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生活保護の闇を追った 「ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う」藤田和恵 著、扶桑社


書評


 最後のセーフティネットと言われる生活保護。十分働けそうな人から、働けそうにない人まで様々存在する事は知っている。生活保護受給ができるようになった後、保護から抜け出すのはかなり厳しい。いきなり税金がかかるし、病院にかかるにもお金がかかるようになるのだ。なので、この本を読むまでは、生活保護で生活していくのは、さほど難しくないのだろうと思っていた。

 この本の内容はケーススタディが集まったものになっている。驚くことに、いかに生活保護を取得するのが困難であるか、取得したとしても無低と呼ばれる無料定額宿泊所に入らないといけない自治体が多いとのことだ。アパートの一室に数人で住まわされ、プライベートも全くなく、お金管理も自分で許されない。このような宿泊所は、ドヤ街の悪徳ブローカだけの問題と思っていたが、行政側も黙認というか、必要悪としているようだ。要は、行政も忙しすぎて、手が回らないのだ。社会福祉法で定められたケースワーカの配置基準を満たしていない自治体は7割もあり、そのケースワーカーも日雇いだったりする。斡旋するアパートがない、アパートを斡旋すると、敷金、礼金も補助せねばならず、無低の方が迎えにも来てくれるし、行政にとってもコスパが良いのだ。私の知っている範囲には、このような環境下の人は「多分」いない。
 では、対策はどうすれば良いのか。残念ながら、本書には具体的には触れられていないので、自分なりに考えてみた。

ベーシックインカムの導入

 生活保護に頼りたくないという、頑張る人ほど、路上暮らしを選択していることが本書にも触れられている。実際、生活保護者との収入の上で逆転現象が見られる例もある。そこで、ベーシックインカム。マイナンバーで紐付け、国民に一様に給付を行うことは、現在政府が施行している特別給付よりもシンプルだ。高額所得者には、給付を行った上で、所得税で調整を行う(今まで通りの累進課税で多くの税金を支払ってもらう)。

ベーシックインカムの利点

  • ベーシックインカムにより役所の仕事が簡潔になる。生活保護費は1/4が自治体、残り3/4が国の負担となっており、役所としても生活保護を簡単に受けられないようにしているのが現状。国や都道府県は「監査」を行い、より生活保護支給が少ない自治体が優秀とされるが、輩も絡んでくるような場で、役所員のストレスは半端ない。生活保護受給の取りやすさも自治体によって異なるので、生活保護が取りやすい自治体に保護者が集まっている。

  • 扶養照会による(三親等)、家族内のトラブル回避。扶養紹介によって、扶養することになった事例は0-0.4%。膨大な時間をかけて親族の調査をし、誰の得にもなってない。モラハラ家族に連絡が行くのを恐れ、生活保護の扶養照会は問題となった。この結果、2021年3月の厚生労働省通知で、本人の意向を確認すれば必須ではなくなった。

  • 今の生活保護制度では、働いて賃金を得れば保護費が減るため、働く意欲をなくしている。ベーシックインカムによって働く分だけ、自分の所得になれば働く人が増える可能性がある。

  • 生活保護を受給すると、所得税、住民税、医療費、国民年金も無料で、病院にいく場合の交通費も支給される。地方都市の場合、年収に換算すると、少なくとも手取りで約150万くらいになる。税金(所得税、住民税)、国民年金、国民健康保険などを勘案すると働いている人の年収180万くらいに相当する(ざっくりとした計算)。働いている人と生活保護受給の人の逆転現象が、かなり発生している。これに医療費が加わると、生活保護の人であれば受けられる医療が、低所得者であるために受けられない現状がある。

  • 生活保護受給者は、一緒に住んでいても(住んでないような形になっているが)内縁の関係の妻、夫という形態をとる。そうなると、二重所得で、年収300万というのもあり得ない話ではない。

  • 上記逆転現象のために、生活保護は受けたくないという気持ちや、生活保護受給者への社会的バッシングが発生しており、ベーシックインカムの導入によって、このような不公平感がなくなるのではないだろうか。

ベーシックインカムの問題点

  • 生活保護を受けている人は、もらえる金額が減る。これは、空き家や空きアパートを行政が買い取るシステムはどうだろうか。これから多数出ることが予想される空き家問題。これを行政管理として、生活保護受給者の住宅にする。民間委託にしても良いかもしれない。例えば、Village Houseでは格安に部屋を借りることができる。保証人として後見人制度を利用する。

  • 財源が足りるのか、そしてベーシックインカムの金額をいくらに設定するのか。

  • 生活保護の基準ってそもそもなんなんだという根本の問いに向かう必要あり。自治体によってもらえたりもらえなかったりするのは公平ではない。働きたくても働く場所がないコロナ禍では、多くの人が生活保護以下の生活を強いられた。

生活保護の取得方法

 これはあまり知られていない方法かもしれない。今まで国民健康保険を払ってない人でも、病気で入院になると、ソーシャルワーカーが行政に掛け合ってくれて、生活保護支給が開始になる例がある。扶養照会の問題が発生することはあるが、多くの人は、孤独で親族とは音信不通となっている。

 残念ながら、全例この方法でうまくいく訳でない。何らかの依存症、コミニュケーションが取れない、暴力的など問題のある患者は、そのまま退院となる(たとえ、病院側が住所ないことを把握していても、なす術がない)。

 膨張する社会保障費。貧困に対する解決策をこれからも提示していきたい。

ハザードランプを探して 黙殺されるコロナ禍の闇を追う、著者 : 藤田和恵、扶桑社、発売日 : 2021-09-01

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