見出し画像

パリ五輪2024開会式を振り返る[その2]

こんにちは。あるいはこんばんは。おしゃま図書です。
オリンピック、始まってもう中盤ですが。私の時間はまだ開会式で止まっています。
昨日、フラ語の先生から「先月の宿題、どうしました?」と連絡がくるまで、すっかり宿題のことを忘れていたほどです。
「先生! 開会式に夢中で、宿題のことを忘れていました!」と言ったら、「こんなにフランス語に触れられる機会はないので、オリンピック見て下さい!」と優しいお言葉。メルシー!!!

さて。というわけで、誰にも求められてないけど、宿題そっちのけで開会式の記事の続きを書きます。
ちなみに前回の記事はこちら(France.tvの動画を見返してから、加筆修正しました)。これでもだいぶはしょりましたが、既に半分でおなかいっぱい。というか、情報量多すぎ! フランス語でいうところの「Clin d’œil」(目配せする)の洪水で溺れそうです。

華やかなパフォーマンスと感動の瞬間
《第7~12章》

歌手でブレイクダンサーのヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキ

 アンヴァリッド橋とアルマ橋の間で、オペラ界のスターでありダンスのブレイカーでもあるヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキが、ラモーの「Viens, Hymen」を披露し、第7章「sportivité」が始まりました。彼は世界で唯一の、ブレイクダンスをするオペラ歌手として有名なのだそう。日本でも、過去にヴォーグ・ジャパンにインタビューが掲載されていたのですね(そういや最近、ヴォーグとか読んでない)。かなりなイケメンさんです。
 パリオリンピック初の公式種目にブレイキンが採用されているということもあるでしょう。
 セーヌ川の上では、スポーツをテーマにしたパフォーマンスが繰り広げられますが、正直この間、入場国の紹介の方が主で、あまりパフォーマンスしている人たちが映っていませんでした。頑張ってるのにね…。


ドゥビリ橋がファッションショーの舞台に

 フランスで人気のラッパーRim'Kがセーヌの上でラップを披露した後、舞台はドゥビリ橋に。ミッシェル・ベルジェとフランス・ギャルの「Ça balance pas mal à Paris」が流れる中、第8章「festivité」へ!!!
 「Ça balance pas mal à Paris」を日本語にすると「パリはかなりノリノリ」みたいな感じかな。オリンピックの開会式でノリノリになっている想定からの選曲ですよね。

 曲がレ・リタ・ミツコの「Andy」に変わると、ドゥビリ橋が華やかなファッションショーのランウェイに変貌。若手フランス人デザイナー、アルフォンス・メイトレピエールや、C-R-E-O-L-Eを創設したヴィンセント・フレデリック・コロンボの作品を身につけたモデル、アーティストたちが続々と登場。個性豊かなファッションを披露しました。
 Xで「あの人、マツコ・デラックスでは?」と話題になっていたDJバーバラ・ブッチ(France.tvの字幕ではDJetteとなっていた!)の多彩な音楽が、ショーにさらに華を添えました。ただ、うちのヲタクの旦那に「ターンテーブル回してないね。多分、音楽はもう事前にセットしてあるんだろうね」と言われ、「え? まじ?」と思いながら、バーバラ・ブッチさんが本当にDJなのか、彼女を紹介する記事などを探しちゃいました。結果、ちゃんとDJでしたよ…。ナイトライフの女王として有名な彼女は「なぜ私たちは太っている人を拒絶するのか?」と世間に疑問を投げかけ、2020年2月に『Télérama』誌の表紙を飾ってセンセーショナルを巻き起こし、ジャン=ポール・ゴルチェの香水「La belle intense」のアンバサダーにも選ばれているのだとか。レズビアンであることを公表しており、LGBTQ+コミュニティの人気者だそうです。今回の選曲ではヴァリエテ・クラシック(レトロなフレンチポップスってことです。というか日本でいわゆる「フレンチポップス」と呼ばれるもののことをフランスでは「ヴァリエテ」と言うのです)をミックスし、パリジャン紙では、「彼女の仕事にまた一つ、偉業が加えられた」と評されていました。
 ワタクシ的にも、フランス・ギャルとかレ・リタ・ミツコから入るあたり、ちょっと世代的に近いのかも? 日本で渋谷系とかがリバイバルしているのと似ている感じ?
 さらに、入場行進が続く中、EUの旗がセーヌ川上のステージに映し出されます。ビュルキ女史は「EUの旗は、unie dans la diversité(多様性のなかでの連帯みたいなことかな?)」と言い、そこでかかるのが、ヨーロッパの「The Final Countdown」。なんか…ダジャレ…ですか? BGMの選曲の仕方が、日本のハウフルスみたいじゃないですか?

