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犬のしつけの常識がひっくり返る話。-第1回セミナーレポート-

2021年7月17日(土)、梅雨明けを思わせる快晴のもと、PETWELLclinic初となるセミナーが開催されました。講師は、人と動物の関係学を専門とされる鹿野正顕先生。飼い主教育を目的としたしつけ方教室「スタディ・ドッグ・スクール®」の代表でもある先生に「上下関係が必要は間違っていた?~愛犬が求める飼い主さんとの関係とは~」というテーマでお話しいただきました。

この日の大阪は、最高気温33度の真夏日。会場となったクリニック内のファーマシーでは、しっかり空調を効かせ、さらに換気のために開放した入口には水冷式スポットクーラーを2台置き、熱中症&感染症対策に万全を期した上で、セミナーを開催する運びとなりました。

その様子を私、PETWELLclinic広報担当がレポートさせていただきます。それでは講義スタートです。


犬は「上下関係」を求めていなかった

犬と人とが生活する上で「上下関係」の構築が必要、とされる風潮があります。たとえばそれは、抵抗時に腹ばいにして押さえ付ける「アルファロールオーバー」や、後ろから抱え込む「マズルコントロール」というしつけ方法の存在です。

また「犬と目を合わせてはならない」「遊びでは飼い主が勝たなければならない」「飼い主の目線よりも高く抱いてはいけない」などの「べからず集」も、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この風潮は日本だけでなく、欧米でも同じように存在するそう。どうやら「犬の祖先とされるオオカミが、群れの中で上下関係を構築している」という科学的根拠のない説に端を発しているようです。

ところが犬の行動学というのは、2000年代になって急速に研究が進みだした学問。「野犬の群れには明確なリーダーがいない」ことや「オオカミの社会構造も階級制度ではなく家族関係で成立している」ことなどが、近年続々と判明してきています。さらには「犬の祖先はそもそもオオカミじゃないかも」なんて研究も…。

となると「上下関係構築」のためのしつけって一体…という話になってきます。ふむふむ、なんだかいろいろひっくり返りそうな予感…。

犬は「子ども」のように安心を求めたい

さて皆さんは「オキシトシン」というホルモンをご存じでしょうか?パートナーとの接触やマッサージ時など、リラックスしているときに、脳の下垂体から分泌される物質で、通称「幸福ホルモン」とも呼ばれています。相手に対する不安を軽減し、結果として信頼感の向上や結びつきを強める作用があることがわかっています。

このオキシトシンはこれまで「同じ種の動物同士の関係性でのみ」分泌されると考えられてきましたが、人と犬というまったく違う生き物の間で見つめあったり、触れ合ったりすることでも分泌しあい、絆を深める仕組みがあることが、先生の母校である麻布大学の研究で明らかになりました。

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「なでてもらう」「遊ぶ」「食べ物をもらう」といった世話をしてもらうことで、犬の体内でオキシトシンが上昇し、飼い主への安心感が高まります。すると、犬は積極的に飼い主を「見つめる」ようになり、見つめられた飼い主の体内でもオキシトシンが上昇し、飼い主はもっと犬の世話をしたくなる。この好循環の中、双方のオキシトシンの上昇に伴ってお互いの絆が深まっていきます

このプロセスは、人間の赤ちゃんと母親とが、愛着を形成する過程と同じ。なので犬と人も「上下関係」ではなく「母子関係」に近い関係性ではないか、という見方が強まってきているようです。余談として、ペット業界で働く人に女性が多いのも、それと関係しているかも?ですって。なるほど、今日の受講生も女性がたくさんいらっしゃる!

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犬は「我慢」ができない

「甘やかすと上下関係が崩れて、言うことを聞かなくなる」。こちらもよく耳にするエピソードですし、実感するシーンも多々あるかも知れません。でもここまでの受講内容で、人と犬は「上下関係」が成り立ちにくいことがわかってきました。だとすれば、この説、どうなるのでしょう?

