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No.58 1990年 6年生社会科・学級活動 「1本(尾)のエビが私たちの口に入るまで」(SDGsにつながる学び)

 1990年ごろ日本でよく食べられていて主に発展途上国から輸入されている食物にエビがありました。バナナと同じように私が小学生頃の1960年代にはエビも高級な食材で日常の生活で食べた記憶がありませんでした。
 村井吉敬著『エビと日本人』(岩波新書、1988年。)に出会いました。前回のバナナ同様に日本でよく食べられているエビがどのように輸入されているのか、輸出する国にはどのような問題があるのか開発教育として取り組むことにしました。

 『エビと日本人』はエビを通して、日本とアジアの人々との気付いていない関係を教えてくれました。村井氏は本書で「エビの種類、それがどこから来ているのかを少しでも知っていると、世界は意外に狭いことが分かってくる。そして、同時に私たちの視界は地球大に広がっていく。」「エビのかなたの第三世界の小漁民たちの姿は、私たちにはあまりに遠い。」とし顔の見えるつき合いを求めてゆきたいと述べています。私はこの村井氏の記述の前者を第一の視点、後者を第二の視点として学習計画を立てることにしました。子どもたちの食生活を振り返させることを目的として、第一の視点については子どもたちの調査活動を中心にし、第二の視点については新聞の切り抜きから調べることにしました。今回の学習は社会科に限定せず学級活動としても取り組んだ実践でした。
 
エビの種類、それはどこから
【第1時】
 まず、クイズで入っていきました。「次のヒントはある食べ物のことです。その食べ物とは何でしょうか。」と言って黒板に書きました。
 ① バナナ ②クルマ ③サクラ ④シバ ⑤クマ ⑥トラ ⑦キシ
 ⑧大正 ⑨黒いトラ
⑥までで最初に分かった子どもがいました。これはみなエビの種類です。
次に「みんなが好きなエビが入っている料理を挙げてごらん。」と聞きますと、チリソース、ピラフ、グラタン、エビフライ、チャーハン、茶碗むし、シューマイと出て、終わりの方で天丼、天ぷらそばが出てきました。数名を除き多くの子どもはエビが好きでした。そこで、「天ぷらそばには何が入っているかな。」と聞きますと、エビ、麺、のり、なると、かまぼこ、ころも、つゆ、ねぎと出てきました。ここでのり、なると、かまぼこはお店によって異なることから一応除くことにして「それでは、天ぷらそばの原料はなに。」と聞きますとエビ、そば粉、小麦、大豆、ネギ、水が出されました。そこで「天ぷらそばについて自分たちで調べるとしたら、どんなことができるかな。」と問いかけ、次のような調査項目が設定されました。
 ① 天ぷらそばの原料はどこから
 ② エビの種類と値段
 ③ エビはどこから
いずれの項目も文献を使わない聞き取り調査を中心に進めることにしました。その日から一人、または小グループでのインタビュー作戦が開始されました。そして、一週間後。

【第2時・第3時】
① 天ぷらそばの原料はどこからという課題については、それぞれの家の近所のお蕎麦屋さんにインタビューしてきた子どもがいました。ネギは深谷というところと韓国・台湾産のものを使っているというところがありました。ある子どもは次のように、お蕎麦屋さんでのインタビューをまとめてきました。


② エビの種類と値段
③ エビはどこから
の2つの項目について、子どもたちは魚屋さん、スーパーマーケット、デパート、生協などで取材してきました。スーパーマーケットで担当者が分からない時に、マネージャーの方が対応して下さったところもありました。
以下が子どもの取材結果でした。
〔あまエビ〕日本、アメリカ、ノルウェー、アルゼンチン、アイスランド。
      1尾40円~60円ぐらい。
〔大正エビ〕韓国、中国、インドネシア、フィリピン、台湾、日本(九州)。
      小1尾60円ぐらい。大1尾170円ぐらい。
〔バナナエビ〕インドネシア、オーストラリア。
       1尾60円ぐらい。
〔ホワイトエビ〕インドネシア、インド、ベトナム、フィリピン、メキシコ。
       特大1尾200円ぐらい。
〔クルマエビ〕タイ、中国、台湾、日本(九州、四国、伊勢)。
       1尾100円ぐらい。
〔ブラックタイガー〕インドネシア、台湾、フィリピン、タイ、中国、韓国。
          1尾60円~120円ぐらい。以前より安くなったの
           は、台湾で養殖できるようになったからと教えても              
           らった子どももいました。
 その他、アカエビは茨城、アカスムキエビは東シナ海、シバエビは九州、サクラエビは九州・駿河湾などと取材をしてきたことが発表されました。そして、ひとりひとり色々なエビがどの国から来ているのか世界の白地図に表すことにしました。
 ある子どもが作成した「エビの出身国マップ」です。


 エビのふるさとは今
 【第4時】
 子どもたちはひとりひとり自分の「エビの出身国マップ」を持っています。「一番多くの種類を日本に送り出していると思われるインドネシアの漁師さんの苦労や抱える問題点を想像してみよう。」と指示を出しました。子どもたちからは「大きいエビはとりにくくなっている。」「エビが病気になったら売れない。」「人工的な海の汚れでエビがとれなくなってしまう。」「とりすぎていなくなってしまう。」「養殖で薬品の害はないのか。」「漁師さんの賃金が安いのではないか。」「私たちが食べているエビをこれからも食べることができるのか。」といったことが出された。
 「このようなことを調べるにはどうしたらいいと思う。」と問いかけると、「農林水産省で聞く。」「インドネシア大使館で聞く。」「築地市場で聞く。」「テレビ・ラジオ・新聞で探す。」「新聞社の特派員に聞く。」という意見が出され、みんなで検討していくと、後ろから2つの意見が現実的だということになりました。そこで、以前に切り抜きをしておいた「朝日新聞」の記事を次の時間に読むことにしました。