 そして、ここから”unie dans la diversité”として、様々なパフォーマーたちが登場します。曲は、GALAの「Freed from desire」に変わります。

 ビュルキ女史、確か髭のドラアグクイーンには触れてなかったと思うのですが、セーヌ川に浮かぶステージ上のダンスパフォーマンス集団MazelFreten(ヒップホップエレクトロ)と、次のオペラ座エトワール、ジェルマン・ルーヴェ(バレエ)については説明。ジェルマン・ルーヴェは社会参加に積極的で“アンガジェ”するダンサーとも呼ばれているそうですね。私はバレエ詳しくないのですが、きっとバレエ好きの方からしたら、眼福ものでしょうね。

 あと、子どもが出ていたんですけど、ビュルキ女史が「とても有名なアデリーヌとJrマドリップ」と説明していたので、検索してみました。アデリーヌちゃんは、ケベック出身の10歳で、Jrマドリップ氏は彼女のクランプダンスの師匠にあたるらしい。8~12歳の子ども向けメディアのインタビューに答えたアデリーヌちゃんの記事を見つけました。

 オリンピックの開会式に参加した感想を聞かれ、
「本当にクールで楽しかった! その場にいるだけで興奮したわ。たくさんの人が私を見ていてくれたし、クランプ(ダンス)がどんなものかを世界に示せたことを誇りに思う。これでもっと多くの人がクランプを始めるかもしれない! たくさんの素晴らしいダンサーや人々に出会えたので、とても幸せでした。しかも、みんなすごく親切にしてくれた。いつもそばにいて助けてくれた。」
と語っています。しっかりした10歳ですね。
 雨の中のパフォーマンスについては、こんな風に答えてます。
「指がぐしゃぐしゃに凍ってしまって。雨で視界も悪いし、足元はびしょびしょだし......。ショーの直前になって、別の衣装を渡された。上着があったからマシだったけど、それでも寒かった。」
 うんうん。大変だったね。でも頑張ったね。あの時間に子どもが出てるのはレーティング的にOKなのかは気になりましたけど。周りの大人もキャラ濃いめだし…。
 そして、その後も、ビュルキ女史は、Princess Madokiによる「ワッキング」、Anne Minetti et P.Allioによる「コンテンポラリーダンス」、F.Hautot et R.Guillermicによる「社交ダンスとダンスエレクトロ」、GG Palmerの「ヴォーギング」(ファッション誌『VOGUE』の表紙でポーズをとるモデルにインスパイアされたダンス)、Bboy Haiperの「ブレイキン」とコメントを入れていきます。ちなみに、Bboy Haiperは、生まれつき障害をもっているのです。彼が松葉杖をついて登場し、ブレイキンを披露する姿はとてもかっこよく、うちの旦那も「こういうところ、フランスっぽいよなぁ」とつぶやいておりました。
 ブレイキンの後は、田舎風の「フォークダンス」、そしてミレーヌ・ファルメールのヒット曲「Désenchantée」に合せて全員でダンス…。
 フランスの動画でビュルキ女史のコメントを聴いたおかげで、このシーンが、派手なゲイカルチャーの人たちが出ているということだけではなく、古典から現代までの、ダンスの多様性を、多様な人たちで見せているのだな、と気づく。日本ではほとんど解説ないから、わかりにくよね!
 それにDésenchantéeって、辞書だと「熱狂からさめた」「幻滅した」って意味が出てくるけど、きっとこの選曲には意味があると思うのですが(もしかして、ないの?)ミレーヌ姉さんは、LGBTQ+の人たちにも人気あることからの選曲というだけなのか? なにか他にあるの?誰か、音楽に詳しい人の解説を聞きたいものです。


