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物語【絶望への秒読み】第九話

隕石が落ちる事を事前に知っていた父さん達は、家の地下にシェルターを作っていた。ただし、家族全員は避難できない。そこで夏陽の父親と相談し、僕と夏陽の二人をシェルターに避難させようと考えた。当然、僕と夏陽は納得できない。


「シェルターにはお前達二人が避難して、生き延びて欲しい。これが父さん達の願いだ。」


いや、いきなりそんなこと言われても。別にみんなで避難すれば。

「それが俺の手違いで、二人しか避難できない設計になってしまった。あとパールも頼む。もう年寄りだから。」「ワン!」「ほら、パールも喜んでるぞ。」


いや。絶対嘘だと僕は思った。父さんは最初から二人分しか準備していない。


「とりあえずご飯でも食べながら話そう!夏陽ちゃん手伝って!」「はい。」母さんは場の空気を変える天性の才能を持っていると僕は思った。



「じゃ男同士で話をするか。」母さんと夏陽がキッチンへ行くと父さんが言った。


伊賀咲のおじさんも知っていたんですか?

「うん。ごめん。家にも手紙が来たからね。君のお父さんに相談したら、俺の所にも手紙が来てるというから。」


それじゃなんでみんなでシェルターに。


「まず、隕石が落ちたとして、今いる場所に影響がないかも知れない。その逆にシェルター生活が長くなった時のために人数は少ない方がいい。お前たちの生存確率を上げたいんだよ。あとはお前も親になれば分かる。」


大人になれば分かる、親になれば分かる。よく聞く台詞だ。


僕はみんなで一緒に。


「なぁ、太洋たいよう、分かってくれ。」いつもふざけている父さんが真顔で言った。



困ったような少し寂しい笑顔。子供の頃からそうだ。父さんには敵わない。いつも優しく諭されてしまう。



「夏陽をよろしく頼むよ。」夏陽の父親に懇願される。僕は頷く事しかできなかった。



「それじゃ!久しぶりに"家族"が全員揃ったんだ!積もる話もあるし!夕飯にしよう!」父さんはいつになく大きな声で言った。



気づけばもうそんな時間か。


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