「朝日新聞」1990年3月8日朝刊より

 【第5時】
 「この記事を読んで、分かったことを箇条書きにしてみよう。」と指示を出しました。20分後に子どもたちは、「ジャワの町のエビの養殖で、エビの価格が1キロ14000ルピア(1120円)していたものが、6000から8000ルピア(480円から640円)に下がり、農民や漁民の収入が減った。」ここで、その収入を日本円にすると600ルピアで約480円になることを子どもたちは知り、物価が違うとはいえ収入の少なさに驚いていました。そして、日本のスーパーマーケットでブラックタイガーが1㎏2500円で売られていると子どもから意見が出されました。「小さいものは買ってもらえないし、安く買いたたかれる。」「インドネシアのエビはかつて漁船の漁によるものが主流だった。」「価格が下がったのは主に、中国やタイなどの生産が急に増えたため。」「養殖の規模を小さくしている。」「サバヒイという魚も養殖している。」「タンブリンさんは昔の方が生活しやすかったと言っている。」「仲買人に安く買いたたかれる。」「インドラマユではマングローブ林が養殖地に変わった。」「エビの値段が急に下がったので、サバヒイに変える人が増えている。」「サヌシーさんは養殖するブラックタイガーはめったに食べない。」といったことが出された。そこで、「もう少し知りたいことはないかな。」と問うと「養殖地をつくるお金はどうするのか。」「どうしてタイやで急増したのか。」「インドネシアの人々は、日本でのエビの値段を知っているのか。」「仲買人に安く買いたたかれるのは、知識がないことの他に理由があるのか。」と考えが出されました。
 【第6時】
 このような記事を読み、子どもたちはどんなことを考えたのだろうか。「新聞記事を読んで、考えたことをエビになって言ってみよう。」という指示を出しました。こんなエビの一言が子どもたちから出されました。

「ぼくは天ぷらそばに入れられたりするけど、どうして日本では高く売られているのかな。ぼくたちを取っている人たちにもぼくたちを食べてもらいたいな。サヌシーさんは『収入から見ればよくなったけれど、昔の生活の方がよかった。』なんて言っている。お金があればぼくたちより家の方を買うのか。ぼくはマングローブ林もなくなるのが悲しいな。ぼくたちを大切にしてほしいな。そして、せっかくサヌシーさん達がとってくれているのに、安く買う人は、ゆるせないと思う。」

「インドネシアの人たちはボクたちをとるのにずいぶん苦労しているんだね。前はとても日本に輸出していたのに、中国やタイも輸出するようになったから大変なんだ。日本人はエビすきなんだけれどこれからはどうすればいいのかな。養殖するためにマングローブ林をこわしているインドネシアの人のことをもっと知ったらいいと思う。あと、ボクたちを安く買おうとする仲買人のことも知って欲しいなあ。ただエビを食べているだけではなくて、エビをとっている人のことを考えられるといいんじゃないか。」

 「ぼく達エビは日本に行く時が多いけれど、インドネシアの人達はかわいそうだね。インドネシアの人達は、ぼくのために幸せになったり苦しんだりしているよ。収入が最近は三割もへっているんだって。これからぼくを食べたほうがインドネシアの人にはお金が入る。だけどマングローブっていう木はどんどん切られ養殖場になる。でも食べないとインドネシアの人はお金が入らなくなってしまう。これからはボクたちの気持ちを考えてほしいな。インドネシアの人達が十分な知識がもてるようになって、自然のままの所にボク達がいるのがいいな」。
 【第7時】
 「ひとりひとりこれからどのような行動ができるか自由に考えてみよう。」と指示を出しました。
 「食べられなかったら、人と分けたりして食べ残しをしない。」「むだがないように計画的に買う。」「むだがなくなるようにエビについて小学生としての意見を新聞に投書する。」「捨てられるのがもったいないから日付の早いものから買う。」「日本人がエビの食べる量を具体的に知った方がよい。」「仲買人ってどんな人なのかを知る。」「マングローブ林を現地の人はどのように使い、マングローブ林がなくなるとどうなるかを知る」などの意見が出されました。消費者としての行動と少しでも現地の人の様子を知りたいということが分かります。エビを通して日本人の食生活の背景を少しでも考えてくれたことにこの授業の意義がありました。

 前回のバナナも今回のエビも身近な食生活が世界のいろいろな人たちと繋がっていること学ぶいい機会であったと考えています。エビの種類に「バナナ」があり、やはりバナナとエビには繋がりがありますね。
 SDGsを進めるに当たり、具体的な食材で世界の人々との繋がりを考えることは小学生にとって有効な方法と考えます。ぜひ、子どもの身近なものを学習材にして取り組んでいくことを試みて下さい。

参考 学びの未来研究所「家族で取り組むSDGs」
https://www.manabinomirailab.com/sdgs-top


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