【春秋戦国編】第2回おまけ【中国史での君主の呼び方】
君主の呼び方
第2回のお話の中で人名が非常にややこしかったと思います。例えば、襄公という人物は2人登場しました。第1回を含めたら4人登場しています。
・斉の襄公 斉の桓公の兄。妹と密通して旦那を暗殺した。
・宋の襄公 春秋五覇のひとり。
・秦の襄公 第1回に登場。諸侯としての秦の初代君主。
めっちゃややこしいですよね。なんでこんなことになっているのかを少し解説したいと思います。
諡号
まず、桓公とか襄公とか穆公という呼び方は諡号という亡くなった後に贈られる名前です。日本に住む仏教徒からすると戒名のようなものと言えばわかりやすいでしょうか。
君主は生前は斉公とか宋公といった具合に国名プラス爵位や王号、帝号で呼ばれます。国のトップは反乱でもない限りは1人だけなので、当時の人達目線では特に不都合はありません。既に王様がいる国で勝手に「オレが新しい王様だぜー!」なんてなるのは立派な国家反逆罪です。また、即位前は普通に姓名で呼ばれます。
例えば斉の桓公は、即位前は姜小白と呼ばれ、即位してからは斉公と呼ばれ、死後に桓公と呼ばれます。姜は斉公一族の姓ですね。
死後に贈られる名前なので、秦の始皇帝は存命中に王から皇帝にランクアップしていますから諡号はありません。また、始皇帝は諡号を廃止しています。秦の滅亡後に復活しますが。なので始皇帝の場合だと、即位前は本名である贏政と呼ばれ、王に即位すると秦王と呼ばれ、天下統一後は死後に至るまで始皇帝と呼ばれています。
諡号はその性質上死者に対する評価という側面があります。武王とか武帝という諡号で呼ばれる人物は軍事面での功績があります。文王とか文帝は逆に政治や文化面での評価が高いことが多いです。
諡号にもランクがあって、『武』や『文』、『桓』、『襄』、『穆』は上諡あるいは美諡と呼ばれるいい諡です。大体の諡号はコレです。実際は微妙な人でもデカイやらかしがなかったら上諡が贈られます。
『哀』や『傷』、『懐』は中諡あるいは平諡と呼ばれます。同情すべき悲劇に見舞われた人物に使われることが多いです。
そして最低ランクが下諡あるいは悪諡で、『幽』『霊』『紂』『煬』などです。歴史上評価が低い人物につけられます。基本的に新しく出来た国が前の国を悪く言うために付けることが多いです。
中国のウィキペディアからの引用ですが、周から春秋戦国時代までだと上諡が約70%、中諡が約17%、下諡が約13%となっています。秦の滅亡以降だと上諡が約89%、中諡が約8%、下諡が約3%です。忖度が見え隠れしますね。
中には病気で死にそうなときに「後継者がかっこいい諡号をつけてくれるか心配だ〜。下諡はイヤじゃ〜」と悩んでいた人もいたそうです。
時代が進むと上諡を重ねて使うケースが増えていきます。
後漢の光武帝・劉秀は『光』と『武』という字面からわかる通り、中国史上最も優秀な皇帝に上げる人もいるほどの名君です。欠点はギャグがスベりがちな点くらいでしょうか。
特に618年に建国された唐になるとかなり長い諡号が登場します。唐の初代皇帝・李淵は死後に諡号がどんどん追加された結果『神堯大聖大光孝皇帝』とメッチャ長くなってしまいました。
こういった事情で唐以降は諡号で呼ぶことは少なくなります。
廟号
諡号とは別に廟号というものがあります。中国では仏壇のような役割の廟という建物が存在します。この廟に入って先祖と一緒に祀られる為の名前を廟号といいます。細かく言うとややこしいのですが、諡号のようなものと考えてください。
こちらは漢字1文字プラス『宗』や『祖』で名付けられます。『祖』は国の建国者やそれに準じる人物がつけられ、2代目以降は基本的に『宗』がつけられます。
最後の中華王朝である清では、実質的な建国者の初代ヌルハチは太祖、中華世界の支配を始めた3代順治帝・フリンは世祖、中華世界を統一した4代康熙帝・玄燁は聖祖といった具合に『祖』がつく人が複数います。
唐以降は諡号より廟号で呼ぶことが多くなります。もちろん例外もあって、秦滅亡後に天下を統一した漢の初代皇帝・劉邦は諡号の高皇帝より廟号の高祖と呼ばれることが一般的です。
一世一元
1368年に建国された明では初代皇帝・朱元璋により、皇帝1人につき元号1つというルールを作りました。これを一世一元と言います。
そのため明以降は元号プラス帝という呼び方が一般的です。日本でも明治以降は一世一元なので、日本人にとっては一番わかり易い呼び方だと思います。
朱元璋の場合だと、元号を『洪武』にしたので皇帝としては|洪武帝《こうぶてい》と呼ばれ、死後に廟に祀る時は『太祖』と名付けられ、同じく死後にその功績を讃えて贈られた諡号は『開天行道肇紀立極大聖至神仁文義武俊徳成功高皇帝』となるわけです。歴史のテストで答える時は本名でも皇帝号でも正解になると思いますが、諡号で答えるツワモノもいるかもしれませんね。