フィリップ・カトリーヌがデュオニソスに扮し、《Nu(裸)》を歌う

 続いてフィリップ・カトリーヌの「Louxor, j'adore」がきこえてきます!!! この開会式にフィリップ・カトリーヌが出るという事前情報を聞いていたので、いったいどこに出るのかと、ワタクシ、とっても心待ちにしておりました。なにしろ”渋谷系"で育ってますから! 三つ子の魂百までとはよく言ったもので、多分、20代の頃までに自分の好きなものってかたまって、ずっとそれを大事にしていくんじゃないかな。まぁ、そうじゃない人もいるだろうけど。
 カトリーヌの「エデュカション・アングレーズ」持ってた…。懐かしさでいっぱいです。

 これは私見ですが、フィリップ・カトリーヌのオッサンになった姿を見ていたら、こ…このトランスフォームっぷりは、ピエール・バルーと同じでは? と思いました。 あとは、極右政権が誕生してたらオリンピックにも出れなかったかもしれませんよね。だってカトリーヌおじさん、「マリーヌ・ル・ペン」の歌(もちろん、賞賛してない方のニュアンス)とか、歌ってんですよ。

 最近のカトリーヌおじさんは、こんな映画にも出ています(赤いスイムパンツのオジサン)。

 アートもやってたり、多彩です。なんとなくですが、日本人で例えると、風貌とか、やってることとか、(お笑いはやってないけど)野性爆弾のクッキーみたいな感じだと思う。あくまで、私見ですが。ビュルキ女史が、これも大きなシークレットだったと言ってましたが、それはどういう意味?
 カトリーヌおじさん、開会式後、ル・モンドの取材にも答えているので、これは後でゆっくり読みたいと思います。

 ちなみに記事の見出しになっている台詞が、すでに刺さります!« Ce qu’il y a de plus beau dans la foi chrétienne, c’est le pardon »(キリスト教の信仰で最も美しいことは許しだ)ですって。さすがカトリーヌおじさん!!!

ジュリエット・アルマネとソフィアーヌ・パマールが「イマジン」をカバー

 そして、続いて第9章「obscurité」。すっかり日も暮れて、暗闇がテーマですね。光の都を引き出せる演出なのかな。ここでもMazelFretenのパフォーマンスから。
 雨の降るセーヌで、二人のフランス人、ジュリエット・アルマネとソフィアーヌ・パマールは、感動的で静まり返った観客の前で「イマジン」のカバーを披露しました。平和の祭典といいながら、いつまで経っても戦争、なくならないですね…。ピアノ燃やしてましたが、どんな仕掛けなのか気になりました。

セーヌ川を疾走する銀の機械馬

 ここで第10章「solidarité」連帯ですね。
 「オリンピック精神」を広めるため、銀色の機械仕掛けの馬に乗ったシュバリエ(騎手)が、セーヌ川を東から西へ、オーステルリッツ橋からエッフェル塔までの6キロを約10分間かけて疾走しました。走行中、さまざまな橋の上で鳩の翼が広げられた演出は、平和の象徴である鳩を表現しているのだとか。すごくステキ!!!
 そして芸術監督のトマ・ジョリによれば、この馬は、セーヌ川の女神であり、抵抗の象徴であるセクアナ(Sequana / ケルト語で泉の意味)から来ているんだとか。
 そして近代オリンピックの父、クーベルタン男爵の肖像!!!(もちろんフランス人)オリンピックの歴史をかけぬけていく。これまでの歴史を受け取り、今回の開催地であるパリへとやってくる。ドラマチック!!!
 各国の旗がエッフェル塔のもとに集まり、いよいよショーのクライマックスが近づいてきます。そして騎手がオリンピックの旗をもってやってきて…ラジオ・フランス合唱団が歌うオリンピック国歌に合わせて、オリンピック旗がエッフェル塔の前に(逆さまに...)掲げられるという…。そこはリハしなかったんですかねぇ。というか、オリンピックの国歌ってあるんですね。東京オリンピックのときもやってました?

