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生体エネルギー論<パート1>

1,基本用語の整理
生体エネルギー論:生体内のエネルギーの流れを扱う学問である。主に三大栄養素から利用可能なエネルギー形態へ変換することにより、生物学的な仕事を行う。
異化作用:大きな分子を小さな分子に分解すること。エネルギーの放出
同化作用:小さい分子から大きい分子を合成すること。エネルギーの利用。
発エルゴン反応:エネルギーを放出する反応。異化。
吸エルゴン反応:エネルギーを必要とする反応。同化の過程や筋収縮。
代謝:異化・同化・発エルゴン反応・吸エルゴン反応のこと。
アデノシン三リン酸(A T P):異化作用(発エルゴン反応)由来のエネルギーは、アデノシン三リン酸を介して同化作用(吸エルゴン反応)の促進に用いられる。
加水分解:1分子のA T Pを分解するのに、水1分子が用いられる。
アデノシン三リン酸分解酵素(A T Pアーゼ):A T Pの加水分解を促進する酵素。
ミオシンA T Pアーゼ:A T Pアーゼの1つ。クロスブリッジを形成する際に使用される。
カルシウムA T Pアーゼ:細胞質にあるカルシウムを筋小胞体に戻す。
ナトリウムA T Pアーゼ:脱分極後に、筋鞘内外の濃度勾配を維持する。
アデノシン二リン酸(A D P):リン酸基を2つだけ含む。
無機リン酸(Pi):A T Pの加水分解により発生するもの。
アデノシン一リン酸(A M P):A D Pの加水分解により作られる。

2,生物学的エネルギー機構
哺乳類のA T P補充として3つのエネルギー機構がある。
ホスファゲン機構・解糖・酸化機構
生体エネルギー論では、無酸素的代謝・有酸素的代謝という言葉を用いる。
無酸素性:代謝過程で酸素を必要としない。
有酸素性:代謝過程で酸素を必要とする。
これらを踏まえて、ホスファゲン機構・解糖は無酸素性機構である。筋細胞の筋形質で起こる。酸化機構・クレブス回路・電子伝達系やその他が有酸素機構である。筋細胞のミトコンドリアで起こり、最終電子受容体として酸素を必要とする。
三大主要栄養素のうち、炭水化物だけが直接的に酸素を必要とせずエネルギー代謝が小脳である。そのため無酸素機構には炭水化物が必要である。
これらのエネルギー機構は、常に活動しているが、その割合は第一に運動強度、第二に継続時間で決定される。

3,ホスファゲン機構
主に短時間かつ高強度の運動(レジスタンストレーニング・短距離走など)においてA T Pを供給する。また全ての運動の開始時に大きく働く。
このエネルギー機構は、A T Pの加水分解とクレアチンリン酸の分解に依存する。
クレアチンリン酸がリン酸基を供給し、A D Pと結合することによりA T Pを補充する。
それを可能にする酵素がクレアチンキナーゼであり、A D PからA T Pの合成を触媒する。
A D P+C P←クレアチンキナーゼ→A T P+クレアチン
この反応は高速度でエネルギーを供給する。筋に貯蔵されているクレアチンリン酸は少量であるため、持続的な長時間の運動には不向きである。

4,A T Pの貯蔵
体内には、80〜100gのA T Pが貯蔵されている。だが運動に利用するには十分な量ではなく、基本的な細胞の機能維持のために枯渇することができない。実験では筋疲労により、運動前の50〜60%まで減少することがわかっている。これは、ホスファゲン機構がクレアチンキナーゼ反応により、A T P濃度の維持をしていることがわかる。
また、クレアチンリン酸の濃度はA T Pの4倍〜6倍高く、クレアチンキナーゼ反応により、急速なA T P補充の役割を持っている。さらに、クレアチンリン酸はタイプⅡ線維の方がタイプ1線維よりもクレアチンリン酸濃度が高く、無酸素性の運動中はタイプⅡ線維の割合が多い人の方が早く補充できる可能性がある。
A T Pの補充ができるもう1つの酵素がアデニル酸キナーゼ反応である。
2A D P←アデニル酸キナーゼ→A T P+A M P
A M P(アデノシン一リン酸)が解糖の反応を強力に促進する。

