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でも結局量足りなくて帰りにじゃがりこ買うんだよな

在宅勤務が続くと、景色が変わらない。

なので、ランチは気分転換に外食をしに行く。
単に作るのが面倒くさいということもある。

家の近くに、やってるのかやってないのかわからないそば屋がある。

今日こそやってないんじゃねえかな、と思いながらめちゃめちゃ滑りの悪い引き戸を開ける。

大抵、ちゃんとやってる。
そして大抵、そば屋のばあちゃんが席に座って机で寝てる。しかも大抵、こちら側を見ている。

いや、ふつうに客と目合って気まずくなるじゃん。確実に微妙な空気になるじゃん、なんで毎回そうなの?といつも思ってる。

そしてサッと立ち上がり、何事もなかったかのように店の奥へ戻ってゆく。いらっしゃいませとは決して言わない。

代わりに奥からじいちゃんがトコトコ出てきて、いらっしゃいませと言ってくれる。そこでやっとばあちゃんも、思い出したかのように挨拶をかぶせてくる。

一切いらっしゃいませ感のない出迎え方をしてくれるので、むしろすがすがしい。

そしてこのそば屋は、いつも客がひとりもいないので、よく来てしまうのだ。

客もいないし、おしぼりとかもないし、口を拭く紙とか、メニューもないし、いろいろない。

机と椅子だけがある。

そばさえ食べれればいいと思う人にはぴったりなのだ。

注文もなかなかうまくいかない。

じいちゃんの耳が遠いのと、わたしの声が小さいので、注文をしてもなかなか聞き取ってもらえない上に、じいちゃんはこっちまできてくれない。

3メートルくらい先から、えっ?えっ?と聞き返してくる。

なぜそれ以上近寄らぬ、とツッコミつつ、とりなん!と声を張り上げる。だんだん、鶏南って、とりなんって読むんだよな?と不安になる。

そうしてやっと出てきたそばを食べる。うまい。

ものすごくうますぎるわけでもないけど、まずくもない。ふつうのうまさ。

店を出るときまで、客はわたしひとりだった。

わたしの食べた鶏南蛮そばは650円だったが、あの昼休みの一時間で、そば屋は650円を稼いだということになる。

いろんなことを気にせず、単純に人件費のみで考えても、じいちゃんとばあちゃんで分け合ったら時給325円だ。

じゃかりこ2個分じゃないか?
なぜ潰れないのだろう。
わたしみたいな客が持続的に来るんだろうな、と思った。