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No.145 1995年~ 朝日新聞編集委員の山岸駿介氏との出会いと活動 

 NIEの活動を通して新聞社の何人もの編集委員の方々と出会うことがありました。編集委員とは自分の専門分野の解説記事やコラムを署名入りで書くのが主な仕事とされています。No.141でご紹介した読売新聞の吉田伸弥さんも編集委員でした。
 1995年に入り朝日新聞の山岸駿介氏と出会いました。山岸氏は教育担当の編集委員で、朝日新聞の教育面に1994年4月~1995年12月まで「がっこう解体新書」という名前で連載記事を執筆されていらっしゃいました。私はこの連載を楽しみにしていました。
 その山岸氏が1995年3月に初等科で本格的に開始された6年生の「卒業研究」の発表会を取材され「がっこう解体新書」に掲載して下さったのです。その記事のおよそを提示します。
 「大学生の試験の答案を見て『こんなことが書けないのか』と、驚くことがよくある。一方、小学生でも、『本当に自分で書いたのかしら』と、疑いたくなるほど、できのいい作品に出合うことがある。先週の金曜日、東京・白金の聖心女子学院初等科であった卒業研究の発表会を見て、そのレベルの高さに舌をまいた。卒業研究といっても、大人が書くような、文字ばかりの、味気ない報告書ではない。小さくても画用紙大、大きいものは、新聞紙を広げたほどの紙に、何十ページにもわたり、イラストや絵をふんだんに入れて、研究成果をまとめている。見た目はとてもかわいらしい。『見る人の関心を引き付けるにはどうしたらいいか考えて作りなさいと言っていますから』と岸尾祐二教諭は言っていたからこれも指導の結果だといえる。研究テーマが、また多彩である。『脳が死んだら、人の死ですか』『私が見た坂本龍馬とその時代』『おやつのうらをさぐる』『裁判って知ってる?』……。資料の丸写しではない。インタビューやアンケート、フィールドワークなどもやっている。発表を聞けば、その子の研究が借り物でないことが分かる。『看護婦の母、ナイチンゲール』を書いた子は、入院したことのある病院で、看護婦さんの実習をした。世界各地にいる知り合いに頼んで、その国の看護婦にアンケートをしてもらい、労働条件の違いなどを聞いている。『子ども人権図鑑』は、これだけを紹介したほど立派な内容で、世界各地で子どもの権利がどう侵されているかなど、多方面にわたり調べている。同校には週に一時間、情報活用と卒業研究の時間がある。情報活用の時間はディベートをしている。(後略)」

「朝日新聞」1995年3月13日朝刊より

 「がっこう解体新書」の最終回1995年12月4日に山岸氏は定年退職し、その後は、1996年に教育ジャーナリストとして活動され、1997年に多摩大学教授に就任されました。「がっこう解体新書」とその他の山岸氏の原稿を一緒にして1997年8月に山岸駿介著『学校解体新書』(小学館)が発行されました。その出版記念会に招待され山岸氏とお会いするとともに、立教大学大学院でお世話になった濱田陽太郎先生にも久しぶりにお会いすることができました。また、1991年に出版した『新聞のほん』(リブリオ出版)に推薦のお言葉を頂いた元文部大臣の永井道雄氏にもお会いしお礼のご挨拶もできました。山岸氏が取材された教育関係者の多様な方々にとても驚きました。

 山岸氏とは日本新聞協会が進めるNIEでも、一緒に研究をする機会がありました。1994年11月に創刊された「NIEニュース」の第3号(1995年7月19日発行)の座談会「情報教育と新聞」でご一緒させて頂きました。出席者は柿沼利昭氏(埼玉大学教授・元文部省視学官)、鹿野川喜代美氏(昭島市立端雲中学校教諭)、原田新司氏(新潟日報社代表取締役専務)と私で、司会者を山岸氏がされました。
 
 座談会の趣旨は「文部省が情報教育の重要性を強調して十年以上が経過しましたが、教育現場では、情報教育をコンピューター教育ととらえがちです。そこで、文部省視学官として情報教育を推進した柿沼先生から情報教育の位置づけをうかがうとともに、『情報活用能力』とは何か、NIEは情報活用能力の育成にどのような貢献ができるのか-などについて教育現場、新聞社はそれぞれの立場から話し合っていただきました。」

 座談会すべてをご紹介することはできませんので、司会の山岸氏の問いと私の発言を掲載します。
情報教育は何を目指すのか
山岸氏「文部省は21世紀の教育においても情報教育を重く位置づけているが、情報教育はコンピューター教育ととらえがちだ。そもそも情報教育は何を目指したものだろうか。」
私「本校には現在、コンピューターは入っていないが、学校教育に導入していかないといけないだろう。今後、情報教育の中でコンピューターは大きな役割を果たすだろうが、柿沼先生から指摘のあった間接経験の肥大化や活字離れは、情報教育を考えるうえで検討すべき課題といえる。」
 
NIEと情報活用能力の育成
山岸氏「情報を異なる視点からみるのはたいへん難しいことだ。NIEでは、どのようにその能力を育成できるだろうか。」
私「新潟県の教育委員会が文字、映像、コンピューターを取り上げたのは賢明で、この3つを総合的に進めることはよいことだ。子どもたちは、よい悪いは別としてテレビが好きだ。そこから学習に入ることもできるので、全く無視はできない。また、コンピューターも各家庭に普及してきており、子どもたちは上手にマウスを使いこなす。映像、コンピューターは人気があるが、活字は一番人気がない。しかし、学校の役割はこうした映像や新聞をどうみるかを教えることだ。アメリカでは、新聞の読み方をしっかり教え基礎を固めている。教育ではそうしたことが大切なのだが、日本ではそのような実践が少ないのが現状だ。」
山岸氏「小学生に新聞を親しませるのは苦心が多いと思うが、新聞の読ませ方について工夫があるか。」
私「低学年は文字が読めないので、写真を使う。オリンピックなどのイベントがあれば、カラー写真から世界にはいろいろな人種、建物、自然があることが分かる。写真から入ることでもけっこう関心を持つものだ。高学年では、切り抜きはしないで、新聞一部を渡してしまう。子どもの自由な関心を重視して、楽しく、強制しないことを第一にしている。何に関心があるかで話し合うことで、人間的なふれあいもでてくる。また、新聞とテレビを比較することで、そのメディア特性を学ぶ。おわびや訂正をみて、新聞、テレビにも間違いがあることを理解させる、新聞の読み比べも十年ほど前から行っている。すべての生徒が興味・関心をもったわけではないが、関心をもった子どもは新聞を読むようになる。」
私「教師の提示だけでなく、子ども自身が情報を切り取れるようにしてあげるのが教育の役割。基本的な新聞の読み方を習得させたら、新聞記事からテーマや材料を探してディベートを授業に取り入れる。教師がきっかけをつくることが大切だ。新聞で読んだけれども、それが本当なのか実際に出かけて見に行って、検証することも大切だ。」
山岸氏「(前略)NIEのために新聞を作っているわけではないが、新聞に対する注文は。」
私「子ども向け新聞をつくるのは本来の新聞の役割ではない。ただし、大学生など若い人にとって、わかりやすく魅力的な新聞をつくってもらいたい。」
 
 山岸駿介氏には大変お世話になりました。何回か飲食をご一緒させて頂きましたがとても楽しい時間を過ごすことができました。
 

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