その説明をはじめる前に、先生はまず「甘やかす」とはどういうことを指すのか、を定義づけされました。いわく「ねだられたらつい食べ物をあげちゃう」「かまって欲しがったらつい遊びに応じちゃう」、こうした「犬の要求に何でも答えてしまう」行為が「甘やかす」こと、だそう。ふむふむ。

では「言うことを聞かなくなる」とは、どういう状態なのでしょう?実はこれ、とてもナンセンスなことのようです。なぜなら犬の脳は、「考える」「記憶する」「アイデアを出す」「感情をコントロールする」「判断する」「応用する」などの働きを司る「前頭葉」と呼ばれる部分がとても小さく、そもそも「我慢する」「善悪を判断する」ことなどできないんですって!

言うことを聞かない行動の一例として「トイレをわざと失敗する」なんて言われることがありますが、これもどだい無理な話。先述の通り、犬には善悪の判断はできないし、そもそも排泄物を汚いものとすら思ってないのですから。

人間からすると「甘やかしたから、言うことを聞かなくなった」ように見える行動も、犬の脳の構造からすると、そこまで思慮深く考えて動いているわけではなさそうですね。では、犬のホンネは?

先生の答えは「犬は本能に従って動いており、習慣化された行動が崩れることでストレスを感じて暴れる」というものでした。

つまり「要求に何でも答えてしまう」ことで、人にとって本当は好ましくない行動が「習慣化してしまう」。その行動を人の都合で「やめさせてしまう」ことで「ストレスを感じる」。そして「暴れる、吠え、かみつく」。犬のホンネは、そんなところのようです。

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「せやで。」

犬と人とがストレスなく過ごすことが目標

こうした犬の行動原理を踏まえたうえで、あらためて犬と人との関係を考えてみると、「お互いがストレスにならないような関係づくり」が大切だということが見えてきました。

例えば遊びたがりの犬の場合は、その欲求を満たしてあげることがまず大事。そして犬の遊びや運動というと「散歩」がすぐに思い浮かびますが、犬を本気で疲れさせようと思ったら、なんと10kmは歩かなければならないそう…。これでは人のほうが先に疲れて、ストレスを感じてしまいますね。

というわけで先生がおすすめするのは「ひっぱりっこ」。犬におもちゃをくわえさせての、つなひきです。狩りの延長ともいえるこの遊びは全身運動なので、散歩の3倍は体力を使うそうです。飼い主にとっても手軽で効率がいい!

また食事もあげ方にひと工夫。実は食事は、それ自体に結構な体力を使うのだそうです。なので器によそってきちんと食事をするよりも、エサが入れられる知育玩具などを使いながら、ちょっとづつ一日何回も与えるほうが、より多くの体力を使うことになり、結果としてストレス解消につながるのだそうです。知育玩具には、かまってほしがるときの気を逸らせる効果もあるので、ひとつあれば便利そうですね。

そしてさらに大切なのは、ご褒美のあげかた。飼い主にとって「困らなくなるような行動」をとったときに、タイミングよく与えるのが肝心なのだそうです。たとえば食べ物をせがんで飛びつく犬に対して、「おすわり」ができた時点でご褒美をあげる、など。ダメなことを叱るのではなく、なにか褒めることはないか、を探し見つける。

甘やかす/甘やかさない、ではなく、お互いにとってストレスを感じない関係を第一に考えて行動することが大事、というお話が出たところで、セミナーは終了となりました。

人の子育てと一緒だなあ(個人的感想)

当記事の筆者である私は、実はペットを飼っていません。ですが娘は二人、わがまま盛りのがおりまして、先生のお話しを聞いているうちに、何度も「人間の子育てと一緒だなあ」と感じ入ることがありました。セミナー終了後、先生にその感想をお伝えしたところ「人間の子育てのムーブメントが、10年ぐらい遅れて犬のしつけに反映される感じがあります」とおっしゃっていました。

PETWELLclinicでは「ペットを、家族からヒト社会の一員へ」を合言葉としてさまざまなアクションをすすめています。人間の子が、親の愛あるしつけを受け、だんだんと社会性を身につけていくように、ペットもまた、飼い主の愛情と正しい知識に則ったしつけを受けることで、ヒト社会に受け入れられる存在になる。大げさですが、そんなちょっと先の未来を感じた、今回のセミナーでした。

鹿野先生のセミナー、次回はオンラインでの開催を予定しています。詳細が決まり次第、こちらのnoteにてご案内いたしますので、お楽しみに。


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セミナーのあとは質疑応答タイム。内容以外の質問もOK!ということで、皆さん和気あいあいとワン育ての悩みを相談されていました!

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