5,ホスファゲン機構の制御
ホスファゲン機構の反応は質量作用の法則に強くコントロールされている。
質量作用の法則:溶液中の反応物・生成物・もしくは両方の濃度が、その反応の方向性を決定する。
上記の式に双方向矢印があるのはこの法則のためである。A T Pの濃度がある一定量ある場合はクレアチンキナーゼ反応やアデニル酸キナーゼ反応は低下する、または逆に進む。
結果的に平衡に近い反応と呼ばれる反応となり、質量作用の法則に基づき反応物の濃度によって決められた方向に進む。

6,解糖
解糖とは、炭水化物を分解しA T Pを再合成することである。解糖が触媒する複数の反応が関係するため、ホスファゲン機構ほど速くはない。しかし、グリコーゲンやグルコースの供給がクレアチンリン酸に比べはるかに多いことからA T P供給能力は高い。解糖の最終性生物であるピルビン酸は2つの方向のうちいずれかに進む。
1,筋形質において、ピルビン酸は乳酸に変換する。
2,ミトコンドリアに輸送される。
1の場合N A D+の素早い再合成によりA T Pの再合成の速度は速い。それはH+の産生による細胞質のp Hの低下による。これを無酸素的解糖(速い解糖)と呼ぶことがある。
2の場合多くの反応があるため、A T Pの再合成の速度は遅い。だが、運動強度が低ければ長い時間再合成を継続できる。これを有酸素的解糖(遅い解糖)と呼ぶことがある。
解糖は酸素に依存しないため、無酸素や有酸素といった表現は正しいとは言えない。
これらを左右するのはエネルギー需要であり、エネルギー需要が高く、素早い供給が必要な場合は乳酸に変換され、エネルギー需要が高くなく酸素の供給が十分な場合はミトコンドリアに運ばれる。

7,解糖と乳酸の形成
ピルビン酸から乳酸の形成は乳酸脱水素酵素が触媒になる。この最終的な結果が乳酸の形成と呼ばれるがこれは間違いである。乳酸の場合、p Hが7付近であることや、解糖より早い段階でプロトン(H+)を消費することから、乳酸塩が生成物といえる。
筋疲労は乳酸の蓄積によるものではく、プロトンの蓄積によるp Hの低下が解糖反応を抑制されるためである。この運動によるp Hの低下を代謝性アシドーシスと呼ぶ。乳酸は代謝性アシドーシスの抑制方向に働くと示唆されている。また乳酸はエネルギー基質として、タイプⅠ線維や心筋で利用される。また糖新生(炭水化物以外からグルコースを形成)に用いられる。
湿重量(乾燥させていない水分を含んだ筋の重量)と血中の乳酸濃度は通常低い。筋の濃度は筋線維タイプにより異なり、タイプⅡ線維の方は乳酸が蓄積しやすい。これは、解糖に関する活性が高いためである。また、運動の継続時間・トレーニング状態・グリコーゲン量などが影響する。
乳酸は、筋細胞内で酸化によって処理されるだけでなく、血液中を運ばれて他の筋線維でも処理される。また、肝臓に送られてグルコースに変換されることをコーリ回路と呼ぶ。
また、血中乳酸濃度は。運動後に軽度の身体活動を行うことで乳酸除去の速度を上昇させることができる。特に、トレーニング(有酸素性・無酸素性問わず)を積んでいる人は乳酸除去スピードが速い。その上、トレーニング経験者はそうでない人に比べて、同一の作業負荷の場合血中乳酸濃度は低くなる。これは、乳酸が蓄積されにくいことを表している。だが、最大運動時は、トレーニング経験者の方が高くなる。高強度で間欠的な運動が乳酸を多く蓄積させるため、運動強度の違いであるといえる。

