もしもどっちがどっちか分からなくなったら
晴れた夏の午後。
7歳の少年はイヌに追いかけられていた。
どんなに逃げても、もちろんイヌのほうが速い。
すぐに追いつかれてイヌと向き合うことに。
イヌとの距離はおよそ3メートル。
少年は泣きじゃくりながら手で追い払おうとした。
「しっしっ!しっしっ!しっしっ!しっし!」
すると、
イヌはさらに近づいてきたのだ。
そう。
「しっしっ」という手の動き。
これは何度も繰り返すと
「おいでおいで」になる。
イヌはおそらく手招きと勘違いしたのだ。
少年は大人になり、今、カフェにいる。
目の前には、イヌ。
店で飼われているイヌがイスにちょこんと座っている。
そのイヌの前で、男はまんじゅうをほおばっている。
そこで彼はふと気づいたのだ。
たとえば、
「まんじゅう」を早口で「まんじゅうまんじゅうまんじゅうまんじゅうまんじゅうまんじゅうまんじゅうまん・・・」と繰り返すと、
「10万」になる。
ほかにも、
今年も夏を賑わすであろうツクツクボウシの「ツクツクボーシーツクツクボーシーツクツクボーシーツクツクボーシーツクツク」という鳴き声は何度も聞いていると、
「ボーシーツクツク」に聞こえてくる。
さらに、
家と事務所を何年も毎日往復していると、
事務所の前で無意識に家のカギを出してしまう。
つまり男が言いたいことは、、、
どんなことも、何度も繰り返すうちに、どっちがどっちか分からなくなることがある。
言いたいことがあるから書くのか。
書くうちに言いたいことが出てくるのか。
仕事を楽しむために生きているのか。
生きるために仕事をしているのか。
好きだからいっしょにいるのか。
いっしょにいるから好きになっていくのか。
うざいからいっしょにいたくないのか。
いっしょにいるからだんだんうざくなっていくのか。
・・・いやそんな話はどうでもいい。
結局、
どっちがどっちか分からないものは、どっちでもいいのかもしれない。
(家のカギで事務所のドアは開かないが)
さらにどうでもいいことだが、
「しっしっ」とイヌを追い払おうとした7歳の少年は、手招きと勘違いして近づいてくるイヌを見て絶望&号泣したものの、グリングリンに輝く目を向けてペロペロなついてくることを知り、
イヌが大好きな大人になった。
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