見出し画像

生体エネルギー論<パート2>

1,酸化(有酸素性)機構
酸化機構は安静時と低強度の運動時にA T Pを供給し、基質として炭水化物と脂質が主に利用される。これは運動強度が上がるにつれ、脂質から炭水化物に移行していく。またタンパク質は90分を超える運動の際に利用されていく。

2.グリコーゲンとグリコーゲンの酸化
1分子のグルコースの酸化で得られる。エネルギーの総量
過程 ATP産生量
遅い解糖
基質のリン酸化 4
酸化的リン酸化:2NADH(ATP3個) 6
クレブス回路
基質のリン酸化 2
酸化的リン酸化:8NADH(ATP3個) 24
GTPを通じて:2FADH2(ATP2個) 4
合計 40
血中グルコースから開始される場合は解糖でATP2個使用されるため合計38である。
NADHが用いるシャトル系で合計36になる場合もある。
FADH2は水素原子を電子伝達系に運び、ADPからATPを産生するのに使用される。
酸化的リン酸化はA T P合成の90%を占めることから、酸化機構のエネルギー変換の能力の大きさを示している。

3,脂質の酸化
酸化機構では脂肪も利用される。脂肪細胞に貯蔵されているトリグリセリドがホルモン感受性リパーゼ(酵素)により分解され、遊離脂肪酸が産生される、遊離脂肪酸は血液中に放出され筋線維に運搬され酸化される。トリグリセリドと酵素が筋内に存在し遊離脂肪酸の筋内の供給源となる。遊離脂肪酸はβ酸化により、数百のATP分子が供給される。炭水化物などと比較して脂質の酸化は莫大なATPを合成する。

4,タンパク質の酸化
タンパク質は、主なエネルギー供給源ではない。タンパク質がアミノ酸となり糖新生(アミノ酸がグルコースに変換される)からATP産生に関わる。短時間の運動ではなく、長時間の運動によりアミノ酸は酸化される。酸化されるものは主に分岐鎖アミノ酸である。

5,酸化機構の制御
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ:ATPによりアロスティック阻害される。
NADH・FADH2の生産:NAD+・FAD2+の量が十分に利用できない場合、クレブス回路の反応速度が低下する。
クレブス回路の最初の反応:グアニン三リン酸が蓄積すると阻害される。
電子伝達系:ATPに阻害される。

6,エネルギー生産とその能力
運動の継続時間 運動強度 主なエネルギー機構
0~6秒 非常にきつい ホスファゲン
6~30秒 かなりきつい ホスファゲンと速い解糖
30秒~2分間 きつい 速い解糖
2~3分間 普通 速い解糖と酸化機構
3分間以上 軽い 酸化機構
ホスファゲン機構・解糖・酸化機構のうち1つでエネルギーの供給をするのではない。関与する条件は、第1に運動強度、第2に継続時間である。

7,基質の消費の補給
生体エネルギー反応の出発物質となる分子をエネルギー基質と呼ぶ。
エネルギー基質:ホスファゲン(ATP、クレアチンリン酸)グルコース、グリコーゲン、乳酸、遊離脂肪酸、アミノ酸。
これらが必要に応じて消費され、エネルギーは減少する。運動中の疲労はホスファゲンとグリコーゲンの枯渇が影響している。他は枯渇することはない。生体エネルギー論はこの2つの消費と補給のパターンが重要である。

8,ホスファゲン
ホスファゲンの消費は、高強度の無酸素性運動が速く消費される。特にクレアチンリン酸は疲労困憊になる運動ではほとんど消費される。また外部に力を加える動的な筋活動はホスファゲンの消費が多い。
補給には、ATPが3分〜5分。クレアチンリン酸は8分以内に完全に再合成される。
ホスファゲン濃度に関して、有酸素性の持久性トレーニングが濃度上昇や消費速度に効果的だと考えられている。またタイプⅡ線維の肥大がホスファゲン濃度を上昇させる。

9,グリコーゲン
筋の貯蔵グリコーゲンは合計で約300〜400g。肝臓では約70〜100g。
この量は、無酸素性運動・有酸素性運動の後に適切な栄養摂取で増加させることができる。
グリコーゲンの消費量は運動強度と関係がある。筋グリコーゲンは中〜高強度、肝グリコーゲンは低強度の運動で重要なエネルゲー源となる。筋グリコーゲンの分解速度は最大酸素摂取量の相対的運動強度を高めると上昇していく。最大酸素摂取量の60%以上から筋グリコーゲンの重要度が大きくなる。
低い運動強度(最大酸素摂取量50%)では筋へのグルコース取り込みが少ない。血中グルコース濃度が保たれる。
最大酸素摂取量50%以上の運動が90分以上継続する場合。肝グリコーゲンを消費するため血中グルコース濃度が低下する。肝臓の炭水化物が減少し、酸化する炭水化物が減少することで最終的に疲労困憊に陥る。
レジスタンストレーニングでは、高強度で間欠的な運動で筋グリコーゲンの大幅な枯渇。
低強度であっても総仕事量が同じであれば筋グリコーゲンの消費量の絶対量は同じである。
しかし分解速度は他と同様、運動強度で決定される。