そして第11章「solennité」

 2016年以降の開会式で恒例となっている、オリンピックの栄冠を称えるセレモニーの後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官が表彰されました。続いて、組織委員会のトニー・エスタンゲ会長と国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長がそれぞれスピーチを行い、最後にエマニュエル・マクロン大統領が壇上に立ち、2024年パリオリンピックの開幕を正式に宣言しました。
 ジネディーヌ・ジダンがステージに再登場して聖火を受け取り、全仏オープンで14回優勝し、オリンピックで2回優勝しているテニスプレーヤーのラファエル・ナダルへと手渡されました。

 エッフェル塔がイルミネーションで輝くなか、マルク・セローネのディスコ・ヒット曲「Supernature」に合わせて、耳の不自由なダンサー、シャヒーム・サンチェスが得意の歌を披露。振り付けが手話になっている美しいダンスでした。


最後の聖火ランナーとして、
マリー=ジョゼ・ペレックとテディ・ライナーが聖火を灯し、
セリーヌ・ディオンの『愛の賛歌』へ!!!

 最終章は、「Éternité」永遠。たくさんの歴代メダリストたちによる聖火リレーのフィナーレ。1924年生まれ(つまり100歳!)のフランス人最高齢のオリンピック・チャンピオン、シャルル・コステからマリー=ジョゼ・ペレックとテディ・ライナーへとつなぎ、気球型の聖火台に火を灯しました。ちなみに、フランス語でも柔道家はle judoka(女性はla judokette)なのですね。選手と柔道家を使い分けているあたりに、フランスに柔道が深く根付いていることを感じさせられました。
 ちなみに気球もフランスが発祥ですって。
 そしてここからが、これまたビッグサプライズ。セリーヌ・ディオンの登場ですよ。多くの日本人にとって、セリーヌ・ディオンは「カナダ人」かもしれませんが、フランス人にとっては、ケベコワーズ(ケベック人)のフランコフォン(フランス語話者)で、最も成功しているシンガーなのだということです。しかも、難病を経ての、4年ぶりの舞台。それをエッフェル塔の上で、パリオリンピックの開会を祝う式で、『愛の賛歌』を歌うというのは、セリーヌにとって最高の復活の舞台だったのではないでしょうか。
 ディオールの衣装もステキでしたね。アルチザナル(職人的)な仕事を大切にするところ、フランスのいいところ。

 今、Amazon Prime Videoで、セリーヌの闘病中のドキュメンタリーを配信していますが、その中でも、子どもたちと話すとき、セリーヌがフランス語を使っていて、アメリカに住んでいても、セリーヌのプライベートな部分はやっぱりフランス語なんだなって思いました。
 結構、けいれん起こしているところとか、こんなところまで見せちゃうんだって驚きました。あそこから、ここまで復活したのか…と思うと、より一層、感動します。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CZ8PNNTJ/ref=atv_dp_share_cu_r


おわりに

 まだオリンピックは続いていますが、ショーの中でも特に、第8章の「festivité」が物議を醸していますね。芸術監督のトマ・ジョリや、DJのバーバラ・ブッチらを脅迫するコメントなどもあるとか…。
 これからル・モンドやリベラシオンなどで、いろいろと記事も出てくると思うので、それらをまた追っていきたいと思います。でも、フランスっぽいなぁと思うのは、芸術監督のトマ・ジョリと、衣装監督のダフネ・ビュルキがテレビに出て直接質問に答えたりしていること。こういうのは、東京オリンピックではみられなかったことだと思います。

 結局、全員がOKって思うものなんてつくれないから、どこかで誰かに批判されることはあると思うけれど、私はフランスの芸術文化が好きなので、やはり、なんだかんだ、愛とリスペクトを感じましたよ。私はね。

 閉会式にはトム・クルーズが出るって噂があるけれど。それも気になる!!!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?