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No.86 1976年~ 『林竹二・授業の中の子どもたち』に出会って

 『林竹二・授業の中の子どもたち』(日本放送出版協会、1976年発行)という本に大学4年生の時に出会いました。写真集のような本書に大きな衝撃を受けました。今回はこの本に出合っての話題を提供します。


 これより1年前の1975年に林竹二編著『林竹二 授業人間について』(国土社、1974年発行)を読んでいました。林竹二氏と「人間について」というテーマに関心を持っていました。

『林竹二・授業の中の子どもたち』を読んだ(見たという方が正確かもしれません)時のインパクトは、後の私立小学校教師への道を選択することに大きな役割を果たしてくれたのでした(小学校教師への道は同じ大学4年生の時ある小学生の存在があったのですが、それは後のエッセーで書かせて頂きます)。
 林竹二氏の経歴について、『林竹二・授業の中の子どもたち』から転載します。
 1906年栃木県矢板市に生まれる。1934年東北大学法文学部哲学科を卒業。同学部長を経て、宮城教育大学学長となる(1975年6月退任)。
主訳著書=テーラー『ソクラテス』(桜井書店)『共同研究・明治維新』(徳間書店)『授業・人間について』(国土社)『田中正造の生涯』(講談社、現代新書)『授業の成立』(一莖書房)
 主要論文=「森有礼研究」(『東北大学研究年報』)『田中正造―その生と戦いの「根本義」』(二月社)
 
 まず、林竹二氏について衝撃を受けたのが大学の研究者が小学生に授業をするということでした。当時の学校での授業風景としてほとんど考えらえないことでした。『林竹二・授業の中の子どもたち』の構成を担当された松本陽一氏が前書きで次のように述べています。「一九七一年に始められた林先生の授業は、一九七六年二月現在で、ついに二百回を超えました。授業のテーマは『人間について』と『開国』。前者は宮城教育大学で開講されていた総合コースのテーマそのものであり、後者は先生が七、八年間集中的に取り組まれた思想史研究上のテーマです。先生は、本質的な方向を持った課題であれば、大学でのゼミナールや専門家の研究が小・中学生に対する授業として成り立つという見通しのもとに、こうしたテーマを選ばれているのです。」
特に「本質的な方向を持った課題であれば、大学でのゼミナールや専門家の研究が小・中学生に対する授業として成り立つ」という文章には共鳴しました。小学生だからといって教科書の内容を教えていればいいということでは教育にならないという考えは、当時大学のゼミの古銭良一郎先生も強調されていました。この頃まで社会科学を学び高校の社会科教師になろうかと考えていた私にとって小学校教師への道もあると教えてくれることになったのです。
 次に衝撃を受けたのが、本書が写真集のように授業中の子どもたちの表情を捉えているのです。このことは文章だけで授業記録を読んでいても子どもたちの表情がどう変化していったのかなどが分からないことを克服してくれるのです。ですから授業を研究するには文章だけではなく実際の授業を観察すること、特に前から見て子どもの表情をよく見ていくことの必要性を教えてくれたのです。学生時代にはなかなか教室に入ることは難しいですが、教師になってから公開された授業を前から見るように心がけました。このことは39年間できるだけ実践してきました。

『林竹二・授業の中の子どもたち』より

 さらに、衝撃を受けたのは『林竹二・授業の中の子どもたち』には、私が初めて見た私立小学校の日本女子大学附属豊明小学校の3年生が「人間」について考えていることです。


『林竹二・授業の中の子どもたち』より

 前掲3枚の写真について、本書では次のように書かれています。「三枚の写真は『大水が出てビーバーのダムが流れてしまったら、ビーバーは前と同じものを作るだろうか、違ったものを作るだろうか』という問題を考えている場面である。子どもたちからは、『丈夫なものを作って流れないようにする』という答えと、『そんなことはできない』という対立した答えが出された。林氏は後者を肯定した上で『どうしてそう思うのか』『人間だけが新しいものを作るのはなぜか』『人間には考える力があるということはどういうことなのか』とたたみかけていった。立ち上がっている子どもの一連の写真には、ためらいをふっきり、授業にとけ込んでいくようすがとらえられている。また、背後の参観者も傍観者的でなく授業に参加しているので、全く違和感がない。」
 この当時、高校まで公立学校で育った私は、私立小学校の授業を見たり読んだりしたことは全くありませんでした。高校の社会科教師を眼中に入れていたのですが、『林竹二・授業の中の子どもたち』から多くのことを学び、小学校の教師さらに私立小学校教師の可能性も私の中に入ることになったのです。後に聖心女子学院初等科の教師になった時に、日本女子大学附属豊明小学校とは多くの共通性があり交流もありました。先輩の先生には大変お世話になり、後輩の先生には研究を手伝ってもらいました。『林竹二・授業の中の子どもたち』と出会うことにより、私の人生は大きな転換を迎えることになったのです。

 私が教師になった1981年4月に発行された林竹二著『林竹二 問いつづけて-教育とは何だろうか』(径書房、1981年4月発行)も「教育とは何か」を問い続けた思い出深い本の1つです。

 私が教師になった1年目3年生を担当しました。その時1年間かけて実践したのが「人間と社会」という総合学習で、10のテーマをおよそ20時間かけて実践しました。林竹二氏の「人間について」を自分なりに発展させたものです。この実践については後のエッセーで紹介させて頂きます。
 
参考
林竹二
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9E%97%E7%AB%B9%E4%BA%8C
日本女子大学附属豊明小学校
https://www.jwu.ac.jp/elm/

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