10,生体エネルギー論からみたパフォーマンス制限因子
ATP産生速度と産生能のランキング
運動 ATP・CP 筋グリコーゲン 肝グリコーゲン 貯蔵脂肪 pHの低下
マラソン 1 5 4〜5 2〜3 1
トライアスロン 1〜2 5 4〜5 1〜2 1〜2
5000m走 1〜2 3 3 1〜2 1
1500m走 2〜3 3〜4 2 1〜2 2〜3
400m水泳 2〜3 3〜4 3 1 1〜2
400m走 3 3 1 1 4〜5
100m走 5 1〜2 1 1 1〜2
円盤投げ 2〜3 1 1 1 1
1RMの60%でスナッチを繰り返す 4〜5 4〜5 1〜2 1〜2 4〜5
1=最も問題にならない制限因子。5=最も問題になる制限因子。
*筋疲労の原因やパフォーマンスの制限因子の研究は発展途上である。

11,酸素摂取量と運動への無酸素機構、有酸素性機構の関与
酸素摂取量:呼吸器系→循環系→組織(主に骨格筋)が利用。一連の能力の数値。
運動開始直後は、有酸素性機構のエネルギー需要はゆっくりと反応していく。そのため、無酸素性機構からエネルギー供給される。これを酸素借という。また、運動後は回復のために安静時以上の酸素を摂取する、これを、酸素負債・運動後過剰酸素消費(EPOC)・回復酸素という。EPOCは運動強度が大きな影響を与える。運動強度が高く、継続時間の長い運動が最大値に到達する。無酸素性運動の様式が与える影響は明らかになっていない。また高負荷のレジスタンストレーニングも大きな影響を与える。
運動を最大限に継続する際の無酸素性および有酸素性機構の寄与
運動継続時間(秒) 0~5 30 60 90 150 200
運動強度(最大に対する%) 100 55 35 31 データなし データなし
無酸素性機構(%) 96 75 50 35 30 22
有酸素性機構(%) 4 25 50 65 70 78
無酸素性機構の寄与は60秒までで、それ以上は有酸素性機構である。

12,トレーニングの代謝特性
適切な運動強度と休息時間を設けることで、競技に特異的なエネルギー機構が選択される。
野球など無酸素性パワーが必要な選手が、有酸素性のトレーニングでそのパワーを改善することは困難で、競技の特異性を考える必要がある。

13,インターバルトレーニング
インターバルトレーニングとは運動と休息時間の長さ、作業/休息比を定めてトレーニングすること。特徴として、強度が同じで持続的な運動に比べ、高強度で多くの仕事量を行うことができ、疲労は同等か少なくすることができる。
・インターバルトレーニングを用いた、エネルギー機構に特異的なトレーニング
最大パワーに対する% ストレスのかかる主な機構 典型的な運動時間 運動―休息時間比の範囲
90~100 ホスファゲン 5~10秒 1:12~1:20
75~90 遅い解糖 15~30秒 1:3~1:5
30~75 速い解糖と酸化 1~3分 1:3~1:4
20~30 酸化 3分超 1:1~1:3

14,高強度のインターバルトレーニング
高強度インターバルトレーニング(HIIT)は、高強度運動と間欠的な回復期を繰り返す。基本的にはランニング・サイクリングが運動様式の中心である。心肺と神経系の適応を引き出す効果がある。VO2maxの90%以上を繰り返すようにデザインされており、持久的トレーニングと同等の適応をする。それに、HIITは時間効率的が良い。
HIITの9つの変数
・毎回の課題サイクルの活動期の強度
・毎回の課題サイクルの活動期の継続時間
・毎回の課題サイクルの回復期の強度
・毎回の課題サイクルの回復期の継続時間
・各セットで行われる課題サイクルの数
・セットの数
・セット間の休息時間

15,複合トレーニング
複合トレーニングとは、無酸素性競技の選手に有酸素性トレーニングを実施すること。その逆(有酸素競技→無酸素性トレーニング)もある。
無酸素性競技の選手の複合トレーニングは、筋肥大が低減、最大筋力と低下、スピード・パワーの低下など、プラスになるエビデンスはない。また、筋力の向上を妨げる要因として、1,随意的活性化の急速は減少 2,慢性的に筋グリコーゲンのレベル低下により、レジスタンストレーニング中の細胞内シグナル反応が制限される。3,筋線維タイプが遅筋線維へ移行する。などある。
一方で、有酸素性競技の選手の無酸素性トレーニングは、VO2maxが低下せず、最大筋力やピークランニング速度、3kmタイムトライアルといったパフォーマンスの向上が起こる。
有酸素性トレーニングは運動後酸素摂取量の増加、乳酸の除去、クレアチンリン酸の再合成など効果があるが、無酸素性競技の選手にとっては逆効果の面があることを考えて、複合トレーニングを行うべきである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?