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夢を(ひとまず)あきらめる

6年勤めた会社を辞めて大学に進学したのは、看護師として途上国の医療支援に携わりたかったからだ。

社会人として働き始めて3年も経つと、自分は何のために生きているんだろうとか、本当にやりたいことは何だろうとか、現状に対する疑問がむくむくとわいてくる。わたしもそんな一人で、転職サイトにこそ登録しなかったものの、自己啓発本や大学時代から興味のあった国際協力分野の書籍を読み漁った。

紆余曲折を経て最終的に看護に目標を定めると、高校生に混ざってオープンキャンパスに出かけたり、休暇を利用してインドのケア施設でボランティアをしたり、仕事の合間に大学受験の準備を整えた。大学の社会人入試は狭き門と聞いていたから、合格通知を受け取ったときは喜びと期待に胸が躍った。憧れに向かって一歩踏み出したという確信があった。

こじらせ女子

今、自分にはあの時の確信はもうない。うつ病と強迫性障害を発症した直後は看護に対する興味を完全に失って、大学を退学することを本気で考えた。看護師になんてなりたくない。国際協力も途上国支援もどうでもいい。今すぐ死にたい。泣いて叫んだ。

症状が落ち着いてから過去の自分を振り返ると、不純な動機で身の丈以上のことをやろうとしていたと感じる。もちろん、純粋に人や社会のために働きたい、専門知識を生かしたやりがいのある仕事がしたいとは思っていた。その一方で、国際協力を仕事にすれば他人から認めてもらえるんじゃないかという承認欲求があったことは否定できない。それに資質の問題もあった。海外での支援活動には高いコミュニケーション能力とリーダーシップが求められる。無口で内向型の自分に務まるとは思えない。

うつ病になった原因はいくつか考えられるけど、過大な上昇志向とゆがんだ承認欲求をこじらせたことも一因だったんじゃないかと思う。

弱く小さくなった自分

今のわたしが求めているのは、自分の心とからだに向き合いながら淡々と生きることだけだ。散歩をしたり、1日の終わりにゆっくり熱いお湯につかったり、ときどきサウナに行くことで心は満たされてしまう。人混みや大きな音が苦手になり、災害や犯罪のニュースは直視できなくなった。精神疾患を患ったわたしは弱く小さくなった。同時に自分の心やからだの欲求に正直になった。

国際協力の夢はひとまずあきらめようと思う。あくまで、ひとまずは。実現するのが難しい長期的な目標をかかげてしまうと、できないんじゃないかという不安が増大して心が押しつぶされてしまうから。当面は確実に実現可能な目標を立てて、ゆっくりゆっくり前に進んでいくしかない。



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