8,クレブス回路へ続く解糖
ピルビン酸がミトコンドリアに輸送されると、解糖の産生された2分子の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(N A D H)もミトコンドリアに輸送される。(還元:水素を付加すること)
ピルビン酸はアセチルCoAに変換されクレブス回路でA T P再合成する。
N S A D Hは電子伝達系でA T P再合成に使われる。
1グルコース+2Pi+2ADP+2NAD+→2ピルビン酸+2ATP+2NADH+2H2O

9,解糖のエネルギー産生
代謝時のA T P再合成には2つのメカニズムがある
1,基質レベルのリン酸化(代謝経路内の一つの反応で直接A D PがA T Pに再合成されること)
2,酸化的リン酸化(電子伝達系のA T P再合成のこと)
リン酸化とは無機リン酸が他の分子に付加すること。
解糖にはP F K(ホスホフルクトキナーゼ)が触媒する反応があるが、これにはA T P1分子の加水分解が必要である。グルコースの供給には、血中グルコースと、筋グリコーゲンがある。
血中グルコースの場合、グルコース濃度勾配を保つためにリン酸化が必要で、リン酸化にも1分子のA T P加水分解が必要である。
筋グリコーゲンの場合、グリコーゲン分解されすでにリン酸化されているため加水分解が必要ではない。
よって、血中グルコースからの解糖は、2分子A T Pを消費して4分子A T Pが再合成されるため、2分子のA T Pが再合成される。筋グリコーゲンからの解糖は、1分子のA T Pから4分子のA T Pを再合成するため、3分子のA T Pが再合成される。

10,解糖の制御
解糖の反応は、高強度の運動時にA T Pの加水分解が増加し、エネルギーの必要性が高まると促進される。一方で、制御される場合はp Hの低下やA T P、クレアチンリン酸、クエン酸、遊離脂肪酸の大幅は減少で起こる。また解糖系酵素であるヘキソキナーゼ・ホスホフルクトキナーゼ・ピルビン酸キナーゼはアロスティック結合部分を持ち、ここが最終生成物と結合し代謝回転率を制御する。これが、アロスティック阻害で、結果的に生成物の形成が遅くなる。逆にアロスティック促進は、酵素に活性化因子が結合し、代謝回転率が上がることによって起こる。
グルコースをリン酸化して反応するヘキソキナーゼは筋形質内のリン酸濃度が高いほどアクロスティック阻害を受ける。グルコースのリン酸化はP F K反応により代謝することになる。この過程が律速段階となり、P F K酵素が解糖の制御にもっとも重要になる。P F K
酵素はA T Pでアクロスティック阻害を受けるため、A T P濃度の上昇が解糖の制御につながる根拠となる。一方で、アクトスティック促進には、A M Pにより引き起こされる。

11,乳酸作業閾値(L T)と血中乳酸蓄積開始点(O B L A)
乳酸作業閾値:血中乳酸濃度が安静時濃度から急激に増加する運動強度・相対的運動強度のこと。エネルギー需要とエネルギー産生を合わせようとし、無酸素機構への依存度を上昇させていると考えられる。L Tは競技者で、酸素摂取量の70〜80%、トレーニングを積んでいない人で、50〜60%程度の運動強度にあたる。
血中乳酸蓄積開始点(O B L A):乳酸濃度の2回目の変曲点で、血中乳酸濃度が4mmol/L近くに達したところで起こる。
L TやO B L A付近、あるいはそれ以上でトレーニングすることにより、L TやO B L Aがより高い運動強度で起こるようになる。これはホルモン分泌の変化やミトコンドリア量の増加が挙げられる。これにより、最大酸素摂取量に対して、高い割合の運動強度で運動しても乳酸が蓄積しにくい体になる。

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