていないのだ。
「……はあ」
 俺の苦労を分かってくれる人はこの家に誰もいない。
 言い合いに負けた俺は、ため息をつきながら妻からコードレス掃除機を受け取った。寝室の掃除をしに行くときに、チラッと妻の姿を見る。俺と付き合っていたころは、セクシー女優ばりのメリハリのある体つきで俺のことを気遣ってくれるいい女だったのな。今はその面影が微塵も感じられない。
「発散してえなあ」
 会社にいても、自宅にいてもストレスが溜まるばかり。この気持ちを発散したいと、俺は願望をぼやいた。


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