トラウマ

トラウマというのは、自分の経験に意味をつけられていない時に起こるものなんです。自分の人生の物語の中で、ある経験については意味を与えられていない。そんな時に傷となって疼き続けるわけです。

では、意味を与えるとはどういうことか。それは、「自分の経験した出来事は、くり返し起きている出来事のカテゴリーの一例である」という類似性を見つけることなんです。 

ところが、「わたし」が生きる歴史というのは、1回きりなんですよね。自分の身には1度しか起きていない出来事だから、自分1人だけではカテゴリーを発見できないんです。そんな時に必要なのが、他者ー「あなた」の存在なんです。 

似たような経験をした当事者同士で経験を分かち合えば、自分や相手にとっても1回きりの経験でも、2回になります。“ある”と“ある”で、“あるある話”になるって感じですね。まったく同じ出来事ではないけれども、「あなたもそうか」、と共通のカテゴリーを抽出できることがある。それを自分の経験に当てはめることが、1回性の出来事に意味をつけて、物語にしていくことなんです。 

「わたし」という存在は、わたしがたった一人で考え続けてもいっこうにその正体が見えてこない。「あなた」という他者と隣り合い、お互いの共通点や違いを見出すことを通して、はじめて「わたし」の輪郭が浮かび上がってくる。まったく同じではないものの、比較的似た経験をした、困難の「当事者」同士で集まることの価値はそこにある。



絶望だって、分かち合えば希望に変わる。
熊谷晋一郎さんが語る「わたしとあなた」の回復の物語


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?