エネスク/ピアノ組曲第1番〈古いスタイルで〉 ト短調 Op.3
エネスク(1881-1955)はルーマニアで生まれたヴァイオリニストで、その腕前は20世紀前半の三大ヴァイオリニストに数えられるほどであった。
第二次世界大戦によって祖国が共産圏の支配下 に入ったことでフランスに亡命し、その後戻ることはなかった。
《ピアノ組曲第1番》は弱冠16歳で書かれた最初のピアノ曲で、副題〈古いスタイルで〉のとおり、 バロック時代に栄えた組曲形式と音使いを特徴に持つ。
この頃エネスクは、ブラームスやワーグナーなどドイツロマン派音楽からも影響を受けていたため、響きの方はシリアスで重厚なものと なっている。
オルガンのような壮大な響きに、先人たちの輝きとそこに向かう畏怖が投影されているかのようである。
この作品は明確に古いスタイルを貫き通しているが、それでいて古いスタイルの二番煎じに陥ることはない。
それはエネスクのバロック音楽への深い理解と、独自の光る和声センス・響きとを融合させるバランス感覚に秀でていることを示しているだろう。
作品は「プレリュード」「フーガ」「アダージョ」「フィナーレ」から成る。