No.16 1981年から10数年 「先生の通信簿」
1981年4月1日に聖心女子学院初等科の教員に就職し、2020年3月31日に教員を退職しました。日本のコロナ禍の始まりのころです。39年間で私は担任を26回させていただきました。担任以外の13年間はサバティカル(自由な研究期間)1年、教務主任4年、副担任8年(4-4-4制による)で、授業では主に社会科を担当させていただきました。
小学校教師としては担任こそ教育の醍醐味が味わえる仕事だと考えてきました。私立小学校ですので担任がすべての教科を担当することはなく、国語、算数、社会、生活(1~2年)、総合的な学習(3~6年)、学級活動などを担当しました。できるだけ多様な教科や活動を担当することにより、子どもと接する時間が多く持て、多面的に子どもを捉えることができました。小学校教師にとって担任は深い味わいや本当の楽しさを実感できる醍醐味に満たされています。
授業の様子については今までも執筆してきましたし、これからも続けます。今回は教員1年目から取り入れ、その後も十数年継続した活動についてご紹介致します。
それは「先生の通信簿」です。私たち教師は子どもたちを評価します。当たり前のことですが、それでは一方的過ぎます。子どもたちは教師をどのように評価しているのでしょうか。現代では大学生による教師への評価は多くの場で行われています。1981年教師になって1年目に何かの本で読んだか、聞いたことがあったのが、「先生の通信簿」でした。詳しいことは分からなかったので、自分なりに子どもはどう思っているのだろうか聞くために自由な形式で書いてもらいました。聖心に勤めて3年生を担任した最初の1学期(当時は3期制でした)から始めました。私の問題点にも鋭く言及することが多く、自分の教師としての課題を認識させてもらいました。
次のような子どもからの評価がありました。
Aさん「算数 とてもやり方がくふうされていい。進み方もバッチリ。国語 字をもうちょっときれいにしてほしい。でも教え方はいい。とくに早びきひょうがいい。社会 とってもプリントがいい。またしゅくだいもやりやすい。学級会 ゲームや話し合いはとってもやり方がいい。(先生のいいところ)先生はアイディアがとってもいいです。またわたしたちにおもしろいゆめにつれていってくれるようだった。やさしい時はとってもやさしく、こわい時はとってもこわくてきちんとけじめがついているのでいいと思う。これからもそのようにしてください。(先生のわるいところ)先生は、もうちょっと字をきれいにしてほしいです。(言うこと)先生もわるい所をきちんと直して下さい。また、いい所をずうっとつづけてみて下さい。とってもいいクラスに入っています。がんばってみてください。」
Bさん「算数のことについて コンパスはいろいろなことに使われていることがよくわかりました。岩に・(点)をつけ、そこを中心にして円を書き、何びきとれるか、だれの線が一番長いかをやりました。みんながしずかにすればとてもやさしいけど、おこる時はもう少しやさしくおこって下さい。国語のことについて これまでに一回「大きな木がほしい」のお話を、教科書でなく、ゆう二くんが紙にうつして、つづきのお話を自分たちで考えてみました。先生はいいアイディアだと思いました。私はお話作りが大好きなので、とても楽しかったです。『きっちょむさん』での体を動かしたりしながら言葉を話すのはおもしろかったです。ゆう二くんはいろいろな工ふうをよくしますね。とてもいいと思いますよ!
社会のことについて 社会もやはり工ふうしてありますね。スライドを見るために写真を写してフィルムにしたりしてみんなのことをよく考えてくれました。この前、みんなもうるさかったのがいけないと思いますが、ゆう二くんも少しおこりすぎだと思いましたよ。気をつけましょうね。学級会について 『何も用がない時はあそぶのが一番』と思っているでしょう。あそびを学級会の時にしてくれるのはとても楽しいことです。どんどんあそび方を教えて下さいね。学級会の時はいつでもやさしいです。せいとからの言葉 ゆう二くんは、やさしいときはやさしく、楽しくあそんでくれますね。おこり方がこわすぎます。もっとやさしくしてね。それから、字を少しうっすらと書くようにして下さい。」
Cさん「算数で先生は『タレントの表』など楽しいやり方で進めました。算数がきらいだった人でも三年生になったら、ふつうになったとか、すきになった人が出てきたと思います。国語もそうです。教科書を使わないべん強のしかただとかいろいろ楽しくべん強ができるようにくふうして下さいました。いろいろなアイデアを生みだしては私たち生とにやく立てて下さるのです。そういう所が私はすきです。おせっきょうは(いや)という人もいるけれど、きしお先生は私たちのことを思ってしかっているのだと思います。この前、社会科の時、おくれてしまった人がいた時、本気になっておこって下さいました。先生は私たちを子どものように思っていてくれるのだと思いました。そういう先生に心から、(ありがとうございます)と言いたいと思っています。先生は、いつもニコニコわらっていて、くすくす私たちもわらってしまします。三年ゆり組は明るい、ちらっと見ると、わらい声がきえたことのないようなクラスだと思っています。これからもずっとこの学校にいて下さい。」
教師1年目は結構おこり方が怖かったようです。あの時も反省しましたが、今でも反省しています。最後の「これからもずっとこの学校にいて下さい。」という聖心で初めて出会った子どものこの言葉を支えに、39年間定年退職まで未熟でしたが充実した教員生活を送ることができました。それにしても言葉のもつ力ってすごいと考えさせられました。
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